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15話 長い口上はぶった切るに限る

 正午、帝城前。


「……彼奴ら遅えな」


「……まだ投げてるんじゃない?」


「かもな。それにしてもどういう経緯でああなったんだか」


 俺たちは、ビアンカと美雪の2人を待っていた。


 一応もう集合時間なんだが、2人はまだ来る様子がない。


 だが、今ここにいるのは俺たち2人だけではない。


「……投げてるって一体何があったんだよ」

 

「さあ?気にしたら負けじゃないかしら」


 今ここには、帝都に入ってからさらっと居なくなっていたブラドとシルフィアの2人もいるのだ。


 なお、2人は帝都に着いた後こっそりギルドに報告をしに行っていたらしい。


 それに関して「先に言っとけよ」と言ったら、「道中に言ったんだがなぁ」と言われたのは驚いた。


 俺は言われた記憶が無かったのだが、


「……これに関しては、一応言ってた。カイトはその時眠そうだったけど」


 フィールによるとこれはちゃんと言われていたらしい。


 やはり、意識は睡魔には勝てないということだろうか。


 それと、なぜ2人が此処にいるかというと、ギルドに報告した時に「そういえば、皇帝が2人に会いたいって行ってたから行ってこい」と言われたから嫌々来たらしい。


 聞いた話だと確か戦闘狂だって聞いたが……これはもしかしたら、此奴らを生贄にして俺らは難を逃れられるか?

 

「なあ、今不穏な事考えてなかったか?」


「な、何のことだ?」


「私達を囮にしようとか、そういった事かしら?」


「囮て……いやまあ間違ってないかもしれんが」

 

「俺はお前の方が強いって信じてるからな。きっと、皇帝もお前との戦いを望むだろうよ」


「いやいや、貴方達有名なアダマンタイトクラスの冒険者じゃないですか。きっと皇帝は貴方達を選んでくれますよ」


「……結局どっちとも戦うことになりそうだし諦めたらどうかしら?」


 戦いたくないのはブラド達も同じようで、こいつらも俺たちを生贄にする事を考えていたようだ。全く、油断も隙もない。(ブーメラン)


 まあ、それは置いておいてだ。


 なんか、前方から建物の屋根を転々としながらこちらに近づいてくる2つの影が俺の視界に入る。


 それが誰かは、もう確認するまでもない。


 そんな挙動をする2人組というのはあの2人以外考えられないからだ。


「よーっと、ごめん!お待たせ!」


「すみません、待たせました!」


 予想通り、近づいてきたのはビアンカと美雪だった。


 2人とも若干息が上がっており、アレを長い間続けていたんだろんなというのが見て取れる。


「遅かったな。んで、遅れた理由は?」


「実は私達今追われちゃっててさ。だから今なんとか追っ手を撒いて来たの」


「……追っ手?」


 何がどうなったらあの投げと関節技の状況から追われる立場に至るのか。


 そんな事を考えていたのが顔に出ていたようで、ビアンカは察したように語り出す。


「実は、私達2人で歩いていたら何人もの男に絡まれたんですよ」


 ふむふむ。


「で、全部あしらい続けてたんですけどそれでもしつこかったので少し手荒な手段に出たんですよ」


 それ投げ技と関節技だよな?知ってるぞ。


「それで身を引いてくれればよかったんですけどね。何故か、それやってから出てくる輩が急増したんですよ」


 俗に言う、「我々の業界ではご褒美です」って奴か。難儀だなぁ。


「流石にそれには身の危険を感じたので逃げたんですけど、しつこく追ってきましてね。仕方ないので、袋小路に入ってから屋根に登ってなんとか撒いて来たんですよ」


 屋根にいた理由はそれか。というより、そうまでしないと撒けないほどに追われてたのか。


「……お疲れさん?」


「もう、大変だったんだよ?」


 さらに詳しい話を聞けば、何と撒いたのは街の端の方らしい。念には念を入れて、そこまで移動したのだとか。


 この街そこそこ広いのでそりゃ疲れるだろう。


「……撒いたとはいえ、追われてたならさっさと城に入った方が良くねえか?そうすりゃそっちについては解決するだろ」


「あっ、そうですね」


 そして、そんな疲れている2人に向けてブラドがボソッとそんな事を呟く。


 確かに、幾ら変態達といえど城には入ってこれないだろうからな。


「そうだな。じゃあ行こうか。……すんなり入れるといいが」


「……フローレが話を通してくれてると信じてる」


というわけで、俺たちは城の門の方へと歩いていく。


 当然、門番はこちらに近づいてくるが、


「ん?ああ、貴方達ですか。大臣から話は聞いてます。どうぞお通り下さい」

 

 こっちの望み通りすんなり入らせて貰えた。


 それはそれで嬉しいのだが、相当面倒な性格だと聞いている皇帝に会うまでの時間が早くなると考えると若干気が重くなる。


 それからも、こっちが驚くほどにすんなり案内などがされ、気がつけば俺たちは謁見の間の扉の目の前にまで通される。


 もう、後はない。


「……ほら、ブラド。開けろよ」


「いや、お前が開けろ。なんか嫌な予感がするんだ」


「馬鹿なことを言う奴だ。……俺だってそう思ってるからお前に開けさせようとしてるんじゃねえか」


「タチ悪いなおい!」


 だからと言ってはアレだが、俺とブラドはどちらが扉を開けるかで揉める。


 多分だが、開けたら戦闘が始まる。


 根拠も何もない唯の勘だが、ブラドもそれを感じているようなのでそれは間違いないだろう。


 ちなみに、この扉の奥には何らかの魔法が掛けられているようで、中から気配とかを探知するのは無理そうである。


「だぁー!分かった!なら同時に開けよう。これで運任せだ」


「メリットはねえが、一人で開けるよりはマシだな。その話乗るぜ」


 ということで結局、2人で同時に扉を開けることにする。


「「せーのっ!」」


 ギギギギッという音と共に、謁見の間の扉が開かれる。


 そして、俺たちの目の前に姿を現したのは……。


「あ、昨日ぶりです……」


「「はぁ!?」」


 何故か、縛られて天井から吊るされてるフローレだった。


 何がどうなってこうなったのかは分からない。


 しかし、一つだけ言えることは……。


 

 フローレの目には、光が無かった。


 無気力。諦め。考えるのを止めた。


 まるで、そんな感じの顔だった。


「ちょ、ちょっと!何があったの!?」


「……私にも、分かりません。『演出だ』とかどうとか言ってましたけど、それがどうしてこうなるのかなんて知りません」


 本人曰く演出のためにこうされたらしいが、その意味は全く分からないという。


 まあ、訳も分からないままこんな事になったら考えるのを止めるのも無理はないのだろうか。


「……ちなみに、何時からですか?」


「10分前からです。カイトさん達の姿が見えたからだとかどうとか」


 なお、吊るされてからそこまでは時間は経っていないようだった。


「……まあ、取り敢えず解こーー「待てえええぃ!!」……あー、そういうことか」


 それは置いておいて取り敢えず縄を解こうとすると、俺の頭上からそんな声が響き渡る。


 上を見上げてみれば、何を血迷ったのか剣を下に向けながら落下してくる男が1人。


 もっとも、剣を向けていると言っても落下速度はそこまで早くないので、俺は普通に後ろに後ずさってその剣を回避する。


 スチャッ


 そのまま地面に激突して脚でも挫いてくれればありがたかったのだが、そんな事はなくその男は普通に着陸してくる。


 そして、剣をこちらに向けて言った。


「囚われの(プリンセス)を救い出さんとする者よ!

 貴様らの覚悟を此処に示せ!

 此処は俺の領域(ゾーン)だ、故に俺こそが此処の規律(ルール)だ!

 俺が望むは、血湧き肉躍る闘争だ!

 拳と拳の、剣と剣のぶつかり合いだ!

 さぁ、俺の(ソウル)とお前の(ソウル)、どっちが真に輝くものか、今此処で確かめようぜ!

 さぁ、死合おーー」


「口上が長い」


「ごふっ!?」


 なんか長々しくそして痛々しいことを言っていたので、つい拳を打ち込んでしまう。


 手加減は割としたが、それでも壁に叩きつける程度の力は出したつもりだった。


 だが、俺の予想は外れ、想定の半分程度の距離しかその男はぶっ飛ばなかった。


「て、てめえ、何しやがる!あの口上一晩考えたんだぞ!?それを途中でぶった切りやがって!」


「ちんたら語ってるお前が悪い。そもそも、本当に戦いたかったのなら扉開けると同時に殴りかかるとか他にも方法はあっただろうが。これじゃフローレが可哀想だろ」


「いや、まあ、それは悪いとは思ってるがな?不意打ちは物足りねえし、かといって普通に戦おうって言ってもインパクトが足りねえと思ってな」


「剣を下に向けたまま突き刺そうと落下しておいて何を今更」


「この剣は見ての通り刃引きしてる模擬戦用の奴だ。あの程度じゃ刺さりやしねえよ」


「ああ言えばこう言う……。本当に皇帝とは思えねえな」


「ガハハ、やっぱバレるか?」


「戦闘狂って事は聞いてたからな」


 その男……フレッサ帝国皇帝、ウィード・フレッサは僅かに悪びれる様子を見せながら笑う。


 少しとはいえ反省しているだけ予想よりはマシなのかもしれないが、どっちにしろ関わりたくないタイプの人だ。


 これから、コレと交渉しなきゃいけないと考えると頭が痛くなってくる気がする。


 だけど、避けられないのなら……おとなしく、諦めるしかないだろう。


 はあ、こっからは長丁場になりそうだな。


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