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28話 その病は悪夢の如し

 イルネスはフィールに向けて手を翳すと、落ち着きはらった声で聞いたこともないような詠唱を始めた。


「……(いにしえ)の大地を滅ぼさんとした、黒霧の風よ。遥かなる時を経て、今此処に姿を現せ」


 イルネスの声に応じて、フィールの周りに黒い瘴気が現れ始める。現れ始めたといってもその濃度は薄く、良く目を凝らさないと見えるものではない。

 

 それが何なのかは断言できないが……ある程度なら、それが何かは予想ができた。


 イルネスの持つ力は、「病を操る能力」だ。そう考えれば、これはその「病」に関連する何かである可能性が高い。


 もしもこれが細菌とかウイルスとかの類だったら、流石に量が多すぎるとは思うけど。視認できる時点でそれはないと思いたい。


「犯し取り憑き朽ち果てさせ、数多の命を奪いし奇病よ。今は亡き負の遺産よ。災いを再度、この地にもたらせ」


 ……というより、なんか詠唱の内容がもの凄く物騒なんだが。今しっかり「命を奪いし」って言ってたし。本当に、殺したりはしないんだよな?


 ……この瘴気を鑑定したりとかしといたほうがいいんかね。


 という事で俺は一応鑑定を試みた。結果を先に述べると、フィールの命に影響するようなものでは無かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ナイトメアフライト (亜種)

分類 ウイルス

危険度 神話級

説明

この世にあってはならない、絶望の具現化とも言える災厄の疫病。感染した者はまるで眠りについたかのように意識を失い、そして食事も取れぬまま栄養失調に陥り衰弱死する。潜伏期間が恐ろしい程に短く、感染してから1分もあれば症状が出始める。さらに生命力と感染力も強いため広がる時はあっという間に拡散していく。また、動物ならほぼ全ての種に感染する。


 しかしそれは原種の話であってこの亜種は感染力も生命力も低く、発病したところで2、3時間もあればウイルスが死滅するので栄養失調になるまでには至らない。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 一瞬背筋がゾッとしたが、後半の説明を見た時はひとまず安心した。そもそも、神話級の危険度のウイルスって一体何なんだよとか言いたいがそれは追求したらいけない気がした。


 もしも、イルネスがこれの原種とか散布したら……人類滅びるよなぁ。よく助かったなぁ、この世界。


「忘れ去られし死の霧よ、今ここで猛威を振るえ。それは比類なき悪夢の如く」


 そしてその神話級にやばいウイルスは、イルネスの声に応じてフィールを取り囲み舞い上がる。


「「「「「「「「「ォォオオン!!?」」」」」」」」」


 その舞い上がる瘴気を見て、フィールは戸惑ったような声を上げる。人の声じゃなくて龍の声だから本当にそうかは分からんが。


 フィールはその瘴気を羽ばたきで吹き飛ばそうとしているが、いくら羽ばたいてもそのウイルスはフィールの元から離れない。一体どんな原理なんだ?


「「「「「「「「ォォオオオオン!!!」」」」」」」」」


 しかも炎のブレスで燃やし尽くそうとしても、氷のブレスで凍りつかせようとしてもそのウイルスが消えることは無かった。いや、本当にどんな原理なんだこれ。


 そしてそれからすぐあとに、


「「「「「「「「ォォオン……!」」」」」」」」」


ウイルスの影響が出始めたからか……フィールの上げる咆哮から徐々に力が失われていく。


 先ほどまで吐いていたブレスは弱々しくなって消えていき、足元も何処かおぼつかない様子だ。

 

「深い深い眠りにつきなさい」


 『うぅ……』


 ドサァァン……。


 イルネスがそう言ったすぐあとに、フィールはバランスを崩して床へと倒れこんだ。


 初めはもがいていたが次第にその勢いも弱くなっていき、そして遂にその動きは止まる。


「フィー「あ、今行くと君も感染するよ?」っと、危なっ!?」


 俺はそんなフィールの元へ駆けつけようとしたが……イルネスがさらっと言ったその言葉を聞いて急いで踏みとどまる。


 今すぐにでも駆けつけたいのはやまやまだけども、ミイラ取りがミイラになるのは本末転倒だしな。


「幾ら私でも、あの量のウイルスを操るのには少し時間がかかるからね。……よし、もう行っても大丈夫だよ」


「お、おう……」


 少し経った後、イルネスからそう言われて俺は改めてフィールの元へと駆けつける。


 未だに龍の姿のままだが……別段苦しんだりはしていない様子だ。鑑定の説明にあった通り、パッと見ただけでは寝ているようにしか見えない。


 取り敢えず、一安心だな。


「フィールさんっ!カイト様っ!」


「お前ら無事かっ!?無事なら返事をしろ!!」


 フィールの無事を確認したのとほぼ同時に、フィールが現れた場所と同じところからビアンカ達も姿を見せる。……想像はしてたけど、誰1人として逃げてなかったのか。


「ああ、一応無事だ!」


「ほっ、良かった……」


 俺が大声で大丈夫だと伝えると、安堵の声が上から聞こえてくる。……いやまあ、あくまで"一応"なんだけども。


 剣持ってた方の腕は未だに感覚無いし (もしかしたら折れてるかも)、義手の方は動作が大分おかしいし。命に別状はなくても、両腕ともに結構な被害は受けてるんだよな。


まあ、ビアンカ達はまだ上にいて距離が離れてるからそこまでは気付いていないんだろう。


「……ところで。そちらにはお主達以外の姿が見えぬが……イルネスとやらは、一体何処へ行ったのじゃ?」


「……えっ?」


 だが、そんな事を考えていた最中……カルディアの一言で、俺は驚かされることになった。


 ついさっきまで、イルネスはすぐ近くに居たはずだ。なのに、上からその姿が見えない?


 俺は急いで先ほどまでイルネスがいた所へ振り返る。



 しかしそこには、イルネスの姿は無かった。


「……っ!?」


 まるで初めから誰もいなかったかのように、イルネスはいつの間にかいなくなっていた。気配すらも感じず、誰にも気付かれないうちに。


 投げていた薙刀もしっかり無くなっており、イルネスがいた痕跡は此処には残っていなかった。


「その様子じゃと、もう此処にはいないようじゃな。……まあとにかく、2人とも無事でよかった」


 俺以外被害という被害は受けてないみたいだから当初の目的は達成したものの……あんなのが知らないうちに消えているというのは、底知れぬ怖さがある。


「今下に行くね。……よっと」


 美雪達は足元に注意しながら俺たちのいる所へと降りてくる。酷い状態になってるとは言えど、慌てるような場所でも無いので全員が何事もなく着地した。


「……カイト様。その義手、もしかして……」


「っ、海斗くん!?その腕、折れてるように見えるんだけど!?」


 そしてそこで、ようやくビアンカと美雪は俺の状態に気がついたようだ。


 というより、やっぱり腕折れてるんだな。なんでか痛みがないから分からなかったんだけども。


「待ってて、今治すから!」


「ああ、頼、む……?」


 俺は美雪に再生魔法を使ってもらうように頼もうとしたのだが……その途中で、急に意識が遠のいて行く。


 多分、イルネスに呼び止められる前にあの範囲内に入っちまってたんだろうな。「症状が現れるまでの時間には個人差があります」って奴だ。


 さっきミイラ取りがどうとか考えてた割には、とんだ間抜け具合である。


「っ、海斗くん!?どうしたの!?しっかりして!」


「……すまん、ちょっと寝るわ。後は頼ん……だ……」


 俺は美雪にそれだけ伝えると、薄れ行く意識を手放す。その感覚は、確かに眠りにつくのに凄い似てた。


「おい、クロノ!しっかりしろ!クロノ、クロノォーッ!!」


「カイト様っ!諦めないでください!もしも貴方が死んだら……」


 完全に意識が途切れる前に、周りが色々と言ってるのが耳には入ってきていたが……俺がそれに答える前に、俺の意識は完全に闇へと沈んだ。

 


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 海斗が倒れたその頃……。


「うーん、この後どうしようかな……」


 イルネスは、何食わぬ顔で城下町を歩いていた。


 城が突如として壊れて多くの人が慌てふためく中、たった1人冷静な彼女は側から見たら違和感しか感じない。


 もっとも、まさか城を壊した張本人だとは誰も思わないが。


「今から戻っても戦えるような状態じゃないし、お店はみんな閉まってるし、かといってこのまま意味もなく歩き回るのも面倒だし。……はぁ」


 その壊した張本人は全く反省していない。彼女のせいでパニックを起こしてる人を気にもかけず、退屈そうな眼差しで辺りを見つめていた。


「……次、あの子達が何処に行くつもりなのか聞いとくべきだったかな?海斗君のこともフィールちゃんの事も、色々と気になるからね」


 若干後悔しているような声で、イルネスはそんな事をポツリと呟く。きっと、海斗とフィールがその言葉を聞いていたら恐怖に襲われていた事だろう。できる事なら、関わりたくない相手なのだから。


 行き先が知られていない。それは今の海斗達にとっては数少ない救いだった。


 だが。その救いも意味を成す事は無かった。


「……そう言えば、初めて海斗君に会った時にいたあの金髪の子……。確か、王国の王女だったような気がするなぁ。それなら、次行く先は王国?」


 海斗達がこの城下町でイルネスに出会った時。その時は、フローレも一緒に行動していた。


 そしてそのフローレの存在から……憶測ではあったものの、彼らが次行く先は想像がついてしまったのだ。


「なんだかんだで、王国にはここ数十年行ってないし……折角だから、王国観光でもしようかな。もしかしたら、ハンにも出会えるかもしれないし」


 イルネスはそう結論を出すと、城を背にしてゆっくりと歩き出す。


 行き先は王国。彼らが次に向かう場所。


 彼らの不運は、まだまだ終わりそうに無かった。

作者「ねえ知ってる?」

海斗「……何がだ?」

作者「君って、戦った後に意識を失うことが多いんだよ?具体的に言うと、夢幻列島の脳筋ゴリラ戦の後が1回目、フェニキシアが2回目、大きく飛んでフィールヒュドラモードで3回目、今回のイルネスので4回目。気絶してばっかりだね」

海斗「……それ、戦った後の展開がうまく思いつかなかったから気絶させて曖昧にしたっていうお前の横着が原因じゃ……」

作者「あ、そうそう。あと1話か2話で多分第5章終わるから」

海斗「話を逸らすためだけにそんな重大な事をサラッと言うな!!」

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