5話 2日で何しようかな?
「そう言えばビアンカさん。あの時何考えてたの?」
「?あの時とは?」
「話の途中で、「……ぁ」みたいな声漏らしてたでしょ?何でもないって言われても少し気になってさ」
宿屋に向かって歩く途中、美雪がビアンカに質問する。それに関しては、確かに俺も気になってはいた。
「ああ、それですか。……あの場で言ったら面倒な事になるから言わなかっただけで割と重要な問題なんですけどね。一応、宿屋に着いてから言おうと思ってたのですが」
「……何があるの?」
俺も美雪もフィールもその問題というのが思いつかない。ビアンカの表情から、本当に重要な事だというのははっきり分かるというのにだ。
そんな俺たちを見て誰も察していないことを確認してから、ビアンカは若干気が沈んだ声で語り始めた。
「……私達が旅してる時、魔物を撃退する前に魔物が逃げ出すじゃあ無いですか?そうなると、道中で魔物を狩るのって不可能なんじゃないかなーと思ったのですが……」
「「「……あ」」」
その言葉で、俺たちはその重要な問題をはっきりと思い出した。ギルドにいる時に、気付かなきゃいけなかったような事を。
俺たちが空を飛んで旅をしている時、地上にいる魔物すら気配を察知した途端に逃げ出していた。なら、地上に俺たちがいたら一体どうなるのか?
考えるまでもない。夢幻列島にいるような奴らでもない限り、確実に逃げられる。魔物の本能は人の探知能力とは何かが違うみたいだから、もしかしたら気配を感じる前に逃げられる可能性すらある。
「……うわぁ面倒な」
そうなってしまうと、道中での魔物狩りは成り立たなくなる。狩るためには遠出しなければならず、護衛が遠ざかるのは流石にアウトだ。
「はぁ……結局夢幻列島産食料大量放出の巻になるのかねぇ……」
「魔物が逃げないように神にでも祈りましょうか?」
「神の復活を止めようとしてる私達が言えることじゃないよね、それ」
まあ、決まってしまったものは仕方がない。魔物が狩れなくなるは俺たちが原因なのだから、その責任は取らせてもらう。……価値が知られたら面倒なんだけどなぁ。
「……そんな事話してる間に、着いた」
「ん?ああ、此処か」
そしてそんな会話をしながら歩くうちに、何事も無く宿屋へと到着する。此処も他の建物と同じく石造り、そして二階建てだ。ドアは流石に木製だが。
俺たちは、ドアを開けて建物の中に入っていく。すると、だいたい中学生っぽい少女が出迎えてくれる。
「いらっしゃいませー!宿のご利用ですか?」
「ああ、そうだ。部屋は「「「四人部屋一つ2日間で」」」……それでよろしく」
俺がその少女に告げる前に、三人が同時に勝手に決める。まあ、構わないのだけれども。美雪はともかくフィールとビアンカは同じ部屋で泊まるのは何回も経験してるし。
「えっ……あっ、はい、わ、分かりました!じゃあ、あ、案内しますね!」
もっとも、迷いなくそう言われた少女は困惑していたが。大体の場合は、男女で部屋は分けるものなのだし。……だが、何故頰が若干赤くなっているのだろうか。
そして、俺たちはその少女に二階の一室に案内される。壁が全て石な為に若干重い雰囲気を感じるものの、取り付けられた窓からは湖を映した美しい景色が見えており、心地よい風が吹き込んでいる。
「此処か」
「はい、そうです。……あ、言い忘れてました。隣にも泊まってる人はいるので、エッチぃのは控えて下さいね。では、ごゆっくり」
「「「「!?」」」」
少女はそんな爆弾発言を残していくと、速やかに一階へと戻っていく。……さっき赤面してたのはそんな勘違いしてたからか!?
「あわわわ……!」
「なななななな何を言ってるんですかあの少女は!?」
「そそそそそそんな事考えてないし!本当だよ!?」
俺以外の三人は、一目見て分かるほどに動揺していた。まあ、唐突にあんなこと言われたら当然の反応なのだが。……だが、三人揃って顔がトマトの如く真っ赤になってしまっているのは度が過ぎているとは思うが。
だから、
「落ち着け」
ピシッ!
「あたっ」
ピシィッ!
「痛っ」
バシィィィィィィン!!!
「ぐぁぁぁぁあああ!!??」
とりあえず、三人の頭を軽く (一人例外有り)ハリセンで叩く。軽くない一撃を貰った一人だけは大袈裟な悲鳴を上げているが。
「割れる!割れる!頭が割れるぅ!」
「……カイト、やりすぎ」
「……いつもの強さでやったつもりだったんだがなぁ。加減間違えたか?」
なお、ビアンカへのハリセンの強さは前までと同じようにやったつもりだ。此処まで絶叫されるほど強くはしてない。
「おぉぉ……まあ、3ヶ月ぶりですからねぇ……カイト様も感覚忘れてたんじゃあ無いですか……?」
だが、此奴は此奴で復帰が早かった。さっきまで床を転がり回ってたというのに、すでに頭をさすりながらではあるが普通に会話が成り立っている。
「そんなもんなのか……?まあ、すまん」
「まあ、良いですけども……。で、これから3日間どうするんですか?」
俺は今更かもしれないが一応謝っておく。だが、ビアンカはもうほとんど気にしてないようでケロっとした顔で今後の予定を聞いてくる。
しかし、その辺りは実はあまり決まってはいない。……というのも、本来はこの街に結構長く滞在しようとしていたので、やろうとしていた事が大分あるのだ。だが、それを全部やろうとすると流石に2日じゃ終わりそうに無いのだ。
「まだ決めてねえんだよな……。再生魔法を使っても何故か再生出来ない腕についても調べてえし、前回ぶっ壊れた武器の代わりも作らなきゃいけない。そのついでに俺の初期の方の作品の改良もしたかった。でも、2日じゃ終わらねえからどうするべきか……」
一つ目は、欠損した左腕の事。腕なら、アウィスとの修行の時に何度も消し飛ばされていた。だが、それに関しては普通に魔法で治せていたのだ。それが今になって、何故再生できなくなっているのかが非常に気になっている。神を名乗るあの女性にもう一度会って聞ければいいのだが、それが出来そうにない以上自力で調べる他は無い。
二つ目は、壊れた武器の代わりの作成。俺が前まで使っていた「邪剣エクスカリバー」はフィールの一撃で完全に折れ曲がってしまっている為に修復は不可能な状態だ。なら、新しく作らない訳にはいかない。それに、夢幻列島にいた時よりもスキルは上がっているからより高い性能の物が作れそうだし。
三つ目は、二つ目の目的のついでにはなるが夢幻列島にいたときに作った他の作品の修繕・改良だ。フィールに渡してるステ上昇用のアクセサリや、収納の腕輪等の便利アイテムなど直せる物は結構ある。
基本としてはこんな感じである。出来ればそれに加えて義手にもっと慣れておきたかったり、龍人の里で大分疲労が溜まってるから普通に休んでいたかったりもしていた。それは諦めざるを得なさそうだが。
「……私の所為で、ごめんなさい」
「うっ、私がもっとしっかりしてれば……」
俺の言葉を聞いたフィールと美雪は、とても申し訳無さそうな顔をしていた。……それもそうか。フィールは腕を吹き飛ばして剣をへし折った張本人だし、美雪は再生魔法を使っても腕を治せなかった事を気にしているだろうから。
「いや、気にしないでくれ。むしろ、考え無しにこんな事言って悪かった」
俺は二人に謝る。二人が敢えて触れないようにしていた事を意識してなかったとはいえ容赦無く指摘してしまったのだから。
「……で、マジでどうしようか。つーか、お前らは何かやりたい事って有ったりするか?」
そして、結局どうするかが決まらないので……三人がやりたい事を聞いてみる。要するに、考えるのを止めた。後々苦労するのが目に見えてはいるが。
「私は……主要武器四つのメンテナンス位ですかね」
「……私は、この街について調べたい。根拠は全くないけど……何か不穏な感じがするから」
「私は久しぶりにフローレちゃんに会いたいかな。3日後に会えるって言っても、早く会って色々話したいし」
結果、更にやる事が増えた。だが、その中で一つ妙に気になる事が有った。
「不穏な感じ?」
「うん。……何故かは分からないけど、此処は危険だとか、早く逃げろとか……。体の中の何かがそう告げてくるみたいな感じ」
フィールの告げている事は、根拠も何も無い唯の勘だ。だが、その話は妙に気になってしまう。
この街にいるのはたった2日だ。だが、フィール程の強者がそこまで危険を感じる勘となると、それは何かヤバいものなのではないか。
「何も無いって思いてえけど……多分、何かしらは有るんだろうな。だが今日はもう時間がなあ……王女にでも会いに行って、明日1日使って調べてみるか。武器は……帝都行ってからでもどうにかなるか。予備はあるし」
まあそういう感じで、取り敢えずは王女に会いに行く事になった。武器に関してはサーベルスパイダーの脚で作った予備があるのである程度ならどうにかなるだろうし、それで対応できないような強敵にすぐに遭遇するとは思えない……フラグっぽいなぁ、この考え。
「……まあ、いいんじゃないですか?それならこれ以上疲労も溜まらないでしょうし」
「じゃあ、二人もこれで決定でいいか?」
「私としては嬉しいけど……いいの?」
「……根拠も無いのに、信じてくれるの?」
俺が二人に確認を取ると、意外だったみたいな反応が返ってきた。
恐らく、二人は駄目だと思っていたのだろう。だが、それを俺とビアンカが了承した。それを予想していなかったのだろう。
「構わねえよ。ここでやろうとしてた事は帝都でも出来るからな。それに、たまにはお前らの頼みも聞いてやらねえと男として、な?」
基本、この旅で一番好きに動いているのは俺だ。三人は、そんな俺に合わせて動いてくれている面も少なからずある。なら、たまにはこっちが三人に合わせて動いてやらないと。
「そっかぁ……じゃあ、今回はお言葉に甘えさせて貰うね。ありがとう、海斗くん」
「……じゃあ、早く行こう?カイトをこの世界に呼んだ人だから、私も会ってみたいし」
フィールと美雪はそう言いながら、部屋の外へ出て行く。なんだかんだで、美雪よりもフィールの方が乗り気なように見えたのは気のせいだろうか……。
「ま、そんな事はいいか。ほら、行くぞビアンカ」
俺はそう言いながら、まだ部屋に残っているビアンカを急かす。だが、ビアンカは動こうとはしていない。
「……っ、あっ、はい。では、行きましょうか」
どうやら何かを考えていたようで、俺が声を掛けるまで二人が出て行ったことにすら気づいていなかったようだ。此奴らしくない様子だ。
「……何か有ったのか?少し顔色が悪いように見えるが」
「いえ……何も無いです。ほら、二人とも待ってるでしょうから早く行きましょう」
「……まあ、そうだな。何か有ったらちゃんと言えよ?」
それについてビアンカに聞いてみるものの、話を流される。それなら、下手に追求しないほうがいいと判断してそれ以上の追求は止めておいたが、何を考えてるんだろうな?
そして、俺たち四人は宿屋を出て、王女に会いに行こう……としたのだが。
「……そう言えば、フローレちゃん何処にいるんだろ?」
「……よーし、またギルドに行って聞きに行くかー」
そこで、誰も王女の居場所を知らないことに気づき、大急ぎでギルドへ聞きに行く羽目になったのだった。
……宿屋に来る前にも同じような事した気がするなぁ。




