プロローグ
「海斗くーん!一緒に帰ろー!」
授業が終わり、今は帰りのホームルームの前のあの微妙な時間である。俺に声を掛けてきたのは、ポニーテールの少女、白井美雪。俺の幼馴染みの1人だ。
「落ち着けって。ほら、周りの目がカップルでも見るような冷たいっていうか嫉妬っていうか、まあ、そんな目で見てるから」
「確かにそうだな。嫉妬しそうだな」
「仲がいいのは良いことだと思うけど」
そう言いながら近づいて来たのは、影山忍と遠藤晶だ。これまた俺の幼馴染みである。忍は名前の通り影が薄く、よく忘れられる。晶は、頭も良く冷静沈着なのだが、人の気持ちに気付かない鈍感野郎だ。
「え?別に良くない?」
「良くねえよ!?結構ダメージ入ってるんですけど!?」
美雪の放った一言が周りの目をさらに冷たいものにする。辛い、辛いよ。
「海斗ー。ユキちゃんにそんな強く当たらないでー」
さらに出てきたのは幼馴染みパート4、腰くらいまで髪を縛らずに伸ばした少女、八重樫百華である。天然。それ以上説明する事は無い。
ちなみに、晶はイケメン、忍は空気、百華と美雪は美少女である。よって、この中で冷たい目を浴びるのは俺一人だ。いつものことだけど、やっぱり辛い!もっとも、俺たちでさえ気を抜くと存在を忘れそうな忍はもっと辛そうだが。視界に入ってすらいないんだから。
俺たちは何故か同じ高校に入り、何故か同じクラスになった。確率的にはかなり低い筈なのだが、運が良かったのだろう。
「みなさーん。早く帰りたいのなら座って下さーい」
先生(ちなみに名前は宇佐美桜子という)がいつの間にかやって来て、俺たち生徒に声を掛ける。皆は早く部活に行くなり帰るなりしたいからかそそくさと席に着く。
そして、先生がホームルームを始めようとした直後、床に魔法陣のようなものが姿を現し、輝き始める。
「えっ!?ちょっと!?なんなの、これ!」
「なんか分からねえがヤバくねえか!?こんなとこに居られるか!俺は逃げグフッ!」
「み、皆さん落ち着いて下さい!ここは速やかに教室から避難をーーー」
突如姿を現した魔法陣に、叫ぶ女子生徒、すっ転ぶ男子生徒に落ち着かせようとする先生。まさに阿鼻叫喚だ。
ちなみに俺たちは、
「え!?何!?なんなの!?」
と俺にしがみついてくる美雪に、
「ユキちゃーん。どさくさに紛れてなに抱きついてるのー」
と美雪をからかう百華、
「ねえ、海斗。確か君ってこういう......オタク文化だっけ?まあ、そういうの好きだよね?僕は詳しくないからさ。少し教えてくれない?」
と冷静に聞いてくる晶に、
「まあ、行けば分かるんじゃね?多分異世界転移ってやつだろ」
と同じく冷静に返す俺、
「……俺もオタク文化は詳しいんだがなぁ……。こういう時はやっぱり忘れられるのか……」
と、悲しむ忍。
全く持って緊張感のない状態だった。まあ、そんな状態でも、普通に魔法陣の輝きは増していき、
そして、遂に教室は目を開けられないほどの光に包まれた。