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13話 不鮮明な記憶

「本当に、知らないんだよね?」


「……ああ」


「会った記憶も無いんですよね?」


「……ああ」


「……その言葉に、間違いはない?」


「……ああ」


 木で出来た硬い床に正座させられ、フィール達3人に睨まれる。


 嘘は言っていない。だが、3人はまだ疑っているようだった。


「……ビアンカさん、どう思う?」


「嘘は言ってるようには見えませんけど……あの女性の方も嘘をついてる様子は無かったんですよね。ですから、どちらかが嘘をついてるはずなのですが……」


「どっちもそうには見えない、かぁ……」


 2人は腕を組みながらそんな事をつぶやいている。


 別れてから宿屋までは大して追求してこなかったので納得してくれたのかと淡い期待を抱いていたのだが……やっぱり、そんな簡単には信じてもらえないようだ。


 こっちとしては、信じてもらえなくて若干悲しいのだけれど。


「……確か、前会ったときとは少し違うって言ってたけど?」


「殴りかかってた割にはよく聞いてたんだな。まあ、確かにそんな事は言ってたような気はするが……」


「それを踏まえても?」


「皆目見当も付かん」


 そもそも、見た目関係なく森の中で女性と会ったなんていうシチュエーションには全く覚えが無かった。


 おまけに、最近は1人で森に入る事さえ殆ど無いのだ。


 あくまで殆どであって、少し前に1人でそういう場所には行ってはいるが……流石に、夢幻列島にまともな人がいるとは思えない。


「……このまま考えても埒があかない気がする」


「それはその通りだけど……」


「まあ、これ以上考えてても時間の無駄でしょうね。あの人の言う通りならまた会う機会がありそうなので、その時にでも聞けばいいんじゃないですか?」


 結局、いくら考えても分からないが故に今は諦めるという選択に至ったようだ。


 俺としてはありがたい限りである。


 ……正座し続けで足が痺れてたしな。


 もっとも、「思い出しておいて欲しい」とか言われておいて、次会う時に聞かざるを得ないというのは若干癪だが……それしかないのなら仕方がない。


「はぁ〜……」


「まあ、取り敢えず今は休みましょうか。明日は色々と厄介な事になりそうですし」


「さっきまで正座させてた奴が言っても説得力ねえなぁ……」


「うっ、仰る通りで」

 

 俺がそんな事をポツリと呟くと、ビアンカは申し訳なさそうにそう返す。


 まあ、一応は気にしていていたようだ。


「別に過ぎたことだからいいけどさ……。んで、もう日は暮れてるけどどうするか?明日の事を考えると飯食って寝るのが1番妥当だが」


「うーん。ここお風呂無いみたいだし、そのくらいしかやることは無いかな」


 なお、今回泊まった此処には風呂は無い。


 本当はある所に泊まりたかったのだが……運悪く、そういった場所は全て満員だったのだ。


 まあ、旅の途中も穴掘って温水ぶち込んだりして擬似風呂を作ったりして使ってはいたので言うほど汚くはないのだが。


 それでも入りたくなるのは、人として仕方のない事だとは思う。


「まあ、じゃあさっさと飯食って明日に備えるか。ここの食事のグレードの程は知らんが」


「スキルレベルがイカれてるカイト様と比べたら駄目な気もしますけどね」

 

 そして、風呂が無いのは割り切って、取り敢えず飯を食べるために俺たちは下の階へと降りていった。


 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 

 結論から言うと、ここの食事のグレードはかなり高かった。


 使っている素材こそ普通のものだが、食材を長時間漬け込んだりとか、そういった時間の掛かる下処理がしっかりされていたのだ。


 例えスキルがあってもそういった時間は短縮は出来ないので、俺もあまりそういうのは行っていなかった。

 

 そのため、俺の料理ともしっかり差別化されていたため飽きたりすることなく平らげることができた。いやぁ、うまかった。


 なお、現在はもう部屋の灯りを消し、ビアンカと美雪は寝に入っている。


 つまり、今起きているのは俺とフィールの2人だけだ。


「……で、話ってなんだ?」


 なお、なぜ2人だけで起きているかと言うと……しばらく前に、フィールが「……後で、2人きりで話がしたい」と言ってきたからである。


とは言っても、2人だけで起きてたら美雪もビアンカも寝てくれる気がしないので、寝たふりをしながらその機会を待ち続けていたのだが。


「……今日の、あの女性が言ってた言葉のこと」


 そしてその言いたい事とは、昼間の女性が最後に言ってたあの謎の言葉についてのようだった。


「あの思わせぶりな言葉の事か?それが一体?」


「……私にも、わからない。けど……」


「けど?」


「……私は何故か、あの言葉を聞いたことがあるような気がしてならないの」


 聞いたことがある。初めて会った女性の、その意味が掴めないあの言葉を。


「それも、あの時聞いた言葉よりももっと長い……そしてもっと意味のある文を。欠けてるところが、どんな文かは分からないけど……」


確証は無い。だが、何故か記憶の何処かにそれがある気がしてならない。


 普通なら、ただの与太話だ。


 けれど……。


「……フィーネの時も、結局その勘は正しかったみたいだからなぁ。考えすぎだとか言って断ち切ったりはできないか」


 先日フィールが「嫌な予感がする」と言った時も、それは一応は当たっていた。


 あの時居た謎の男(リーク)の存在を、フィールは確かに感知していたのだから。


 そう考えると、今回のそれも頭から否定するのは難しい。


「……なあ、フィール。もっと他に、記憶に残ってることはないか?」


「……少し待ってて」


 俺がフィールに駄目元でそう聞いてみると、フィールは目を閉じて静かに考えを巡らせ始める。


 途中、何かをポツポツ呟いているものの、それは上手くは聞き取れない。


 そんな状態のまま、多分10分くらいが経った辺りだろうか?


 フィールは、ゆっくりと瞼を開ける。


 だが、そのまま俺の方を見ると、


「……駄目。少なくとも、文は分からない」


 首を振って、駄目だったと呟く。


 けれど、


「……でも。絶対に……私は、前にその言葉を聞いた。内容も、言ってた人さえも分からないけど……その光景は、ぼんやりと記憶にはある」


 その聞いた時の曖昧な記憶は確かに存在するという。


「見たことのない場所で、4、5人の誰かが口を揃えてその言葉を紡いでた姿を。それを私は……その場所の、何処で聞いて……?」


 自分でさえ分からない、謎の記憶。


 今、彼女はそれに悩まされている。


「……分からない。なのに、触れたら駄目な気もする……。一体、これは何……?」


 いくら悩んでも、答えが出てくることはない。


 けれど、自分はそれを知っている筈。


 なのに思い出せない。


 分からない。


 怖い。


 そんな感情が、今のフィールからは見て取れた。


「……フィール」


「……何?」


「取り敢えず……今はもう、休め。お前の記憶は俺には分からないが……そんな焦った顔で考えても、答えが出てくるとは思えねえよ」


 だから、俺はフィールにそう伝えた。


 少なくとも……あんな顔をしながら考えても、考えが纏まるとは全く思えない。


 寧ろ、複雑化していくだけだ。


「私、焦ってなんて……!」


「……じゃあよ。なんで、そんな泣きそうな顔をしてる?」


「っ!」


 だって、今のフィールは……まるで、迷子になった子供のように、今にも泣き出してしまいそうな顔をしていたのだから。


 自分には、自分でさえ分からない"何か"がある。


 それが、不思議で。不気味で。


 きっと、怖いのだろう。


 恐ろしいのだろう。


 外界の敵から解き放たれたと思ったら、今度は自分の内面に苦しめられている。


 フィールには、思った以上に余裕がないのかもしれない。


 長い間、誰かに頼ることも出来ず……自分の苦悩を、押し殺していたのだろうか。


 俺はそれに、気づいていなかった。


「辛いなら、もっと縋ってもいい。甘えてもいい。そのために俺たちが……仲間が、いるんだから」


「……ぁ」


 だが、フィールの心が押しつぶされる前にそれに気づけたのなら。


 これから、皆で支えればいい。


 1人を押しつぶす程の重さを持つものでも、4人で支えれば持ち上げられる。


 乗り越えられる。


「だから、もしもして欲しいことがあるなら、遠慮せずに言ってくれよ。俺だって、お前に頼られると嬉しいんだから」


 だから、俺はフィールにそう伝えた。


 これで、フィールの性格がすぐに直るだなんては思っていない。


 でも、これでフィールがもっと頼ってくれるようになったなら。


 少しでも、背負うものが軽くなるなら。


 俺は、それだけでも嬉しいと心から思う。


「……じゃあ、早速頼みたいことがある」


「なんだ?」


「……夢幻列島に居た時みたいに、一緒に寝て欲しい。1人じゃ、不安だから」


 言ってくれた事は小さいことだが……今のフィールにとっては、それでも救いになるのだろう。


 ーー夢幻列島に居た時も、寝ながら俺に抱きついてたんだっけか。


 孤独(ひとり)は怖いから。


「喜んで」


「……ありがとう」


 俺がその頼みに応じれば、フィールは申し訳なさそうな、でも嬉しそうな笑みを返してくる。


 

 今回の一連の行動は、根本的な解決には全くなっていない。


 でも、今はまだそれでいいのだ。


 もしもここで、無理やりにでも解決しようとしたら、少なくとも、今のフィールの笑顔は見ることは出来なかった筈なのだから。


 


 


 


 

おまけ〜ビアンカと美雪の念話〜

美「……邪魔しちゃダメかな?」

ビ「ダメです。たまには、フィールさんにも花をもたせてあげましょう」

美「だよね。……でも、ここまで堂々とされてもなぁ」

ビ「私達が寝てると思ってるんでしょうね。……何時もなら気付くんですけどねぇ」

美「それだけフィールさんに夢中って事だよね。……羨ましいなぁ〜」

ビ「同感です」

美「何時か私達にもあんな風にかっこよく言ってくれるかな?」

ビ「どうでしょうねぇ……。私達と違って、フィールさんは過去が重いですから」

美「そうだよね……。でも、それを差し引いても羨ましものは羨ましい!」

ビ「明日の夜にでも襲いに行きます?」

美「賛成!」


何時から、2人が寝ていると錯覚していた?

バッチリ起きてますw

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