2話 絡まれるのはお約束
水上都市フィーネがある湖『アクアリス』は、四方が山脈に囲まれており建物を建てる土地が無かった。
それだけなら其処に住もうとしなければ良いだけの話だったのだが、その湖の水は濃い魔力を含んでおり、それに気付いた人々はそれをどうにか出来ないかと考えた。
それの答えが、「湖の上に街を作る」という事だった。琵琶湖より明らかに広そうなその湖だからこそ出来たことだろう。
初めは村程度の規模であったが、街道を整備し魔水の輸出が開始され状況が一変。みるみるうちに発展を遂げ、帝国有数の都市へとなったのだった。
これが、ビアンカから聞いたフィーネの歴史だ。そして、それを聞くとその見た目も大分納得が行く。
巨大な円形の湖に掛けられた石造りの十字状の橋。そして、それを中心として造られた建物の数々。
木造の建物は少なく、大体が水に強い石造りの建物だ。前まで居た龍人の里の和風なイメージとは一変、今度は完全に欧米風の街だ。
だが、その都市の見た目とは裏腹に水は透き通っており日本に居た時は見れなかったような美しさを醸し出していた。これが、科学による開発か魔法による開発かの違いなのだろうか。
「排水とかそういうのもありそうなもんなんだけど、そうとはとても思えねえな」
「そこそこ大きい生き物の気配は感じるけど、魔物の気配は感じないね。これだけ魔力が濃いなら、魔物が出てもおかしくないと思うのに」
「その辺りは調べられているらしいのですが、未だに不明らしいですね。もっとも、栄えてる街ですのでギルドもある為何か有っても問題は無さそうですけど」
「……とか言ってると?」
「そういう事言うと本当に何か起こるから止めような」
今は既に街に入りギルドに向かっている最中だ。なお、道は門番に聞いておいた。
理由は、この街にはそこそこ滞在するので情報収集の場として優秀な場所を把握しておこうかと思ったからだ。それと、宿屋の場所も其処で聞く予定である。
そして、俺たちはギルドの建物にそれほど時間を掛けずに到着する。ギルドに国境は無いようで、建物はラントのそれと構造に違いはないように見える。
俺たちは扉を開けその建物の中に入っていく。そして、中にいた冒険者達の視線が一斉に集まり……男冒険者からの目線がいきなり厳しいものになる。
「ねえ、海斗くん。これって、アレ?」
「ああ、アレだな。俗に言うテンプレって奴だ」
「……ウルブスでも似たような事があったような?」
「同じようにすれば止まりますかね」
ビアンカはそう言いながらも僅かに気迫を強めていく。まだ俺への確認の領域であり周りに影響はないが。
「やると確定で問題になるから止めとけ。まあ、なんか言われたりしたらいいけd「おいガキ。昼間から女侍らすとはいい度胸してんじゃねえか」……早えなぁおい」
俺がそのビアンカを止めようと小声で伝えている途中、1人の冒険者が立ち上がり俺に威圧的な声を掛けてくる。
身長は2メートルありそうな大男。背中には双剣を背負っており立ち振る舞いには大きな隙は見えない。まあ、そこそこ強いのだろう。
その声に一瞬、ほんの一瞬だがフィールとビアンカと美雪の三人から殺意が漏れ出る。俺はそれに対して手で押さえるように指示しながら前に出る。
「それがどうした?別にお前に不都合はねえだろ」
「不愉快なんだよ。てめえみたいな世間知らずのガキを見るのがな」
要するに、俺がいるのが不快だという事らしい。もっとも、女目当てでないのは割と予想外だったが。
「おい、誰か止めろよ!彼奴死ぬぞ!」
「いや、流石にギルド内で殺害事件は起きねえよ!」
「そういう問題じゃねえよ!彼奴は『紅風のブラド』!世界有数のアダマンタイトランクの冒険者だ!」
「な、なんだってー!?」
「ちょっ、もう剣抜いてんじゃねえか!つーかそんな奴止められる訳ねえだろ!」
周りにいた冒険者達がそんな事を囁いている。話を聞く限り、世界中を見ても大分強い方の冒険者だったらしい。そして、其奴は既に剣を抜いている。
「刃こぼれ一つ、血糊一つないか。お前が手入れしてんのか?」
「当たり前だ。武器は命を預ける物、日々の手入れを怠った事は一度たりとも無い」
「そりゃいい心掛けだな。……だが、剣を抜いたって事は覚悟は出来てるんだろうな?」
俺はそう言いながらもアイテムボックスから剣を……先日折れたエクスカリバーの代わりにサーベルスパイダーの脚から作られた剣、シュバルツを取り出す。そして、それをブラドに向ける。
「……ふん、剣だけは大層なもん使ってるようだな。だが、それだけでどうにかなる程この道は甘くねえんだよ!」
ブラドはそう言いながら、片方の剣で俺の剣を弾きもう片方の剣の峰で俺の左腕を狙ってくる。なお、この街に入る前に義手には包帯を巻いて偽装してあるのでブラドはこれが本物の腕じゃないという事は知らない。
もっとも、この程度の攻撃ならその程度の違いは関係無いが。
「なっ!?」
剣を狙った方の一撃は俺の剣によって捌かれ、左腕を狙った方の一撃は義手によって受け止められる。それに対して驚きの声をあげるものの、もう遅い。
俺は剣をブラドの眼前に突きつける。そしてそれを一拍遅れて認識したブラドは剣を手放し両手をあげる。
「何か言うことはあるか?」
「……悪かったな。戦いも知らないようなガキだと思ってた。完全に俺の勘違いだ」
ブラドは頭を下げる。先程までの態度からは予想も出来ない位に落ち着きを取り戻していた。無理やり落ち着かせたと言っても過言では無いが。
「……はっ、ブラド!あんた何してんのよ!いきなり攻撃とか流石に見過ごせないわよ!」
と、そこでブラドの仲間と思わしき女性が立ち上がる。ローブ姿で杖を腰にぶら下げているところを見ると魔法使いだろうか。
「うっ、す、すまん……此奴を見るとつい昔の事を……」
「あんたの過去が色々と酷い事は百も承知よ!でも此奴らは関係無いでしょうが!」
「だ、だが実害は出てねえぞ?」
「ええそうね!あんたが完膚なきまでに負けたからね!」
魔法使いの女性はブラドを怒鳴りつけている。それを見てしまった周りの人々は顔を引きつらせていく。あの態度が、怒鳴られただけでここまで弱々しくなるのか?と。
なお、俺たちはその女性がブラドに文句を言っている間に此処に来た目的を果たそうと手頃な場所にいる冒険者達の方へと移動する。そして、その冒険者達は俺たちが近づいて来ていることを認識すると即座に目を逸らしていく。
だが。
「それに!コレを倒したあんたは何者なのよ!」
それより前に女性の矛先が俺へと向けられる。流石に見過ごしてはくれなかったようだ。
「ただの銀ランクの冒険者だ。カードも此処にある」
俺はアイテムボックスからラントで貰ったカードを取り出し見せる。
女性はそれを疑わしい目で見つめた後、何か驚いた表情をして俺に言う。
「……ねえ。それ、詳しく見せてくれないかしら」
「構わねえぞ。別に偽造とかしてる訳でも無えし」
俺は女性にカードを渡す。それを受け取った女性はカードのある一点をマジマジと見つめた後、頭を手で押さえて溜息を吐く。
「……発行者、『ソール・グリモリト』。何がただの冒険者、よ。支部長クラスに認められておいて信じられる訳無いでしょうが」
「あー……そこかぁ……」
女性はカードに書かれていたサイン……その人の身分を証明する証人の役割をする人の名前を見て呆れていた。そして、その辺を完全に失念していた俺も頭を抱える。
ソール・グリモリト。冒険者ギルドラント支部の支部長だ。そして、ラントは大都市な故に他の街に比べると支部長の権利が強い。
成り行きでソールが直接発行していたが、本来は受付の人が発行するものであってそんな大層な人が書くものでは無かったのだ。
「……別に大したことはしてねえよ」
「だからそれを信じられる訳無いでしょ。……それに、そろそろだと思うわよ?」
「何がだ?」
女性が思わせぶりな事をいい、俺がそれを尋ねる。だが女性がそれに答える前に答えがやってきた。
「……何か騒ぎがあったようだが。誰か説明してくれる者はいないかね?」
建物の奥の方から、1人の小太りの男性が歩いてくる。威厳を感じさせるオーラを放っており、そこそこ高い位にいる者だということは直ぐに察した。
「支部長。実は……」
女性はその支部長に今起きていた事を事細かに説明し始めやがった。俺がブラドに絡まれたことも、それを返り討ちにした事も、カードの発行者がソールだった事も。
それを聞いた支部長は少し悩みながらも、そしてその後何かに気付いたような表情を見せた。そして、それから鋭い目で俺のことを見つめてくる。
「ふむ……そうか。そういうことか。すまないが、部屋まで着いてきてくれないか。僕の予想が正しければ、複雑な事情を持っているだろうからね」
何を予想したのかは分からない。だが、少なくとも此処で会話をするよりは部屋に行ったほうが問題が少ないだろうと判断する。先程から空気と一体化しているフィール達に目線で確認しても了承は取れた。
「……分かった。だが、こっちはこの街に来てから間も無いんでな。宿屋とかも探さねえといけねえからさっさと済ませてくれよ」
「ちょ、ちょっと。敬語くらい使いなさいよ」
「必要だと思う時は使うが今はそうじゃねえし」
「知らないわよ。どんな印象持たれても」
「どんな印象持たれても別に構わねえけどな。ギルド使えて得はあるけど使えなくなって損する訳でも無えし」
「本当になんなのよあんた……」
俺はそんなこんなで色々と突っかかってくる女性をあしらいながらも支部長の後ろを着いて行った。
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「申し遅れたね。僕の名はハイド。冒険者ギルドフィーネ支部の支部長だ」
「そういえば私も名乗ってなかったわね。私はシルフィア。ブラドの「紅風」に合わせて「碧風」なんて呼ばれてるわ」
「周りが言ってたから分かるだろうが、俺はブラド。一応そこのシルフィアと同じでアダマンタイトランクの冒険者だ」
「ハイド、シルフィア、で、ブラドか」
部屋に入ると、三人が自己紹介をする。三人とも、大分有名な立ち位置にいるようだ。特に、シルフィアとブラドは冒険者の中では最高峰らしい。
まあ、名乗られたからには俺たちも自己紹介しないとな。
「黒野海斗。銀ランクの冒険者だ」
「……フィール。銀ランク冒険者かつ、カイトの恋人」
「ビアンカです。カイト様のメイド兼恋人です」
「え、えっと、白井美雪。一応王国の勇者で、海斗くんの恋人だよ」
俺たち四人は全員名乗った。だが、それに関して色々と言いたい事はあるが。
「……流石にそれは人として無いと思うわよ」
「んな事言われてもなぁ。確かに全員好きだけども、こうなったのは成り行きだし」
シルフィアからまるでゴミを見るかのような目で見られる。「その年で女誑しなのは万死に値する」なんて言うような視線だ。
だが、それに対して俺より反応したのは三人いた。勿論、恋人を名乗った三人だ。
「……何か文句でも?」
「私達は、私達の意思でカイト様に着いているんです」
「勿論、恋愛感情を含む、ね」
三人からシルフィアに向けて僅かながら殺気が放たれる。なお、僅かというのは俺たちにとっての僅かであり、レベル換算すると50以下位になると失神する位の強さはある。
シルフィアはそれに体をビクッと大きく震わせ、後ろへ一、二歩後退する。脚を見てみると、一目で分かるほどに震えていた。
「止めてやれ。幾らアダマンタイトランクの冒険者でも、その威圧はやり過ぎだ」
「……カイトが言うなら」
「分かりました。……でも、アダマンタイトランクってこんなものなんですね」
「ビアンカさん。事実でも本人の目の前で言ったらダメだよ」
俺がそれを哀れんで止めるように言うと、三人は一斉に威圧を解く。ビアンカと美雪が割と酷いことを言っているが、それを言及できる者はいない。
「……っ!」
「お、おい!?ほら、立てるか!?」
シルフィアは威圧から解放された後、ぺたりと床に座り込んでしまった。それほどあの三人の威圧がヤバかったのだろう。
なお、ブラドが平常なのは三人がブラドを威圧の範囲に入れなかったからだ。ピンポイントで殺気を当てられていた為に、シルフィア1人だけしか恐怖を味わってはいない。
そして、その光景を見ていたハイドは何かを確信したような表情を見せる。それを見た俺は若干嫌な予感を感じた。
ハイドが何に気付いたかは予想がつかなかった。だが、それを考えるより前にハイドは告げた。
「……今のを見て、確信したよ。君達だね?ソール支部長が言ってた、数万の魔物を数人で殲滅した規格外の冒険者っていうのは」
今回の章、展開早いですねー(棒
まあ、フィーネも重要な場所なので書かないわけにもいかないのですが、あくまでメインは帝都なので。




