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26話 分からない分からないわからないワカラナイ……!!

「なっ……ここはっ!?」


「……書庫、じゃな。どうやら彼奴に飛ばされたようじゃの」


「わわっ、どうしたんですかいきなりっ!?」


 フィール達は図書室に飛ばされた後、三者三様な反応を見せていた。


「彼奴っ!一体何考えてんだ!?」


「どうしよう、早く戻らないと!」


「おいおいおいおい、一体何がどうなってんだ!?」


 

「……」



「……ぅ、ぁ?」


 ビアンカにジョーカー、フィオーリとウィード、それと書庫で待っていたフローレは驚き、フィールとカルディアはまだ落ち着いており、アダマースは……顔色を悪くして、明らかに怯えていた。


「くそっ、カルディア!アダマース!フィオーリ!今すぐ元いた場所に戻るぞ!」


「まあ、そうしたほうが良さそうじゃな。……アダマース、おぬしも突っ立ってないで……ふむ?」


 ジョーカーはカルディア達を連れ出して海斗達の元へと行こうとするが……そこでようやく、アダマースの様子に気がつく。


 普段冷静であまり動じたりしないアダマースが、気が動転しているでは済まされないほどに怯えてる姿に。


「ど、どうしたの!?大丈夫!?」


「……ぁぅあ」


 フィオーリが心配しながら声をかけても、まともな返事は返ってこない。反応は見せているので、気がついていないわけでは無いようだ。


 あまりの恐怖に、声も出せないというのが1番しっくり来る状態だろう。


「……『星光』」


 フィールはしばらくの沈黙(海斗との念話)の後、怯えてるアダマースの姿を確認してそれを元に戻せる美雪に対して回復魔法を行使する。


 気絶しているだけだったが、彼女も心の中では動転しているようでその魔法の強度は気絶回復させるためにしては少々過剰だった。


 具体的には、光魔法レベル1の魔法でも充分なのにも関わらず彼女が今行使したのは光魔法レベル7の魔法である。


「ぅ、ううん……?」


 だが、"少し"過剰な程度では体に悪影響は無かったようで、美雪は直ぐに目を覚ました。


 まるで寝ぼけたかのように辺りを見回し、状況が分からないようで首を傾げている。


「あれ?私、確か死んだ人の蘇生を……?」


「……実は……」


 そんな美雪に、フィールは今の状況を簡単に説明する。そしてそれを聞いた美雪は、


「はは、早く海斗くんのところに行かないと!」


 ビアンカ達と同じように慌て出す。自身の失態が原因だと分かった直後なので、余計に動揺してるのだろう。


「落ち着いて」


「いたっ」


 だが、慌てていても役に立たないということでフィールは美雪にデコピンをする。龍化こそしていないため普通のデコピンだが、割と力を込めたからか結構痛がっている。


「何するのさ!」


「落ち着かない、ミユキが悪い。……取り敢えず、そこで怯えてるアダマースを治して。鑑定を持ってたはずだから、何か情報を得てるはず」


 額を抑えながら訴えかける美雪に向けて、フィールは淡々とそう言い放つ。


 美雪はそれに反論しようとしたが……ちらりとアダマースのことを確認した時、その考えは消え去った。


「……思った以上に重傷?」


「……うん。だから、早く治しちゃって」

 

 アダマースの怯えようは美雪の予想していたのよりも遥かに酷かったようで、哀れみの視線を彼女に向ける。


 美雪はそんなアダマースに近づいて、得意の魔法を行使した。


「『精神再生』」


 淡い光がアダマースを包み込み、彼女の精神を治していく。


 恐怖で動転している精神を戻すことなら、それで充分だった。記憶は消えていないため、再度動転してしまう可能性も充分にあるが。


「……私、は?」


「よし、成功だね」


 アダマースはようやくまともな言葉を口にした。先ほどの美雪と同じように状況が掴めていない様子だが、取り敢えずは落ち着いたようだ。


 アダマースは美雪と違って意識はあったため転移させられた程度しか説明する事はなかったが、説明はそれだけで問題なかった。


 何故なら、


「……転移させられた?その前、私は何を……っ!!??」


 その説明だけで、全てを思い出したようだからだ。


 アダマースは即座に戦闘態勢をとり、警戒を露わにしている。此処にアレがいない事は分かっていても、体が勝手に動いてしまったのだろう。それほどまでに、彼女にとってアレは強大すぎた。


「落ち着けアダマース!もう此処にアレはおらん!」


「はぁ、はぁ、はぁ……」


「あの女を鑑定したんだろ?アレはそんなにヤバイ奴だったのか?」


 ジョーカーはアダマースに、あの女が一体何者だったのかを尋ねる。今此処にいる中で鑑定を持ってるのはアダマースだけなため、アダマース以外にアレが本物の化け物だと気がついている者はいない。


「……やばいなんて、ものではないです。アレは……」


 アダマースはその自分しか知らない事実を皆に伝えようとしたが……それは、途中で遮られる。


 ドゴォォォオオオン!!!


「うわっ!?」


「凄い衝撃っ!一体何!?」


 すごい轟音と衝撃が、辺り一帯を包み込む。


 此処にいる彼らが知る由はないが、この衝撃はイルネスがスペディオ目掛けて薙刀を振り下ろした時のものだ。


 割と離れた位置にある書庫まで、その衝撃は届いていた。


「……クロノが戦い始めたのか?」


「……それにしては、音が少なすぎる。まだ戦ってるわけじゃ無いと思う」


「それなら一安心……って訳でも無いよね。戦っても無いのに、どうしてこんな事になるんだろうって話になるし」


 その音の感じから戦闘になって無いという事は此処にいる全員が察したが、それでもまだまだ安心は出来ない。


 少なくとも、海斗達がいるところで良からぬことが起きているのは確実なのだから。


「……アダマース。早く続きを」


「あ、はい……。あの女の、あの怪物の正体は……」


 いつまでも此処で待っているわけにはいかない。一刻も早く対抗策を練って玉座の間に戻らなければならない。だからフィールは、すぐにアダマースに話の続きを促す。


 その言葉に応じて、アダマースは告げた。今海斗と対峙している、化け物の名を。


「アレは……地獣神、ベヒーモスでした」


「「「「「「「なっ!!??」」」」」」」


 それを聞いたこの場にいる全員が、その突拍子もない内容に驚きの声を上げる。



 地獣神ベヒーモスは空陸海を統べる三神の内の一体。それはこの世界において大半の人が思っている共通認識だ。


 実際は神ではなく天使なのでその認識は間違っているのだが、「人の手に負えない怪物」というのは共通していた。


 そんな存在がまさか人の姿を取ってすぐ近くにいるなど、予想できるわけがなかった。一応彼らが探した本にはそれらしき情報はあったが、あの本には三天使=三神という事は書かれていなかったのでその事を知らないアダマース達はその事に気がつく事は出来なかった。


「……あの時の女の人が、イルネスだったのですか。カイト様も鑑定を使ったから、それに気がついて私達を逃したのですね」


「お、おい、ちょっと待て。イルネスって、さっきの本に書いてあった"あの"イルネスか!?」


「ええ。……破壊神の配下、智天使イルネスと地獣神ベヒーモス。この二つは、呼び方こそ違いますが全く同じ存在です」


「そ、そうなのか?」


「……はい。私が鑑定で見た内容にも、その名前は書かれていました」


「うっそだろおい……」


 イルネスの戦闘能力については、先ほど読んだ本にもある程度は書かれていた。


 海斗達がアウィスに聞いた内容とほとんど同じで、並大抵の強さではないということがだ。


 近接戦闘能力は他の天使には劣るものの、病を操るその力によって対遠距離、対多数の戦闘能力は最も優れている。また、どちらかというと絡め手が得意な方らしい。


 しかし、劣るとはいっても比較対象が比較対象なのであてにはならない。少なくともアウィスは他の天使に勝てないまたは勝つのは難しいと言っているため、同じ天使であるイルネスもアウィスより高い戦闘能力を持っている可能性が高い。


 

 そして今この城にいる最高戦力である海斗ですら、本気でないアウィスに傷をつけるのが精一杯だった。


 つまり、今この場にはイルネスに太刀打ちできる者はいない。


「……で、結局どうするんだ?クロノの意思を汲んで逃げるのか、クロノの意思に反してもう一度彼奴の元に行くか」


「そんなの決まってます。……皆さん、行きますよね?」


「当然!」


「私も行く!」


「妾もじゃ」


「正直逃げたいですが……友人を見捨てるのは、気分が悪いですからね」


 けれど此処にいる者達 (フローレとウィード除く)に、逃げるという選択肢はない。自己を犠牲にして大切な人たちを逃がそうとした海斗を見捨てるなど、彼に惚れている者達や人?がいい魔王達にできなかった。


 意見が一致した為、彼らはすぐに書庫を飛び出して行こうとした。しかしその前に、彼らはある事に気がつく。


「1人だけ、何も言わなかった者がいる」という事に。


「……フィールさん?」


 美雪は、その何も言わなかった者……フィールに、心配そうな声をかける。


 海斗のことを強く想っている彼女が……海斗が危険なのに動こうとしない事に違和感を感じていた。


「……」


「ちょっと!聞いてるの!?」

 

 美雪が呼びかけても、フィールは返答を返さない。無視しているというより、気がついていないという様子だった。


 しかし、耳をすますとフィールが何かポツポツと呟いているのが聞こえた。


「……あの女が、イルネスだった?じゃあなんで、私はあの時の言葉を知っているの?この国にくる以前にイルネスと会っていた?でも、そんなはずは無い。私はカイトと出会うまでずっとあの島にいた。でもそれならなんで、私の記憶にあんな光景があるの?他にいた者は誰?アレは何?……私は一体、何者なの?」


 言ってる事は曖昧で、この場にいる誰1人としてその意味を理解できていない。


 だが、それが全く意味のない事だとは思えなかった。


 それを呟き続けているフィールの様子が、決して普通ではなかったから。


「私はフィール。それ以上でもそれ以下でもない。……でも、あの時の私は違った?いや、そもそもあの時ってどの時?この記憶はいつの記憶?この記憶は誰の記憶?分からない、分からない、わからない、ワカラナイ……!私は、わたしは……っ!?」


 焦ったような様子で、フィールは頭を掻き毟る。普段冷静な彼女からはなかなか予想できない姿だ。


 そんなフィールを見て、ビアンカ達は揃って顔を見合わせる。一体これをどうしたらいいか。そういう反応だ。


「……美雪さん、お願いできますか?」


「分かった。……『精神再ーー」


 そして結局、美雪の魔法で精神を落ち着かせた方がいいと思いビアンカは美雪にそう頼む。それに応じて、美雪もフィールに魔法を掛けようとする。


 だがその瞬間。


「ぁ、ぁあ、ぁああ、ぁぁぁあアアアアア!!!???」


「っ!?」


 フィールが狂ったように叫び、それと同時に龍人の里で見せたあのオーラを周囲に向けて放出する。勢いは強くないため遠くまでは届きそうにないが……今フィールに魔法を掛けようと近づいた美雪は、その危険な範囲に入ってしまっていた。


「ミユキさんっ!」


「うわぁっ!?っ、あ、ありがと……!」


 しかしそれに巻き込まれる前に咄嗟にビアンカが反応し、なんとか範囲外へと引っ張り出す。まさに間一髪だった。


 美雪がついさっきまでいた所は焦げた上に凍りついており、あのままあそこにいたらどうなってたかと思うとゾッとするような状態になっている。


「フィールさん!一体、何のつもりですか!」


 ビアンカがフィールにそう聞いてみても、フィールから返答は返ってこない。


 ただひたすら、先ほどまでと同じように自問自答をしているだけだった。


「ハングにクリーク、それにイルネス。私はそれに……そしてどうなった?死んだ?消えた?朽ちた?果てた?分からない。なんで私は此処にいるの?分からない。そもそも、私は何故彼奴らの前に立っていたの?分からない。何故、私は彼奴らに挑んだ?何のために?誰のために?……()の世界を守るために。大切なものを守るために。その為に私は抗って。そして私は負けて。何故か分からないけど此処にいて。……私は一体何?私は()の何なの?あの時の私が……………で、今の私が龍人のフィール。一体なんで、私は繋がってるの?分からない。何もーー」


 近づいて頰でも叩かない限り気づきそうにはない。けれど、近づいてさっきみたいな状況になった場合はどうなるか分からない。


 その為、誰も迂闊にフィールに近寄れない状況だった。


 


 そんな矢先。


 ガキィィィィィイン!!!!


「っ!またっ!?」


「しかもこの音……武器を打ち付けた音じゃな。ついに、始まってしまったか」


「それに、すげえ魔力を感じるな。……片方がクロノ、片方がイルネスのか。桁が違いすぎる」


 またも此処まで響き渡る音がする。それも、戦闘が始まったということを示す音が。


 そしてそれと同時に、とてつもない魔力の波動が此処まで届いてきた。


 一刻も早く駆けつけなければいけない。しかし……


「……っ!!ぁぁあああ!!!?」


 その魔力の波動に反応したからか……またもフィールが叫び声を上げる。そしてまた、黒いオーラが発せられる。


 だが、今回のそれは周りに影響を及ぼすことはなかった。


「っ、フィールさん!?それはっ」


「ぁぁあああァァァァァアアア!!!!」

 

 そのオーラはフィールを包み込み、まるで卵のような形を成していく。その光景に、ビアンカと美雪は見覚えがあった。


 それは龍人の里で見た、フィールが龍化した時と同じ光景だ。


 前の時のような詠唱こそないが、それ以外はほとんど同じだった。強いていうなら、その前回の時よりもオーラが若干濃いような気がするくらいだろうか。


 止めようにも近づけない。そしてそのまま時が過ぎおよそ10秒位が経過したあと、


「「「「「「「「「……キュォォオオオオオオオンン!!!!!」」」」」」」」」


 闇の殻を突き破り、ヒュドラの姿を取ったフィールが姿を現す。


 真っ直ぐに壁を……海斗達がいるであろう方向を見つめ、轟くような咆哮を上げた。


 そして、


「「「「「「「「ォォォオオオオオオン!!!」」」」」」」」


 そのままその壁目掛けて……9本のレーザーを放射する。


 9属性のレーザーは1本に収束され、何枚も立ちふさがる壁をいとも容易く吹き飛ばした。


「す、凄い……」


「……これが、フィールさんの力……」


 壁に開いた大穴からは、大きく壊れた元玉座の間が垣間見えている。だが、そこに海斗達の姿は見えない。

 

 レーザーの威力は相当だったようで、玉座の間より奥の壁も全て吹き飛んでいた。……万が一逃げ遅れた者がいたなら、その人達も全員消し飛んでいるだろう。


「「「「「「「「「キュオオオオオン!!!!」」」」」」」」」


 だが、今のフィールはそんな事は全く気にしていなかった。


 その穴の空いた壁を通りながら、海斗達がいるであろう方向へと駆けていく。今のフィールの体格は穴より大きかったが、それでもフィールは壁を崩しながら駆け続けていく。


「っ、お、追うぞ!!」


「ええっ!!」


 そしてそれを見て一拍置いたあと……正気に戻ったビアンカ達は、そのフィールが開けた穴を通りながら大急ぎで走り出した。


 

フィール「……私の設定、ちょっと複雑過ぎない?(台本捲りながら)」

作者「この位が丁度いいんだよ。多分」

フィール「……そのせいで私、かなりの不幸体質になってる」

作者「……それに関しては、ごめん」

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