1話 なんなら送ろうか?
「……んじゃ、俺たちはそろそろ帰らせてもらうわ。せっかくの機会だからもう少し此処に居たかったんだが……流石に、3ヶ月近く城を開けてるのはまずいしな」
「そうか。……それにしても、自分の城がぶっ壊された奴の目の前で城がどうとかいう話題を出すとか……お前、案外性格悪いな」
「それほどでもない」
「お前なぁ……つーか、そういうお前だって城壊してただろうが」
「んなこと言われても。あのくらいやらないとこっちが殺されてたんだから、その位は諦めてくれよ」
「それで、はいそうですかって割り切れれば苦労はしねえよ……」
イルネスの襲撃があってから、大体1週間後。
ジョーカー達は「折角各国の重鎮がいるんだから少し話がしたい」ということでしばらく帝国に滞在していたのだが、そろそろ帰らないとまずいということで帰ることになった。
そのため、俺は此奴らの出迎えに来ていた。とはいっても、テレポートで帰るため屋外ではなく室内だが。
なお、此処にいるのはジョーカー達の4人にフローレとウィード、そして俺とフィールとビアンカと美雪の計10人だ。
「……ではフローレさん。国へ帰られたら、あのことをよろしくお願いします」
「分かっています。貴方達の真意を国民へと伝えて、少しでも魔族への敵意を無くせるならば。それで、長い戦争に終止符を打てるのならば。私達としても、とても喜ばしいことですから」
この1週間の間に、ジョーカー達は自分達の意思を余すことなくフローレとウィードに伝えていた。
人族と争うつもりはなく、寧ろ共存を望んでいる。そして今は、それをさせまいとするスペディオ (はもういないが)と、その仲間をどうにかしようとしていると。
フローレ達にとってスペディオらは魔王軍の幹部であり、そのトップも当然人族と敵対しているものだと思っていたみたいだった。だから此奴らの話を聞いたときはかなり驚いていた。
まだこのことは世間には知られていないから、人族の魔族へ対する敵意は変わらない。けれどこのことを両国のトップが公表すれば、多分大きな影響を与えるはずだ。
それが良い方へ転ぶか悪い方へ転ぶかはわからないが……アダマースやフローレ達は、きっと良い方へ転ぶと信じているようだ。いや、多分この場にいる全員がそう思っている。
「……ミユキよ。妾の怪我を治してくれたこと、感謝するぞ。先日無理したせいで悪化してしまっていたからな」
「どういたしまして。あのくらいの傷なら治すのは簡単だから、幾らでも治してあげるよ」
「……内臓の損傷をあのくらいで済ませられるって、やっぱり何かおかしいと思うんだ。今更だけどね」
「それはまあ、ミユキさんですから。カイト様に比べたらまだマシなほうではありますけど、それでも十分人間離れしてますし」
「あはは……」
それと、今回の騒動が片付いてから知ったんだが……カルディアは、実は割と大きな怪我をしていた。
内容は……両腕の火傷に、肋骨数本の骨折に、内臓の一部の損傷。よくもまあそれで戦おうと思ったなというくらいの怪我だった。夢幻列島にいた時に負わされた傷らしい。
一応向こうで処置はしていたみたいで、大分治ってきていたらしいのだが……スペディオを前にして無理したせいで、また悪化してしまったとのこと。
話によると、城の復興作業を手伝っていた時に突然血を吐いたという。それを美雪が見つけて、再生魔法で完全に治したという感じだったらしい。その現場を見てないから、はっきりとはいえないが。
回復役がいないパーティは色々と辛い。それがよく分かるパターンだった。……ほんと、フィールと美雪がいてよかったわ、うん。
「……それじゃ、これ以上長居しても帰りづらくなっちまうだけだからな。アダマース。テレポートの詠唱頼む」
「はい、わかりました」
それからもしばらく会話を交わしていたが……ある程度した後に、ジョーカーはそうアダマースに指示を出す。
確かに、これ以上話し続けていても別れるのが若干辛くなりそうだ。多分、各々が話したいこと話し続けたらもう2、3時間はかかりそうだし。
アダマースの詠唱とともに、彼らの姿は光に包まれていく。距離が相当に遠いため、転移するまでには大分時間がかかりそうだ。だいたい30秒くらいだと思う。
「色々と面倒なことが積み重なってきてるが……それらが片付いたら、絶対に遊びに来いよ!」
「分かってる!そのときは、一緒に酒かなんか飲んでみようぜ!」
「あ、酒は胃によくねえからちょっと……」
「……まだ胃潰瘍なのか?いい加減直せよ」
「うるせぇ!!」
ジョーカーは転移する前にそう叫ぶ。酒が云々とかは適当に言ってみただけなのだが……思いの外面白い反応が見れた。此奴が胃潰瘍患ってたこと、すっかり忘れてたわ。
「それじゃ、またね〜!!」
「またなのじゃ!」
「ああ、またな!!」
そして、ジョーカーがそれ以上何か言う前にテレポートの魔法が発動したようで、フィオーリとカルディアが俺たちに向けて手を振ったのを最後にその姿は見えなくなった。
「……行っちゃったね」
さっきまで騒がしかったのに、こうして彼奴らが行っちまうと一気に静かになる。仕方がないとはいえど、もう少し一緒にいたかったな。
「だな。……んで。俺たちはどうする?正直、もうこの城でやることとか残ってないが」
「ジョーカーさん達も帰られた以上……ここに残る意味って、はっきりいってないんですよねぇ……」
そしてジョーカー達が帰っちまった今……ここに長居する意味は完全に無くなった。
帝国に来た目的に関してはスペディオとかの騒動が起きる前に片付いてたし、今回の事件での怪我人の治療とかはもう美雪が済ませている。強いていうなら復興作業が残ってるが、それが終わるまで付き合うつもりは全くないし。
確かに俺も大分壊したが (主に水蒸気爆発で)、それでもアレは仕方のない被害だ。そう主張したい。そもそも、それで壊れたのは全体の2割程度だし。残りは……イルネスが5割に、フィールが3割くらいだ。それも、イルネスが城に現れなかったら俺もフィールも暴れてないわけだし。イルネスの所為ってことにしておこう、うん。
とまあそういうことで、ここでやることはもう残ってはいない。道具の修繕とか作成とかもあるにはあるが、ここでやらなきゃいけないわけでも無い。
「……えっと、海斗くん。そういえば、次の目的地ってどこなんだっけ?」
「……王国だな。王都の近辺に、残ってる最後の試練があるし」
それと、次の目的地は一応王国だ。もともと帝国にいくか王国にいくかで悩んでいたのだから、帝国での用事が終わった以上王国に行くのは必然と言える。……思った以上に時間がかかったし色々とあったから、一瞬次の目的地がどこか忘れてたが。
ジョーカーたちが突然現れて、スペディオも現れて、イルネスまで現れて、そして最後にフィールにケイオスの力が宿ってるときたからな。そりゃ、頭が混乱しても無理はないと思う。
「王国……というより、私達の国にそんなものがあったのですか?初耳なのですが」
「ある筈だぞ。少なくとも、彼奴らの城で見た本にはそう書いてあった。3つ中2つは正しかったし、それも正しいと思いたい」
「そうですか……。誰も入れないほどに危険な場所はなかったと思ったのですが……」
一応、場所としては王都の近くなんだが……フローレは特に思い当たる場所が無いようで首を傾げている。でも、本に書いてあった通りなら交錯の大聖堂ほど分かりづらいわけではなかったんだが……本当に見つかってないのか、はたまたそうと知られてないだけなのか。
本に大まかな場所は書いてあったが……最悪、埋もれてたりしてな。そうなったら面倒以外の何物でもないから嫌だが。
「王女である貴女が知らないとなると、まず間違いなく存在が知られていないとみていいでしょう。大分特徴的なダンジョンなようでしたし、見つかっているなら比較的有名になっているでしょうから」
「特徴的、ですか?」
「ええ。なんでも、"100層以上ある超深層"のダンジョンで、"5階毎に帰還用の魔法陣があり"、入り口にある魔法陣から"到達した階層の魔法陣と行き来できる"とのことらしいです」
ビアンカがフローレに説明した通り、そこのダンジョンはかなり親切設計になっている。なんでも「純粋な力を試す場所」というコンセプトの元に作ったらしく、消耗戦になったらそれが出来ないからという理由でそうしたらしい。
情報元は製作者本人だから、嘘ではないはずだ。
まあ、そのぶん1階層毎の難易度は相当に高いとも言ってたが。
「えーと……ビアンカさん、その情報本当?」
「おそらくですけど。それが何か?」
「あはは、そっか……。なんか、心当たりがあるんだけど」
「あー……私もですね。……一応聞いておきますけど。そこのダンジョンの名前、『深淵の大空洞』とかだったりしますか?」
「……それですね。完全に」
だが。ビアンカが挙げたその特徴を聞いて、フローレと美雪の2人は急に様子が変わった。しかも、恐る恐るといった様子で言ったそのダンジョンの名前も完全に一致している。
どうやら2人とも、そのダンジョンのことは知っていたみたいだ。試練と関係があるということを知らなかっただけで。
「……行ったことは?」
「フローレちゃんは無いけど……私はあるよ。一時期修行してたのがそのダンジョンだったからね」
しかも、美雪はどうやらそのダンジョンに行ったこともあるという。もっとも、俺がいなくなってから再開するまでの間しか行ってないみたいだからそこまで深くは潜ってないとは思うが。まあ、よくて30層くらいだと思う。
「そうか……まあそれなら、ある程度買い物とかしてから王都にテレポートして、準備を整えてからそこに向かえばいいか。方向とかは覚えてるか?」
「バッチリだよ」
「そうか。それは助かる」
それでも、場所がはっきり分かってるのはありがたい限りだ。かなり手間が省けるし。
とりあえずこれで今後の方針は決まった。でもここで一つ気になることがあった。
それは、
「……お前はどうするんだ?」
「……えっ、あっ、私ですか?」
フローレが、これからどうするかということだ。
「ああ。俺たちは少し準備とかしたら王都までテレポートしようかと考えてるんだが……折角だから送ろうか?こっちでやる事が残ってるなら話は別だが」
テレポートは魔力を大分消費するが……4人が5人に増えたところで、俺の魔力量なら大した差はない。だから、送ろうと思えば普通に送れる。
「あー……お願いしてもいいですか?まともに帰ろうとしたら、相当時間かかるでしょうし」
「分かった。まあ、下手したら今日中にここを出るから早めに準備をしといてくれると助かる」
「分かりました」
フローレは少し悩んだ後、俺に送って欲しいと頼んでくる。そしてそれを俺は快く了承した。
「……決まりですね。それで、これからどうするつもりですか?」
「んー、そうだな。市場にでも行って、珍しいものでも無いか探してくる予定だ。王国と帝国じゃ、扱ってるものも違うだろうし」
「了解です。……今からですか?」
「そう考えてる」
少し前に、フィールと2人で街は見て回ったが……改めて見れば、掘り出し物もあるかもしれない。あの時はあまり時間もなかったしな。
それと、今回はビアンカと美雪も連れて行く予定だが……正直なところ不安しかない。
フィールと一緒にデートしてた時騒動を起こしていたこの2人と一緒にいたら、俺たちまでそれに巻き込まれそうな気がするからだ。
でも、だからといって「お前らは来るな」とか言ったら絶対に拗ねるし。
「……"今回は"騒ぎは起こすなよ?」
「いや、あれ私達のせいじゃなーー」
「起こすなよ?」
「あ、はい」
俺は一応、2人にそう強めに言っておく。此奴らがわざと騒動を起こした訳じゃないのは知ってるけど、言わないよりかはマシだと思ったからだ。
「……不安」
「本当にな」
フィールのいうとおり、不安でしか無いが……まあ、どうにかはなるだろう。
「……んじゃ、ちょっくら行ってくるわ」
「あ、ああ……。なんか、口を挟む余地すらなく話が進んでてちょっと困惑してるんだが……」
「諦めろ」
今は昼頃。長く見積もって、見て回れる時間は6時間くらいだろう。帝都はとにかく広いから、それでも時間が足りないかもしれない。
でもまあ、全部を網羅するとかそんなことはしないから多分大丈夫だろう。
……問題さえ起こらなければ、だけど。
そんな不穏なことを考えつつ、俺たちは城を後にした。
第6章スタートです。
王国領編その2なのに、場面が帝国になってますが……まあ、それに関しては申し訳ありませんとしか言えませんね。もう少しスムーズに進めて、この話の内に王国行く予定だったんですが……この流れだと、下手すれば王国行くのに2話くらい使うかもしれません。
章始めって、どこから書き始めたらいいか分からなくてなかなか難しいんですよ。いやほんとに。




