12話 お前は誰だ?
「久しぶり、だね」
「……んん?」
俺の耳に、1人の女性の声が聞こえた。
俺はそっちの方に振り向く。フィール達も同様にそっちを振り向いていた。
そこにいたのは、黒髪の女性だった。
服装は、日本でいう巫女服に似ているがそれは赤と黒を基調としており、若干威圧的な雰囲気を醸し出している。
髪は黒髪のストレートで、目は紅に輝いていた。
そして……そのスタイルも、相当な水準にあった。
俗に言う、ボン・キュッ・ボンって奴だろう。
ただそれが、一瞬フィール達の目が変わるほどのものであったのだが。
しかし、俺はこんな人に会った覚えはない。
「……人違いじゃねえのか?」
だから、俺はそうその女性に告げる。
だが、
「それは不正解。私が知ってるのは、君で間違いない」
その女性は、人違いではないと言い張っている。
こっちには本当に覚えが無いのだが……でまかせじゃ無いのだろうか?
と、そんな事を考えていると後ろから肩をトントンと叩かれる。
そっちへ振り向くと、若干怖い顔をした3人がこっちを見ていた。
「……カイト。この人、知り合い?」
「いや、俺は知らないんだが……」
フィールがそんな事を聞いて来ても、知らないものは知らない。
だから、厄介な事になる前に早く去ってもらいたいのだが……女性はそうするつもりは毛頭無さそうだった。
「……酷いなぁ。あの時の夜、あんなにも見つめ合ったのに」
「「「!?」」」
「ちょっ、おまっ、でまかせ言うな!」
挙げ句の果てに、そんなとんでもないでまかせを言い出す始末である。
しかも、フィールもビアンカも美雪も3人ともがそれを真に受けてしまっているようである。
あ、こりゃヤバイ気がしてきた。
「ねえ海斗くん、これはどういう事かな?」
「いや、だから知らねえって!」
「本当ですか?」
「だからそうだって言ってるだろ!」
案の定、2人は俺に怖い顔で迫ってくる。
美雪は目が笑っていない笑顔を、ビアンカは疑いに満ちた目を俺に向けてきている。
俺が誤解だと言っても、多分2人は聞く耳を持たないだろう。
なお、俺に対して突っかかってきていないフィールはと言うと。
「……その話、詳しく」
「いいよ。あの時は……」
その女性に、その話の内容を問いかけていた。
その上、その女性はそんなデタラメな筈の話を、あたかも本当にあったかのように語り出していた。
「あの時は、草木も眠るような夜だった。私はその夜、特に意味もなくなんとなく森を散歩していたの」
「……それで?」
「散歩し出してからどの位経ったときかは覚えてないけど……突然、誰かからの視線を感じたんだ」
「それがカイト?」
「まあ、そうだね。あの時は私も少しは驚いたよ。周りには気配一つ無いと思ってたのに、彼は私を見つめてたんだから」
「……それだけ?」
「ん〜……あんまりにもジロジロ見られたから私は話しかけたんだけど……海斗君は答えてくれずに消えちゃったしね。だから、特に何もしてないよ」
「……ジロジロ?何処を?」
「全身を。いやらしい視線で、ねっとりと」
「……断罪」
そして、そんな話を真に受けて俺の方へ恐ろしい顔で振り向くフィール。腕は既に龍のそれへと変化しており、おまけにそこに電撃まで纏わりついていた。
流石にそんなので殴られたらこっちも痛いし、このまま喧嘩を始めるのも流石に駄目なので俺はフィールを止めようとする。
「お、おい、ちょっと待て!お前はそいつの話を信じるのか!?」
「……情状酌量の余地は無い。私が、カイトを改心させる」
「だから知らねえんだって……危なっ!?」
だが、俺の否定の声も聞かずフィールからは雷撃をま 纏った拳が飛んでくる。紙一重で躱せはしたが、明らかにあれは手加減無しの一撃だった。
「手加減無しかっ!」
「だって、手加減したら当たらないし」
「嬉しくもねえ評価をどう、もっ!」
俺がそう言い返してる間にも攻防は続いている。
四面楚歌。味方は誰も、いやしない。
現在はもうこんな感じである。
「カイトさん」
「っ、なんだっ!」
「客観的に見ると……浮気した夫が、妻に苦し紛れに否定しているようにしか見えないです」
「ちくしょう、お前までそっち側か!」
当然、フローレもそっち側だ。
さらに、
「海斗くん。……覚悟は、出来てるよね?」
「少し……痛い目を見てもらう必要がありそうですね」
「ちょっ、危なっ!てかそれどっから出した!?」
ビアンカと美雪もフィールに加担して俺に襲いかかってくる始末だ。
しかも、ビアンカはスパークマインを、美雪は何故か包丁を片手に持った状態でだ。
3対1、言葉は届かず、こうなった元凶は面白そうにこっちを見ながら笑っている。
「どうしてくれるんだよ、これ!」
「覚えてくれてない、貴方が悪い」
「会ったこともねえのに覚えてるわけないだろうがぁー!」
しかも、意地でもその狂言を撤回しない辺りが実に悪質である。よく居る、「他人の不幸は蜜の味」と捉える人種なのだろうか。
「……まあ、貴方が前に私を見た時とは、少し姿が違うから分からなくても無理はないかもね」
「はぁ?」
「ふふ、まあ、じっくりと考えるといいよ。出来れば、次会う時までには思い出して欲しいけどね」
だが、その女性はここまで見て充分楽しんだのか、踵を返して歩き去ろうとする。
「ちょっ、去るならこれどうにかしてからにしろよ!」
「駄目。そうしちゃうと、面白くないから。私、面白くないのと面倒臭いのは嫌いだから」
「こっちは面白くないけどな!」
「うん、知ってる」
女性はそう言ってから、俺たちから遠ざかるように歩みを進めていく。
俺はその背中に一撃撃ち込みたいと思いはしたが、3人からの妨害が酷くてそれは出来なかった。
「ああ、最後に一つだけ」
そして、女性がある程度遠ざかった時。その女性は此方へ振り向いて……言葉を紡いだ。
『私は願おう』
『汝らに裁きの剣が向かんことを』
『私は望もう』
『汝らに光あることを』
『私は願おう』
『汝らが深淵へ届かぬことを』
『私は望もう』
『汝らが未来を築くことを』
『その望み叶わぬものであろうとも』
『争い続けよ』
『如何なる敵が立ち塞がろうとも』
『求め続けよ』
『永き夜が訪れようとも』
『堪え続けよ』
『さすればその先に一筋の光が見えよう』
耳ではなく、魂の奥底にまで響いてくるようなその言葉。
意味は分からないが、俺の心にはその言葉が深く突き刺さる。
それはフィール達も同様だったようで、攻撃の手を止めその女性の方を見つめていた。
「まあ、まだ君達には関係のない話だけどね。でも、いずれこの言葉の意味が分かる時が来るよ。……それじゃあね」
そして、固まっていた俺たちを背に、今度こそその女性は歩き去っていく。
それからしばらくの間、そこは静寂に包まれていた。
「……先程の方、一体何者だったのでしょうか」
その沈黙を破ったのはフローレだった。
もう姿の見えない彼女に警戒心をあらわにしており、呼吸も僅かに乱れていた。
「分からない……。会ったことなんて、無いはずだからな。彼奴みたいな目立つ奴、服装とかを変えた程度なら普通に気づくとおもうんだが……」
前に会った時とは少し姿が違う。
これを真に受けたとしても、流石にあの見た目を忘れるとは思えなかった。
「次会う時までに思い出して欲しい、か。会ったとしたら……お前は、いつ俺と会ったっていうんだよ」
「……今更で申し訳ないのですが、名前を聞けば直ぐだったのでは?または鑑定するとか」
「あ」
「案の定忘れてましたね。まあ、私も呆気にとられて忘れてたので何も言えないのですが」
だが、フローレの言う通り……彼処で名前さえ聞いておけば、こうはならなかったかもしれないが。
とはいうものの、俺の予想だと聞いてもはぐらかされる気がするが……まあ、それは言わないでおこう。
そしてその後、歩きだしてからしばらくして城の前でフローレと別れ、宿屋を見つけて俺たちはその中へと入っていった。
謎の女性登場。
本人は会ったことがあると言っているが、嘘か真かは不明。
さあ、彼女が新キャラか否か、そして否なら一体誰なのか!
それが明かされるのは次回……以降。
タイミングは決まってますが、そこまで何話掛かるかは流石に分からないですw




