27話 狂った天使の暇潰し
「暇……潰し?」
「うん、暇潰し。別にいいでしょ?」
イルネスは、妖しげに微笑みながらそう言ってくる。内容だけなら何も怖がる事はない。
でも俺の勘が告げていた。このままここに居たら、タダじゃ済まないと。どういう事になるかまでは分からないが……あの薙刀を構えてる以上、此奴にとっての「暇潰し」というのはそういうことなんだろうな。
「……一応聞いておくが、お前の言う暇潰しっていうのは、暇潰しとかじゃねえよな?」
「まさか。私の言う暇潰しっていうのは、暇潰しの事だよ」
「……闘わないっていう、選択肢は?」
「そんなのないよ。だって、闘うのが1番楽しいじゃん。常識でしょ?」
「それも聞いた事ねえよ」
イルネスが言うには、殺し合いをするわけじゃないとの事だが……闘うと言う事は決定事項なようだ。どうせ拒否権はねえだろうし、逃げるのも無理だから承諾するしか選択肢はない。
模擬戦って言っても相手が相手だから五体満足じゃ済まないだろうな。……事故で死んだりしないといいけど。
「昔……大体千年位前かな。あの時はまだ私に挑んでくるような者達もいたんだけど、時が経つにつれてそういうのはいなくなっちゃったんだ。「アレには絶対に勝てない」っていう意識が根付いちゃったみたいでね。そのせいで、ここ数百年はまともに戦えてないんだよ」
「そんなに戦いたいなら、もう2人の天使とでも戦ってたらどうだ?俺みたいな弱い奴と戦うよりは数倍マシだろ」
「……リークはカタブツだからそういう遊びには付き合ってくれないし、ハンはそもそも自由奔放すぎて居場所分からない。要するに、どっちも無理だね。もしもできるなら君に頼んだりはしてないよ」
「……そうか」
しかも、俺と戦いたいと言っている理由は他の2人が戦ってくれないからだと言う。とんだとばっちりじゃねえかよ。というより、今の呼び名どっかで聞いた気が……?
「とまあ、そういうわけだからさっさと始めようよ。そろそろ私も我慢の限界だし」
イルネスは薙刀を構えなおしながら、気楽そうにそう言う。こっちの沈みきった心情とは正反対だ。……まあ、戦いたいって言ってる本人が気を落としてる訳がないんだけども。
というよりも、このまま戦いになるのはかなりやばい。だって、まだ此奴とどう戦うかを考えてなーー
「それじゃあ……行くよっ!!」
「ちょっ!?待っーーッ!!!?」
ガキィィインンン!!!
だがイルネスは俺の思いなど知ったことではないようで、そう言いながら猛スピードで薙刀を俺の脳天めがけて振り下ろしてきた。
模擬戦と言っていた手前打ち付けて来たところは刃のない方だったが、それでも勢いは凄まじい。
なんとか剣でそれは防げたが……物凄い衝撃が俺の腕に襲いかかった。
「っ、や、殺る気まんまんじゃねえかぁ!!」
「この程度じゃ君は死なないでしょ?ほらほら、次行くよ!」
力で打ち勝つのも受け流すのも無理だと判断して、俺は反動に任せて後ろへとジャンプする。そして空中にいる間になんとか体勢を整える。
それでもダメージは抑えきれておらず、特に薙刀を受け止めた腕は感覚が曖昧になってしまっていた。
……はっきり言って、もうすでにピンチだ。やばい、マジでやばい。
しかも、そんなやばい中でもイルネスはもうこっちに向けて跳躍して来てるしな。ふざけんな!って面向かって叫びたいくらいだ。
「ぉぉおおお!!」
ドゴォォォオオオン!!
「うおっと!危ない危ない」
そんなイルネスのすぐ真横を、俺は縮地を使って通り抜ける。当たるかな?という希望を込めて剣がイルネスを掠めるように構えていたのだが……まあ、当たらなかった。
でも、俺はその回避方法にすごく文句を言いたい。
「げほっ、げほっ……。それは、棒高跳びの棒かなんかか!?」
イルネスは振りかぶっていた薙刀を手前で振り降ろすと、それを使って棒高跳びのように飛び上がったのだ。そのせいで床は余計に崩れ、もう玉座の間に立てるような場所はない。今だって、もう下の階に落ちてるし。
取り敢えず、こいつは地形や建造物が壊れることに関しては全く考慮しないってことがわかった。……まあ、仮にも"地獣神"だから足場が悪くても自在に動けるってことなんだろうな。もっとも、俺もスキルで飛ぶだけだからあんま差はないけど。
今イルネスは飛び上がってるから、着地まで若干時間がある。天使だから飛べてもおかしくないけど、今の所飛ぶ気配は見せないからこっちに反撃のチャンスが出来た。
でも着地狩りなんて危なっかしい真似はとてもじゃないが出来ない。というより、自分から接近したくない。
かと言って遠距離攻撃でも、ブレスのような「一方向からの」範囲攻撃じゃ薙刀でそのブレスごと引き裂かれそうな気がしてならない。
だから、ダメージこそ入るか怪しいが……俺は、数少ない広域範囲攻撃を使うことにした。
今ならフィール達もいないから、巻き込むことはないだろうしな。
「おらっ!そして『ファストクリエイト』!」
俺はアイテムボックスから……水入り瓶を取り出して、それにファストクリエイトを使用する。
中の水には何のエンチャントもされてないから、これは名実共にただの水だ。でも、そんな水でもある事をすれば立派な武器には出来る。
俺は水からある2つの物を作り出す。本来なら、そこそこに強い"電気"が必要だが……俺のこのスキルを持ってすれば、そんなものは必要ない。
科学の知識がそこそこある奴なら分かるとは思うが、俺がやったのは「水の電気分解」だ。
出来るのは、酸素と"水素"。そしてこの2つは、混ざった状態で火をつければ……
「ーーー爆ぜろっ!!」
「!!これは……」
ドォォオオオオオオオン!!!!!
……大爆発が引き起こる。魔法関係ないただの物理現象だから威力の程はお察しだが、そのぶん不意はつけたと思う。あ、着火に関してはボックスから火炎結晶とりだして投げたし、こっちの防御に関しては結界も貼ったからこっちには被害はない。
でも俺の予想よりも大きな威力が出たみたいで、城の一角がまたも崩れ落ちていく。そしてそのせいで視界が相当悪化してしまう。
「……っ!」
「あははっ、この程度でやられるとは思わないでよっ!」
それからすぐ後、イルネスは土煙を引き裂きながら姿を現した。大したダメージは負ってなさそうだが……僅かに服が焦げてるから、多分避けきれなかったんだろう。
まあ、あの規模の爆発を「見てから回避余裕でした」とか言われたらマジで打つ手がないんだけども。
「はぁあ!!」
バキィン!!
「ちっ、クソがっ!」
イルネスがまたも振り下ろした薙刀は、今度は俺の張った結界へと激突する。
大量の魔力を加えたわけじゃないからそこまでの強度は無いにしても、1発目で粉々に粉砕されるのは想定外だ。一応、俺でも1発じゃ壊せない程度の硬さはあったんだぞ?
……こりゃ、後先考えずに出力全開で行かなきゃ無理そうだな。
「っ、ぉおおおおお!!!」
キィィィィインン!!!
「おっ、いいねいいね!!楽しくなってきたよ!!」
俺は身体強化をフルで発動させ、イルネスに接近する。スキルレベルが12だから、今のステータスは通常の2.2倍。これでダメだったら……もう、どうしようも無い。現状考えられる限りでも、これが俺の……いや、俺たちの出せる最高威力の攻撃だし。
だがその俺の全力の一撃すらも、イルネスは笑顔を浮かべながら受け止めた。迫合いにはなってるけど、押し切ることは到底無理そうだ。
「そらっ!」
「ーーっ、はっ!」
このまま鍔迫り合いが続くと思っていたが、イルネスは突然力を抜き俺の剣を受け流そうとする。なんとかそれに反応出来たからこちらも力を抜いたものの、あのまま続けていたら相当やばかった。
「ふっ!」
キィン!
「くっ……」
現に、イルネスはもう攻撃に転じて来ている。柄の方を前にして槍のように突きを連打しているだけだが、その速度もかなり早い。
具体的には……突きを放った瞬間に、その方向へ衝撃波が飛ぶレベルだ。しかも、その衝撃波も石壁程度なら容易に砕ける威力は有る。
当たったら致命傷……とまでは行かないだろうけど、ダメージは大きいだろうな。
つまり後方への回避は不可能。単純に横に避けようにも速度が早いため間に合わず、剣で弾く動作も加えないと躱しきれない。
それでも俺は躱し続けていたが……その途中で、ミスを犯してしまった。
ガキィン!
「っ、しまっーー」
イルネスの突きにより、俺の持っていた剣が弾かれ……その剣は、宙へと浮かび上がる。
戦いの場で剣を失うのはどう考えてもアウトだ。それに、アレが無いとこいつの攻撃は抑えきれない。
「ふふっ、隙ありっ!!」
「くっ……らぁぁあああ!!!」
イルネスはそんな俺目掛けて、薙刀を持ち替え始めの時と同じように振り下ろしてくる。剣は無いから受け止めれないし、足場も壊滅的だから縮地も直ぐには使えない。
……でも一応、その場しのぎの策がないわけじゃない。
俺は体制を無理やり直してから、大分前に作った大盾「バスティオン」を前方に構える。
材料はオリハルコンだがファストクリエイトをつかって作ったせいで防御力は10%ほど下がっているし、エンチャントの方も属性攻撃の軽減ばっかだから物理攻撃に対してはそこまで強くはない。だから多分、イルネスの攻撃を耐えきることは出来ない。
ただ直撃を防ぐためだけの、文字通りの「その場しのぎ」だ。
ミシィィィィイイイ!!
「ぐっ……!」
俺の予想通り……イルネスの振り下ろした薙刀が盾に触れた瞬間に、盾に蜘蛛の巣状のヒビが入った。そしてそれと同時に、俺は盾ごと後方へと吹き飛ばされる。
「っ、はぁ、はぁ……ちっ、案の定1発でお陀仏か」
盾の表面を見てみればイルネスが叩きつけたであろう場所は大きく欠けており、同じところにもう一度攻撃が当たれば簡単に砕けそうな状態になっていた。予想していたとはいえ、自信作でさえ使い捨てにせざるを得ない状況っていうのは結構まずい。
「隙見てもう一回武器作るなりなんなりしないと、どうしようもねえが……!やっぱそうはさせてくれねえよなっ!つーかそれ投げるか普通!?」
でも、あのイルネスが相手をぶっ飛ばしてそこで終わりなんて言うはずがなかった。当然、追撃は警戒していたのだが……
俺の視界に入ってきたのは、高速で回転しながら飛んでくる薙刀だった。
基本的に、武器は投げるものではない。一応投げナイフとかも有るけど、あれは数を用意してあるから投げられるものであって、一つしかない武器を投げることは愚かとしか言いようがない。
でも、今の俺にとってはその愚かな攻撃は嫌になるくらい効果的だった。
今回イルネスが投げてきた武器は薙刀。さっきから刃のある方は使ってなかったが、ちゃんと刃が付いている武器だ。
それに対してこちらは素手。一応左腕は金属製の義手だが、あの薙刀がなにでできているか分からない以上受け止めきれる保証はない。
しかもかなりの速度で回ってるからそもそもうまく弾いたり受け止めたりできるかどうかが分からない。
それでも受け止めるのを成功させなければ、まず間違いなく無事では済まないだろう。
だから、
「うっ、おおおおおお!!!」
ビキィッ!!!
俺はその薙刀を、左手の義手で受け止めようとした。
運良く薙刀は掴めたものの、その重量は考えられないくらい重く……その威力も、同じく考えられないくらいに強かった。
義手は細かい部分 (指が何本かとその他いろいろ)が砕け、回路も若干いかれたからか思うように動かなくなる。攻撃は受け止めれたが、それでもかなり大きい代償だ。
イルネスも武器を手放したが、今俺がまともに使えるのは右手のみ。これじゃあ、もうまともに戦えはしないだろうな。……終わったな、こりゃ。
「……この模擬戦に、降参ってーー」
これ以上戦うのは無理だから、俺は駄目元で「降参って出来るのか」と聞こうとした。
だが、その瞬間……そのセリフは、掻き消された。
「「「「「「「「「キュォォォオオオオオオンン!!!!」」」」」」」」」
「っ!?」
「……これは……?」
フィール達を送り届けた書庫の方から、聞き覚えのある咆哮が響き渡る。それは、帝国領に入る前に聞いた……フィールの咆哮に他ならなかった。
なんでフィールが龍化したのかは分からないが……少なくとも、感じる気配はあの時よりも若干強い気がする。つまり、前回よりも事態は悪いみたいだ。
あの時は、強い怒りから龍化するに至ってたけど……今回は、何がフィールを龍化させるに至ったんだ?
と、そんなことを心の奥で考えていると
ゴォォオオオオオオオオ!!!!
という音と共に、黒色のレーザーが俺たちのいるその上を通過していく。ちょうど、俺たちが最初の頃あたりにいた場所か?イルネスが床壊しまくったせいで大分下の方に移動してるからよく分からんが。
「「「「「「「「「ォォオオオオン!!!!」」」」」」」」」
そしてそれから間も無く、レーザーが飛び出した辺りから完全に龍化しヒュドラとなったフィールが姿を現した。明らかに、まともじゃない様子だ。
フィールは首の一つをこちらに向け俺たちを認識すると、翼で羽ばたく事すらせずに俺たちがいる方へと飛び降りてくる。
ドゴォン!!
飛び降りた衝撃はそこそこ強く、またも城が一部崩れたが、フィールは一切気にしていない様子だった。
「「「「「「「「「……キュルルルルォォォォォォオオオオオオオオオオオオオンン!!!!!」」」」」」」」」
フィールは一瞬だけ俺の方を見ると直ぐにイルネスのいる方へと振り向き……そして、天まで轟くかと思う位力強い咆哮を上げる。
イルネスを射抜いているその視線は……強い敵意に満ちていたが、どこか恐怖を抱いているようなようにも感じられた。
「……あの時君と一緒にいた、龍神の娘だよね?」
「……ああ。どっからどう見ても、暴走しちまってるがな」
イルネスは落ち着きはらった様子で、俺にそう聞いてくる。もしそうならどうする気だと聞きたい気持ちはあるが、今はそんな余裕はない。
だが幸い、俺の恐れてるような事にはならなさそうだった。
「そっか。……多分暴走した原因は私にあるだろうから、今回は責任を持って私が止めるよ。あ、当然傷つけたりはしないから安心してね」
イルネスの言う通りに安心なんかは出来ないが、「殺すつもりがない」というだけでこっちとしてはこの上なくありがたい。何せ、もしそう言われたらもう時間稼ぎすらできる状態じゃないからな。
イルネスは、先ほど放り投げた薙刀を拾う事すらせずにフィールの前へと躍り出る。フィールはそのイルネスを殺気全開で威圧してるが、イルネスは気にも留めていない様子だ。
「「「「「「「「「……ォォオオオオオオン!!!」」」」」」」」」
それを見てフィールは殺気を放つのを止め、今度はイルネス目掛けてあのレーザーを放射した。
だが、それはイルネスに届く事はなかった。
「……やっぱり、まだまだ浅いね」
「「「「「「「「「ォォオオオン!!!」」」」」」」」」
イルネスはそのレーザーを、片手で受け止める。威力は凄まじいようで突き出している方の腕はみるみる傷ついていくが……それでも、イルネスは動かない。
フィールはそれを見てレーザーの勢いを強める。しかしそれでも、レーザーはイルネスの手で確実に止められていた。
それから少し経った後、そのレーザーの勢いが急激に弱まっていく。
あのレーザーは威力こそ強いがそのぶん消費するエネルギーも相当多いようで、今ので大分エネルギーを使ってしまったのだろう。
フィールは息を荒くしているが、イルネスは息一つ乱していない。その時点で、今のフィールの全力を持ってしても此奴に勝てないというのは明白だった。
「……じゃあ、今度はこっちから行かせてもらうよ」
そしてイルネスはその余裕そうな表情で……フィールにむけて、そう言い放った。
イルネス「サブタイトルで「狂った天使」って書かれてるけど……私、別に狂ってはないと思うんだけど?」
作者「いやいや、充分狂ってるでしょ」
イルネス「どの辺が?」
作者「だって戦闘"狂"だろ?」
イルネス「……否定できなかった」




