21話 帝国の城の侵入者
「……取り敢えず、今回の件は城に持ち帰って対策を練るとするか」
「それが妥当ですね。少なくとも三天使の1人であるハングとやらはリヴァイアオーシャンにいるようですし、警戒は必須でしょう」
「もしかしたら、泳いで別のところに移動してるかもしれないけどね」
「居る、という情報だけは何度か耳にしたが、最近は目撃情報がないからの。妾達が夢幻列島に行った時もいなかったし」
「そういや、俺達が夢幻列島からそっちに飛ぶときもそれっぽい気配とかは感じなかったんだよなぁ。……マジで別のところに居るかもな」
「止めろよ怖え。居場所が分かってて近くにいるのと、居場所が分からなくて遠くにいるんじゃ後者の方が怖えんだから」
ジョーカー達の方は、どちらかというとデザストラよりもハングの方に興味が向いているようだ。
ハングこと海蛇神リヴァイアサンがいるとされるのはウーバ魔族国の南に位置する海リヴァイアオーシャンであり、現れた場合真っ先に攻撃を受けるのが此奴らの国だからという理由だろう。
だが、今になって思い返してみると夢幻列島から降りてくるときにイルネスのような気配は全く感じられなかった。
ただ単に見落としてただけかもしれないが……そもそも既にそこにいなかったという可能性も充分すぎるほど有り得ると思う。
住んでいるところが海だという以上、泳いで移動するのは決して困難ではない。
どうせ移動速度も無茶苦茶速いと思うし。
「……んじゃまあ、俺達はそろそろ此処から出た方が良さそうだから……ちょっくら外まで送ってくれねえか?」
「だな。……あー、この城の外か?それともお前の城の外か?」
まあ、取り敢えずこの場での用は済んだのでジョーカーは出るための手助けを俺に頼んで来る。
探し物前の会話ではこの城から出てしばらく待機するみたいな内容の事を話していたが、今思えば俺が此奴らをそのまま送り届けても然程問題はない。
だから、どちらにするかを此奴に聞いてみたんだが、
「あー、その事か。本当はさっさと帰った方がいいんだろうが……いかんせん、俺はあの国から出るのは今回が初めてだったんだ。だから、数日だけでいいから人族の国ってものを見て回りたいんだよな」
どうやら、直ぐに帰る予定は無さそうだった。
できることなら誰にも気付かれないうちに向こうへ帰ってくれた方が楽なのだが……。
まあ魔力が回復するまでの数日の間俺達が協力して誤魔化せば良いだけだから、どうとでもなるだろう、多分。
「じゃあ、取り敢えず城の外まで転移す……!?」
そして、俺が空間魔法で此奴らを城の外まで送ろうとしたその瞬間……
ジリリリリリリリリリリリ!!!
という、けたたましい音が周囲に鳴り響く。
「な、なんだ一体!?」
「まさか、私達が居ることがバレたんでしょうか?」
「それにしては時間が開きすぎてるからのお。多分、別の何かじゃろ」
その音は明らかに何かが起きたということを示す音で、それも多分宜しくないものなのだと思う。
だって、学校とかにあるような非常ベルに凄い似てるし。
起こったのが大したことではなければ、こんな危機感を煽るような音にはしないはずだ。
バァン!
「はぁ、はぁ、カイトさん大変です!このお城に侵入者……が?」
そしてそれから間も無く、フローレが息を切らしながらこの書庫へと駆け込んできた。
どうやら、悪い事と言うのは侵入者だったようである。
フローレはそれを探し物をして居る俺達に伝えるために大急ぎで走ってきたと言ったところだろうか。
その行動が正解か不正解かは事情を聞いていない以上分からないが、少なくとも今の状況は俺達からしたら非常に宜しくなかった。
だって、
「……カイトさん、この人たち、誰ですか?」
思いっきり、ジョーカー達の姿が見られちまったんだから。
「あ、あー、えっと、一応俺達の友達だ。害は無いからあんまり気にしないでくれ。で、侵入者って言ってたよな?」
「気にしないでって言われても無理なんですが……その話は置いておきます。まあさっき言った通り、城に侵入者が入りました。目撃者によると侵入者は1人、黒い全身鎧を着て黒い大剣を背負っている謎の人物らしいです。兜の所為で顔は見えず、男か女かも分からないとのことです」
それに関しては気にしないでくれと言いつつ、俺はフローレにその侵入者について聞いてみる。
フローレ本人は姿を見ていないようだがそこそこの情報は聞き出せた。
とは言っても目的も力量も分からない以上、無関係な俺が出張ってぶちのめす訳にもいかないような気がしていた。
「……黒い鎧に、黒い大剣」
「……何処か、似てる気がするのう」
「すみません。その鎧野郎の情報、分かる限り全て教えてください」
その話を聞いていたアダマースはフローレにその侵入者についての事を更に詳しく尋ねた。
何処か鬼気迫る表情で唐突にそんな事を言われたフローレは困惑しているようだが、フローレはそれでもアダマースの問いに答えていく。
「分かる限り、ですか。とは言っても、あまり分かることはありません。目撃者も直ぐにその場を離れて警報を鳴らしにいったようですし。他に分かる事といえば、金属の鎧ごと一刀両断出来るほどの力量があると言う事と、闇魔法を使えるという事でしょうか」
しかし、得られた情報はたった二つ。
鎧をも斬れる怪力ということと、闇魔法を使えることだけだ。
だが、その二つの情報を聞いたアダマースは……ため息を漏らした。
「……行きましょう、ジョーカー様。十中八九、侵入者はあのクソ野郎です」
「そうみてえだな。……生きて帰れると思うなよ?」
「彼奴も運が無い。よりにもよって、妾達がいるときに姿を現すとは」
「絶対に逃さない。私たちの手で、必ず捻り潰す」
そしてジョーカー達に声をかけ、お互いに何かをわかり合った表情で物騒な会話を交わす。
その内容は全く理解出来ないが……その表情は、今までの此奴らからは想像も出来ないようなガチな表情だった。
殺気を隠さず、カルディアに至っては武器……二振りの大剣、インサニティとアモーレを抜刀までして居る。
「……待て、何しにいく気だ?」
ジョーカー達は書庫の外へと出ようとするが、俺はそれを呼び止める。
今回の件は、此奴らには関係の無い話の筈だ。
ならば此奴らが介入する意味は全く無い。
むしろ問題事を増やすだけだ。
「決まっておる。……例の侵入者を、ブチ殺しに行くだけじゃ」
「なんでお前らがそんな事をする必要がある。今回の騒動は、お前らには全く関係ないだろ」
「いや、ある。少なくとも、妾はそう思っておる」
「それはなんでだ?」
だが、カルディアは今回の事件が自分達とは無関係ではないと主張する。
だから俺はその理由を彼女に尋ねた。
「そこの王女が話した言葉通りなら……妾達は、その男を知っている。そして、妾達は其奴を止める義務がある」
その質問に対しカルディアは、目を閉じ何かを思い出すような素振りをしながら言葉を連ねていく。
「コレは、妾達が引き起こした事なのじゃ。……彼奴の本質を見抜けなかった、妾達がな」
悔やみながら、それでいて怒りを露わにしながら彼女は言葉を続ける。
「それ故、今此処に妾達が居る以上、妾達は彼奴の元へ行かせてもらう。彼奴に……スペディオの奴に、己のしでかした罪の重さを思い知らせる為にな」
そしてカルディアは両手の大剣を強く握りしめながらその侵入者……元魔王軍幹部、スペディオの名を告げた。




