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9話 月見酒

はぁ、はぁ、何とか、年を越す前に間に合った!

そして、ようやくフィーネ編が終わらせられる!

それではどうぞっ!

「……疲れてんのに寝れねえなぁ」


 俺は、疲れた目を擦りながら一人呟く。


 今はおそらく日を跨いだ位の時間だ。明日からは護衛としての仕事があるのでしっかり体力をつけとかなきゃいけないのだが……全く眠くならない。


 フィールもビアンカも美雪も、ぐっすり眠っているため話す相手もいない為非常に暇なのだ。気持ち良さそうな寝顔を見せている此奴らを起こすのも気まずいし。


「夜の散歩にでも行ってみるか?どこも開いてなさそうだが」


 そのせいで、そんな選択肢位しか頭に思い浮かばない。日本と違って店なんてものは空いていないが……まあ、夜風を浴びるのも悪くは無いだろう。


 外は暗闇に包まれているが……この程度なら、まだまだ鮮明に見通せる。あくまで月明かりだから新月になると厳しいだろうが、ちょうどいいことに今日は満月だ。


「……このままじゃ何も変わらんしなぁ。まあ、取り敢えず出てみるか。そーっとそーっと……」


 というわけで、俺は特に出来ることも無いが音も立てずに窓を開け、そのまま空へと飛び立つ。一応、靴もしっかりと履いた上で。


 夜の街は人影一つ見えず、静寂に包まれていた。


 その雰囲気は何処となく不気味には見えたが、それを深く意識する前に俺はある景色に目を取られる。


「……こりゃ想像以上に綺麗だな。彼奴らにも見せたほうが良かったか?」


 漆黒の湖が、月明かりに照らされて煌めいているその光景は今まで見たことのない位美しいものだった。


 背景に見える星空も、日本で見るそれとは大違いだ。もちろん星座なんてものも無いが、その辺はあっても分からなかっただろう。


 何せ、余りにも見える星が多いのだから。恐らく、空気が彼方と比べ物にならない澄んでいるからだと思う。


「こういった景色を綺麗だって思える辺りが、心に余裕が出てきたって事なんだろうな。夢幻列島も幻想的な場所だったけど、彼処は安らげる時なんて無かったし」


 あっちは、夜の闇の中で木や石が仄かに発光しているというそれはそれで綺麗な光景があったのだが……それをこうやって眺めた事は無かった。いや、多分これからもそうする事は無いだろう。前行った時、大分カオス空間と化してたからもう行きたくないし。


「偶にはこういうのも悪くねえな。……こういうとこで酒とか飲んだら美味いのかね?飲んだことすらねえから分からんが」


 一応あっちでは未成年だが、こっちの世界は15歳でもう酒は飲める。だから、飲もうと思えば飲めはする。


 とは言っても、今は手持ちがないので飲みたくても飲めないのではあるが。大分前にビアンカに唯一あった酒瓶を渡したのは失敗だっただろうか。


「夜の都市を照らす月……。戻っても寝れそうに無いし、もう少し見てから戻るか」


 俺は照らす月と、それに照らされる建物を見ながらもうしばらくそれをぼんやりと見つめていた。


 だからだろう。


「……ん?」


 俺が、それに気づいたのは。


「彼処って、領主の屋敷だよ、な?なんでその屋根に、人が座ってるんだ?」


 俺たちが昨日訪れた領主の屋敷。その屋根に、1人の人影が見えたのだ。


 その人物の顔や体格までは分からないものの……少なくとも、それは人のようだった。


 その為、


「ちょっと行ってみるか」


 俺はその人物のいる場所へと向かっていく。とは言っても、別に大した目的がある訳では無いが。


 精々、話し相手が欲しいなと思っただけだ。別に屋根に居ることについて咎めようとかそういうのは全く考えてない。


 そして、少し飛んだ辺りでその人物の姿がはっきりと見えてくる。


 それは、白銀の鎧を身に纏った騎士の男だった。


 暗いために髪色までは分からないが……その瞳だけは、はっきりとエメラルドのように煌めいている。


 ……なんか、似たようなのを何処かで見たような気がする。


 その光景に何故か既視感を覚えながらも、俺はその男へと近づいていく。


「……あんた、こんな所で何やってるんだ?」


「……見ての通りだ。寧ろ、お前こそなんでこんな所に来た」


 その騎士の手には、酒瓶とそれを注ぐ器があった。まあ要するに酒を飲んでいたという事だ。それも、こんな所で。


「俺はこんな所にいる人影が見えたもんだからな。気になって来ただけだ」


「……成る程な。これだけ月が登れば大体の奴らは寝静まると思っていたのだが……何時の時代にも、お前みたいな奇特な者は居るということか」


「寝れなかっただけだっつの。そして、こんな場所で酒飲んでるお前に奇特とか言われたくはない」


「……まあ、それは当然だろうな。だが、どうにもここ以外で飲む気にもなれなくてな」


 その騎士は、そう言いながらも酒を味わっている。夜空に浮かぶ月を見ながら、感慨深そうに。


「どういう事だ?」


「……俺は、ある方に仕える騎士だ。そして、俺の主は今この地で深い眠りについている」


 どうやら、この男は騎士の格好に違わず誰かに仕えている者らしい。もっとも、その主は今はもう居ないらしいが。


「へえ……。だけど、その言い方だと……。既にお前の主は死んでいるんじゃ無いのか?」


「……死んでいる、か。まあ、そんな所だろうな。事実、今はこの深い湖の底にいるからな」


 それは何処か含みのあるような答えだったが……それについては、余り追求はしないほうがきっといいだろう。


 何せこの男は、その死んだ主になお忠誠を誓っているようだったから。


「……成る程な。じゃあ、その酒は……」


「いや、この酒には深い意味は無い。別に、俺の主は酒を飲んだりはしなかったからな。……ただ、こうやって昔を思い出すにはちょうど良かっただけだ」


「あ、それは関係ねえのか」


 そして、その主が生きていた時の事を思い出すためにこうやってここで酒を飲んでいたと。


「……主が眠りについた時も、今日と同じような満月の夜だった。だから満月の夜は、ここで酒を飲むのが習慣になってしまったのだ」


 そう言いながら、男は再度酒を口に流し込む。


 既に、酒瓶の中身は半分近くが無くなっているが、男が酔っている気配は全くない。


「……」


「……」

 

 それから、しばらくの間沈黙が続く。


 その間、男は月を見上げながら酒を味わい続けていたが、一向に酔う気配は見せてはいない。


 まあ、それに関しては単に度が低いだけなのだろうが。


「……そういえば、お前以外にその人に仕えてた奴はいないのか?」


 そして、その男のもつ酒瓶から酒が消えた頃。俺はふとそんな事が頭の中によぎり、ついそう言葉を発してしまった。


「……主は、多くの家来を持つ方では無かった。だから、仕えているのは俺を含めたったの3人だけだ」


 その男が言うには、仕えているものは後2人居たという。もっとも、


「その2人が何処に居るかまでは分からないがな。……イル(・・)ハン(・・)も、どうせ好き勝手やってるんだろうが」


 その2人……イルとハンと言う奴らが何処に居るかまではこの男も知らないようだが。


「イルにハンか。……そういえば、お前の名前は何なんだ?」


 その2人の名前を聞いて……俺は、ようやくこの男の名前を聞いていなかったことに気がついた。


 鑑定は、したのが気づかれると気まずいので出来れば使いたくはない。大体の相手は気付きはしないが、バルスとかはその視線だけで気付いたりもするのでそういう人種は少なからず居るはずだ。


 だから、俺は直接聞いてみた。


「……俺はリークって呼ばれてる」


 すると、相当あっさりと答えてくれた。

 

 まあ、知ったところで呼びやすくなる程度の差しか無いんだけども。


「じゃあ、もしもイルとハン?って奴に会ったらお前の事を伝えとくよ。そうすれば会えるかもしれねえだろ?」


「……まあ、ここ最近会ってないからな。久しぶりに会うのも悪くないかもしれないか。じゃあ、もしも会ったらよろしく言っておいてくれ」


 そして、俺がそう提案するとリークはそれに応じる。まあ、会う可能性は少ないだろうが……何故か厄介ごとに縁がある以上、会えるかもしれないからな。


 と、そんな事を話しているとリークは不意に立ち上がる。


「……久しぶりに話せて、中々に楽しめた。感謝する」


「……どっか行くのか?」


 そしてリークは、話を切り上げて別れの言葉を口にする。


「もう酒も無くなってしまったからな。それに、これ以上ここにいて他の者に見つかるのも面倒だ」


「成る程な。それなら、こんな所で酒を飲むなとも言いたいけど」

 

「それは無理な話だ。……ではな」


 その理由はもっともであり、それを止める理由も俺には無い。だから、俺はリークが去るのを黙って見届けようとした。


 バサァァン!


「っ!?」


 突如として、その場に立っていた筈のリークの姿がかき消える。


 その瞬間、まるで鳥が羽ばたくかのような音が聞こえたが……何処を見ようとも、その姿は見当たらない。


 魔法を使った訳でもない。それなのに、何処に移動したかすら全く見えなかったのだ。


「……カイトっ!」


 それに呆然としていると……不意に、聞きなれた声が俺の耳へと届く。


「っ、フィール!?なんで此処に!?」


 その声の主は今頃宿屋でグッスリ寝ているはずのフィールだった。


 起こさないように慎重を期したはずだったのだが……どうにも起こしてしまったようである。


 だが、それにしてはフィールの様子が変だった。


 何故か、その顔には焦りと恐れが見え隠れしていたのだ。


「カイトがっ、いなかったからっ、探してたっ!それよりもっ、さっきの男っ、一体誰!」

 

「あ、彼奴はリークっていう騎士だが……一体、それが如何したんだ?」


 今までにないくらいに焦っている様子のフィールに俺は若干押されながらも答える。


 何時も冷静なフィールが、此処まで焦るとは一体何があったのか。その予想すら俺はついていない。


 だが、フィールの放った一言で俺は驚愕したが。


「さっきの男がっ、多分だけどっ、例の嫌な予感の元凶っ!」


「……はぁ!?」


 フィールがこの街に来てから感じ続けていた嫌な予感。その元凶こそが、リークだったとフィールは主張していた。


「おい、それ本当か!?」


「本当っ!あの男が見えなくなるその時までっ、全身が押しつぶされるような悪寒がしてたっ!」


 俺はそんなものは全く感じてもいなかったが、フィールはそんな感覚を覚えていたという。

 

 分からない。リークが本当にその原因なのか。


 だが、その答えは……すぐに、俺の手元へと落ちてきた。


 ヒラヒラと、空から1枚の羽が俺の目の前へと落ちてくる。


 普通に見るような、茶色の羽だったが……俺はそれが何故か普通のものには見えず、とくに何も考えず鑑定を掛けていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


分類

レア度

説明


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 それには、何も映らなかった。


 こんな事は、今まで1度として無かった。


 だが、この羽が誰のものかは、俺は分かってしまっていた。


 さっき聞こえた羽ばたく音は、恐らくリークが出した音なのだろう。この羽は、その時に散ったものだと思われる。


 今更ではあるが、酒瓶一本全て飲み干して一切酔わなかった時点で多少は怪しむべきだったのかもしれない。


 あれは少なくとも人族ではない。


 それが魔族なのか、はたまた別の種族かはまだ分からない。


 しかし、


「……知らないって、幸せな事だったんだな」


 少なくとも、俺がつい先ほどまでその得体の知れない何かと関わっていたことは、変わることのない事実だった。

突然出てきた謎の男、リーク。

果たして、彼は一体何者なのか。

だが、一つこれだけは言える。


当然、重要人物です。


まあ、話の流れで分かりきってはいるでしょうけど。


それではみなさん、良いお年を。

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