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16話 ちょっと怖い目みようか

「……皇帝だからって、戦いたいからって理由だけでフローレさんにこんなことするなんて……貴方、頭大丈夫ですか?」


「「ストレートな毒舌だなおい!」」


 そして、穏便に済ませる気が全く見られないほどにいとも容易く突き刺される言葉の刃。


 それにはウィードだけでなくつい俺も叫んでしまう。


 確かにそう思ったりもしたりしたが……そんな、言うだけで話が抉れそうな事は言って欲しくなかった。


 なお、ビアンカはそんな事を言いながらフローレを縛っている縄を素手で引きちぎっている。


「そうは言ってもですね……何で演出で、皇帝が悪役になるんですか?自分の立場把握してます?」

 

「なぁ、ビアンカ。お前怒ってる?」


「いえ、呆れてるだけです」

 

「だってよ」


「流石の俺でも傷付くぞ……」


 本人曰く呆れているとの事だが、それだけだとは思えないほどに口が悪い。


 フローレから散々たる言われようをされていたウィードでさえ傷付くほどにだ。


「ほらほら、ビアンカさん落ち着いて」

 

「私は冷静ですよ。というより、何処の国の王もこんなもんなんですか?まさかマンサーナ王国の王まで残念だなんて事は無いですよね?」


「そ、そんなことは無いです!」


「……あ、復活した」


 ビアンカが続けて言った言葉には、俺も一瞬だけだが納得してしまってたりする。


 マンサーナ王国の王でフローレの父であるアルボルはまともだった記憶はあるものの、もう2つの国の王がコレと胃潰瘍魔王なのだ。


 アルボルには会った事のないビアンカなら、そんな印象を持ってしまっても仕方がないのかもしれない。


 なお、そんなビアンカの言葉により虚ろな目をしていたフローレが正気に戻った。


「それよりも!何で私にあんな事をしたんですか!流石に国際問題になりますよ!」


 そして、あんな事をされたフローレは当然ウィードに突っかかる。


 正直、王女とはいえ少女であるフローレが頬を膨らませて怒っても全く、微塵も、欠片も迫力が無いのだがそれは黙っておいたほうがいいだろう。


 寧ろ一瞬だけ可愛いとか思ったりしてしまった。


「いや、一応説明はした……ぞ?」


「あんなの説明になってないです!『勇者と戦ってみたいから手伝って』って言われて『出来る範囲で』とは答えましたけど、こんな事になるなんて聞いてないです!」


「……せつ、めい?」


「つーかそれは断って欲しかったなぁ」


 フローレの説明を聞いて、フィールは首を傾げている。


 確かに、フローレの言葉通りならとてもではないが説明とは言えないだろう。


 首を傾げるのも無理はない。


 そして、俺も出来ればそうしたい。


「……で、まあ、その、アレだ。あー、クロノだったよな?」


「……ああ、そうだが」


 そしてウィードは、フローレの文句はスルーしながら俺の方へ視線を向けてくる。


 なんか嫌な予感はするが、一応は対応しよう。


「フローレから聞いたが、お前らは俺に頼みが有って来たんだよな?」


「……ああ」


「なら戦え。話はそれからだ」


「ですよねー……」


 想像通り、戦闘不可避ルートである。 


 さっき腹パンはしたとはいえ、一応相手は皇帝だ。


 下手にやり過ぎて厄介な事になると嫌だから出来ればしたくないのだが……。


「勿論、やらないならそっちの頼みも聞かねえからな」

 

 などと言われたらやらざるを得ない。


 取り敢えず顎にでも一発入れればOKだろうか?


「……分かったよ。んで、何処でやんーー」


 そんな事を考えながらウィードの提案に応じて何処でやり合うのか聞こうとしたのだが……その言葉が最後まで言われることはなかった。


何せ、


「っと、ちょっと待て。まだ話の途中だろうが」


「ん?いや、やるのは此処だから了承したら即開戦に決まってんだろ」


「知るか!」


 俺がそう言った瞬間に、ウィードは攻撃を仕掛けてきたのだから。

 

 しかも、何処から取り出したのか今度はしっかり斬れるまともな剣でだ。


 一応咄嗟に白刃取り (左手の中指と人差し指で)したが、当然文句は言いたくなる。


「つーか、決闘で真剣使うか普通?」


「お前なら大丈夫な予感がした。当然、反省も後悔もするつもりはない」


「さいです……かっ!」


 バキィン!


「なっ!?」


 そしてウィードの返答に若干、ほんの若干だがイラっときたのでこっちからも応戦を始めることを決意する。


 まずは手始めに、剣を指でへし折った。


 当然、ウィードは驚きを隠せない。


 普通に生きているのなら、異世界といえども指だけで金属をへし折れるような奴になんて会うことは無いだろうからな。


 だけど、こっちはその普通じゃ無いところにいる。


「くっ、オラァ!」


「ほぉ……」


 しかし、仮にも帝国最強の人族と言うべきか。


 そんな、剣が指でへし折られた驚愕からはすぐに立ち直りその折れた剣を俺に振るう。


 剣のリーチは半分程度にはなってしまってはいるが、別に剣身全てが無くなったわけじゃないのだ。


 それなら、多少不利になった程度で切れないわけじゃない。


 ……当たれば(・・・・)、な。


 もともと俺にとっては遅い攻撃なのにも関わらずリーチさえも短いならば、ほぼ怖がる要素がない。


「ちっ、風の刃よ 敵を引き裂け!『ウィンドブレード』!」


「へえ?んじゃ、『魔防結界』」


 キィン!


 しかしそれでも、ウィードは攻撃を止める気は無いらしい。


 意外にも剣を振るいながら詠唱を行い、魔法を此方に放ってきた。


 それ自体は全く問題なく防げたが、何故かその魔法の詠唱が懐かしく思えてくる。


 今になって思うと、こんな普通の魔法の普通の詠唱を聞くこと自体が相当久しぶりなのだ。


 フィールは今では常識の範囲内位の魔法なら無詠唱で出してきたりするし、美雪は常識の範囲外の魔法しか今は使えないし、3ヶ月の修行期間中にアウィスが使ってきた魔法に至っては規格外な上に詠唱までおかしかったと思う。


 多分、最後にまともな魔法の詠唱を聞いたウルブスで忍と晶に修行をつけた時以来な気がする。


「空間魔法かっ!」


 しばらく前に、「空間魔法を持ってる人は少ない」という話を聞いたが、皇帝という立場の都合上使い手を見たことはあるのだろう。


 思っていた程には驚いていないのはそれが理由だろう、きっと。


 だが、物理攻撃は全て躱し魔法攻撃は結界で弾いてどちらも通用しないというのを見せたというのにそれでも皇帝は引き下がろうとはしない。


「だがそれでいい!お前みたいに強い奴なら、気兼ねなく剣が振るえる!」


 そりゃ、相手の目的が戦うことそのものなら引く意味は無いのだから。


 本気を出しても壊れない、そんな相手を見つけたというのにその機会を捨てるなどというのはあり得ないのだろう。


 こっちとしては本当に厄介な限りだ。


「……まあ、そっちがこれ以上やり続けるならこっちもある程度は応戦させてもらうぞ」


「はっ、望むところだぁ!」


 だから、こっちもそろそろ応戦させてもらうことにする。


 とは言っても、下手に吹き飛ばしたりして後遺症でも残したら厄介極まりないので、物理的な制裁はしない。


 今からやるのは、簡単に言うと実験である。


「えー、あー、『マインドハック』?って感じか?」


「っ?何をっ!」


 発動したのは、アウィスから貰ったスキル、《操魂》。


 魂に直接作用でき、記憶の改竄とかなんとか色々とヤバイことが出来るスキルだ。


 今回は、記憶を消したりとかはしないつもりだが。


 とりあえずウィードの魂を捕捉し、此方で弄るためにリンクのようなものを繋いだ。


 さて、こっからどう弄ってやろうか。


 とりあえず、軽ーい恐怖体験でも植え付けてみよう。


 という訳で、俺の今までの記憶を少しだけウィードに押し付けてみる。


 別に心臓に悪いとかそういうタイプじゃ無いとは思うから問題はない……と思っていた。


 だが。


「……ぁ」


 カチン!


 その記憶を押し付けた瞬間、ウィードの手から剣が滑り落ちる。


 よく見れば体は震え、額には冷汗が浮かんでいた。



「ぁ、ぁあ、ぁぁあああ!!!?」


 そして、突如として狂ったかのように叫び出す。


 これには周りで見ていたフィールたちも何があったかは理解できてはいないようだ。


 俺だけは、この状態に納得はしていないが何があったのかは理解はしている。


 多分、俺の押し付けた記憶の衝撃が強すぎたのだろう。


 俺がウィードに見せたのは、大体2ヶ月位前……要するに、アウィスとの修行風景の一部だ。


 その中でも、超高火力捨て身タックルをモロに受けて上半身と下半身が泣き別れした時の記憶だったのだが、さすがにやり過ぎたかもしれない。


 ……もしかしたら、あの時の痛みまでこいつに植え付けちまったのかもしれない。


 そうじゃなきゃ、流石に泡吹いて気絶とかは無い気がするし。


「……何したの?」


「んー、ちょっと恐怖体験をさせた」


「??」


「アウィスからの贈り物を使ってみた」


「ああ、なるほど」


 フィールは、こんな説明でも何をしたのかを理解してくれたようだ。


 流石にブラドとシルフィアがいる中で魂に干渉できるなどという未知のスキルの話には触れたくないからな。


 まあ、それはさておき皇帝との決闘 (笑)は幕を閉じた。


 だが、気絶されてしまったので此処からどうするかが非常に悩ましいところである。


 しかし……そこで、幸か不幸か、救いと言えるかどうか分からない人物が姿を現す。


 バァン!


「おお、ウィードよ、死んでしまうとは、情けない!」


「……誰?」


「あ、久しぶりですマイルさん。……あ、カイトさん。この人が、皇帝の友人で頭がキレるって言ってた人です」


「ああ、なるほど……」


 フローレ曰く、頭のキレる有能な人。


 その話どおり(・・・・・・)なら、そこで転がっているウィードよりかは話は通じそうだ。


 しかし、俺は感じ取っていた。


 


 ……これ、ウィードとは別のベクトルで面倒な奴だ、と。

帝国には、残念な奴しかいないのか。

どうしよう、この章中でもう一人残念な奴の出演予定があるのに……。

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