22話 スペディオ発見
「……スペディオ」
「貴方達を裏切って、人族と魔族を争わせようとしながら、破壊神の復活まで目論む最要注意人物。今それが、この城にいるんですね?」
「そうじゃ。先の証言が正しければ、ほぼ確定でな。全身真っ黒なんて趣味の悪い格好をした大剣使いで更に闇魔法まで扱うなど彼奴しか考えられん」
ビアンカの言う通り、スペディオの存在は俺たちにとっても危険極まりない。
出会えさえすれば多分簡単に倒せるが、出会えないままデザストラの復活を果たされようものなら洒落にならないからな。
ジョーカー達は自分達を裏切った事と戦争を焚き付けようとしている事に対する制裁をする為に今こうしてスペディオの元へ赴こうとしているようで、今もいつでも戦えるように態勢を整えている。
スペディオがどれほどの強さかは知らないが、所詮は魔王軍の元幹部だ。普通なら元魔王軍幹部3人と、魔王1人の計四人でリンチすればほぼ確定に勝てるだろう。だって、此奴ら強いし。
……だが、それはあくまで此奴らが本調子の場合だ。
「……事情は分かった。だが、そんな体で行ってお前らに何が出来る?魔力はすっからかんで魔法は使えない、魔法無くても戦えそうなお前とジョーカーはともかく、アダマースとフィオーリに何かできることはあるのか?」
そもそも此奴らがこうして此処にいるのは、魔力を使いすぎて自力で帰る事が出来なかったからなのだ。それなのに、自分達と同等の相手と戦おうとか狂気の沙汰でしか無い。
「……」
「確かに私はジョーカー様やディアお姉ちゃんみたいに魔法無しじゃまともに戦えないよ。でも、私だって魔王軍の幹部の一員なの。皆が行くって言ってる中、私だけ待つなんて事は出来ないよ」
けれどそれでも此奴らはそれを止める気は無いみたいだ。……全く、本当に面倒な奴らだよ。
だから……俺は、アイテムボックスからあるものを取り出して、4人に向けて放り投げた。
「おっと。……これは魔晶石ですか?」
「ご名答。一応、一つあたり魔力は数値で言うと1000位は回復出来ると思う。……使うときは湯水のように無くなってくから、あまり使いたくは無かったんだがな。何言っても止まる気なさそうだし、一応渡しとく」
最近は使ってないが、夢幻列島にいた時は主にフィールが大量使用していた便利アイテムの一つである魔晶石。
割る事で魔力が解き放たれてそれを取り込む事で魔力が回復出来る……というシンプルなものだが、その分使い勝手はいい。
コストパフォーマンスが悪い事が唯一のデメリットだと思うけど、これは産地直送だから金は掛かっていない。命は掛かってるが。
「あと、お前らを信じてないわけじゃ無いが俺たちも行かせてもらうぞ。万が一逃げられたらたまったもんじゃ無いからな。最悪、逃げそうになったら8人がかりでフルボッコにする事も考慮に入れといてくれ」
「……それは要するに、取り逃がすまでは手は出さないでくれるということかの?」
「そういう解釈で間違ってない。お前らもそれで良いよな?」
「……構わない」
「それで良いよ」
「2人に同じです」
俺がフィール達に確認を取れば、3人は肯定の意を示してくれた。
……正直、断られてもおかしく無いと思ったんだがな。
俺にも同じ事が言えるが、此奴らもアウィスからの教えを受けているのだ。あの、鬼畜チートハーピィのアウィスから。
彼奴は敵に対する行動に関しては一切の慈悲がないので、そういう考えに毒された意見が出てもおかしくは無い。
だから、「初めから8人がかりでリンチすればいい」とか、「取り敢えずぶちのめしてから考えればいい」とかそう言った返答が来る事も多少は覚悟してたんだが。
まあ杞憂だったようで何よりだな。
「……すまない」
カルディアはそんな事をポツリと呟いた。
そしてその後は口を噤み、静かに書庫の扉を蹴り開ける。
雑だが、大剣で切り倒すよりかはマシなのだろう。きっと。
「……アダマース、フィオーリ。スペディオのクソ野郎が何処にいるか分かりそうか?」
「うーん……。ごめんなさい。此処は自然が少なすぎるから、周りからの力も借りられそうに無いよ」
「少々お待ちください。……『サーチ』」
書庫を出たのはいいが、肝心のスペディオの場所は分からない。
だが魔晶石で魔力を回復させたアダマースは即座に空間魔法を発動させて周囲の光景を確認し始める。
この城は広いから見つけるのには時間が掛かりそうな気もしたが……それは直ぐに終わった。
「見つけました。玉座の間にスペディオと……多分此処の皇帝のウィードでしょうか?取り敢えず、両者睨み合ってるようです」
「でかした。で、玉座の間はどっちだ?」
「それならこっちだ。これでも3日前から此処に通ってるから、この城の間取りは覚えてる」
「すまねえな。……待ってろよ、スペディオ」
場所も直ぐに特定でき、俺たちはそちらの方へと向かっていく。ちなみに、フローレは書庫でおろおろしてたから置いてきた。無いとは思うが飛び火する可能性も無いとは言えないし。
アダマースによるとウィードはスペディオと対峙しているようだからその間に少しでも近づいておきたい。確か、ジョーカーから逃げるときは転移石を使ったとか言ってた気がするから今回も持ってそうな気もするし。
ジョーカー達は殺気を抑えるつもりが全くなさそうだし、気付かれるのも時間の問題だとは思うが……ある程度近づければ、結界とか張れば多分どうにかなる。
書庫から玉座までは割と距離があるから、ウィードがどれほど時間を稼いでくれるかが今後に関わってきそうだ。
それと、まだ倒れてない兵が来たりしても厄介か。勘違いされて襲いかかられたら隠密行動も何もあったもんじゃ無い。
「……正面から、3人。多分兵士じゃ無い。金属音が聞こえないから」
「考えた側から……。取り敢えず気絶させるか」
「……私がやる」
とそんな事を思った矢先に誰かが正面から走ってくる。
使用人みたい女と、小太りの偉そうな男と、宝石とかを身につけた偉そうな女の3人だ。大方、侵入者と聞いて逃げて来た非戦闘要員だろうか。
そのまま通り過ぎてくれれば問題はないのだが、下手に騒がれても面倒な事この上ないのでフィールが前に躍り出る。
「邪魔だ、どげぇ!?」
「……邪魔なのはそっち」
そして男の声を遮りながら、指先を首元に押し付けた。……電撃を纏わせた状態で。まあ要するにスタンガンみたいな感じだ。
男は成すすべなく走っていた勢いのまま硬い石造りの床に倒れこむ。痛そうだなぁ。
「えっ……ぅ」
「あぐっ……」
それを見て言葉を失っている2人にも、フィールは電撃を叩き込む。先の男と同じように、此奴らも2人揃って床に倒れる。
偉そうな女の方は顔面から倒れたみたいで鼻血を流してるみたいだが、鼻血じゃ人は死なないから放っておこう。
「終わった」
「上出来だ。んじゃ、とっとと先を急ごう」
俺たちはそいつらを踏まないように飛び越えてから何事もなかったかのように移動を再開する。
玉座の間へと近づけば近づくほど鼻をつく異臭……血の匂いが濃くなっていくが、今更その程度で動じるような俺たちじゃない。
「……おそらく、玉座の近辺で殺された者の血でしょうね」
「やっぱり、何度嗅いでもいい気はしないなぁ。これをいい匂いだなんていう人の気が知れないよ」
「……それは妾への当てつけか?それに妾に関しては吸血鬼な以上自力ではどうしようもないのじゃが」
「コントやってないで黙って歩け。そろそろ到着するんだから」
フィオーリとカルディアが会話していたが、俺はその会話を敢えて空気を読まずにぶった切る。
だって後1分も掛からずに到着するし。
「……うわ、死屍累々。……蘇生、出来るかな?」
「試してみる価値はあるんじゃないか?杖には魔力は残ってるんだろ?」
「なんだかんだであんまり使ってないからね。取り敢えず試してみるよ。……『生体再生』」
玉座の間の扉まで到着したものの、そこには幾多もの死体が散乱していた。
美雪はその死体の内の一つに「再生魔法」を行使してみる。
一つの死体が淡い光に包まれ、まるで映像を逆再生しているように傷が塞がっていく。
美雪の魔法は「再生」を司る魔法だから、死んだ人を生きていた頃まで巻き戻すことも可能なのだ。まあ、時間制限とかはあるみたいだが。
その死体から全ての傷が消え失せ、止まっていた心臓も動き出す。どうやら生き返ったようだ。
「……ぅ。俺は……ぐふっ」
「生き返ったのは分かった。……だから、黙って寝てて」
そしてその元死体はむくりと起き上がり口を開いたが……その直後、フィールに電撃を撃ち込まれ再度倒れ伏す。死んではなさそうだ。
「フィ、フィールさん?」
「敵はこの中にいる。気付かれるのが遅いに越したことはないから、下手に大声出されたら面倒臭い」
「いや、まあ、確かにそうだけど……」
玉座の間には、まだスペディオはいる。大分大きい魔力が感じられるからそれは間違いない。
こっちが入る前に逃げようとされたら厄介なことこの上ないのでフィールの考えは一応合ってはいる。
まあ、もうそこまでやる必要は無くなってるんだけども。
「フィールの考えは間違ってはないが、そこまで気は張らなくて良いぞ。スペディオはもう、簡単には逃げられないようにしたしな」
「……お前、何かしたのか?」
「実は、美雪が死人を蘇生してる間に対魔法用の結界を張らせてもらった。具体的にいうと、あの部屋から出ない限り転移石が使えないようにした」
今俺が言った通り、美雪が再生魔法を行使している間俺は空間魔法で結界を張った。
効果は魔法を通さないというものだ。中で魔法を行使することは可能だし、人や物は歩いてでも結界は通り抜けられる。
だがテレポートは、現在地と行き先を結びそこを行き来する魔法だから……現在地と行き先の間に結界なんかあったりしたら、魔力はそこで遮断されて結ぶことができない。
転移石も同じ仕組みだから、もうスペディオは部屋内では転移石は使えない。
もしも窓から飛び出したり出来れば使用は可能だが、これだけの人数で入ってしまえば走って逃げようとしても囲んでボコればそれで終わりだ。
「……なあ、美雪」
「何?海斗くん」
「いや、一つ頼み事があってな」
「何?何をすれば良いの?」
しかし俺は玉座の間に入る前に美雪に一つあることを頼む。
「少し言いづらいんだが……今から城を回って、死んだ人を蘇生させて回ってくれねえか?後々の事を考えると、死者が多いのはあんまり良くないし」
内容はスペディオにやられた奴らの蘇生だ。この中で人を癒す魔法に1番精通してるのは美雪だし、死んだ人を蘇らせるのは一番の適任な筈だ。
一応フィールも蘇生は出来たと思うが、ただの光魔法と回復に特化した再生魔法では差は大きい。
チラッと聞いた限りだからよく覚えてないが、ただの光魔法じゃ死んでから1時間以内の人しか蘇らせられなかった気がする。
対して再生魔法ならもっと経っていても蘇生は出来た筈だ。修行中にアウィスから経過報告的なものを聞いた時は確か3時間程度だって言ってたと思う。
……なお、1日経っても蘇生が可能なアウィスは気にしてはいけない。
「後々の事?」
「まあ要するに、死者がいなきゃ恩の押し売りがしやすいって事だな」
「やる事が姑息だね……。まあ、海斗くんの頼みとあらば喜んで!あ、でも気をつけてね?どんな怪我しても治してあげられるとは思うけど、前みたいな事が起こっても不思議じゃ無いから……」
美雪は俺の頼みを聞き入れてまだ蘇生していない死体のほうへと向かっていく。そしてその途中、心配そうな顔をしながらこちらを向く。
前みたいな事というのは、多分龍人族の里であったアレの事だろう。何故かあの時は、再生魔法が意味を成さなかったからな。
「分かった。そっちも何あるか分からないから気をつけろよ?」
「うん!」
美雪は今度こそ死んだ人の蘇生に取り掛かる。
俺たちはそれを見届けた後、今度こそ玉座の間へと押し入る。
……全力で。
ドゴォン!パァン!バシュゥン!ガァン!ヴォン!スパァン!ズドォン!
俺が蹴破り、フィールとフィオーリとアダマースが魔法を撃ち、ジョーカーがいつの間にか取り出した槍を刃じゃ無い方で突き出し、ビアンカがアクアカノンをぶっ放す。
扉はただの木屑と化しながら中にいた人物……ウィードとスペディオに襲いかかった。
「のわぁ!?なんだ!?」
「……!」
唐突な襲撃に2人とも驚いているようだが、そのお陰でこっちから見たら隙だらけだ。
本当は是非とも殴りたいんだが……逃げようとするまでは手出しはしないと言った手前手を出す訳にもいかない。
と言うわけで、せめて鑑定だけはしておく。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
スペディオ
種族 人間 (死人)
レベル281
体力 3420
魔力 1995
筋力 3718
敏捷 2280
物防 3420
魔防 2850
スキル
剣術レベル9 身体強化レベル6 闇魔法レベル9
高速詠唱レベル6 隠蔽レベル8 闇耐性レベル5
【降霊】レベル9
元々は帝国の騎士団長だったが、魔族との抗争の中で命を落とした。しかし、幸か不幸か意志を持ったままアンデッドとなってしまった。意志があると言えどもアンデッドである事には変わらず人間からは拒絶され、拒絶した人間とこの原因を作り出した魔族に深い恨みを抱いている。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【降霊】
分類 昇華スキル
説明
死霊術が変化したスキル。死霊と会話する事だけでなく、死霊をその身に降ろしその力の一部を扱う事が出来る。
なお、降りてきた霊の気分次第で力を扱える時間と比率が変わる。レベルが高ければ高いほど、霊が力を貸してくれやすくなる (絶対に貸してくれるとは言ってない)。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
……あー、うん。過去重いなぁ。
しかも美雪と同じ堕族じゃねえか、これ。
スペディオさんの設定は、ちゃんと第2章から決めてあったんですよ?……出てくるまでこんなに時間が掛かってしまいましたが。




