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ロングティー①

向かいながら古義は前方を観察する。投手は深間。守備陣に次を合図するようボールを掲げてから、構える日下部の腰元付近へ軽く球を放る。



「っ、」



カキーン。難なく前方へ飛んだ球は鋭く地を跳ねていく。

古義よりも小柄な身体だ、パワーバッターではないのだろう。初めに見た宮坂のスイングがいかにも遠方へ飛ばすことを重視した水平な軌道だったのに対し、日下部は上から少し斜め下へ振り下ろすようなスイングだ。



「日下部は足も速いし、小鳥遊と同じく"かき回す"タイプだな」

「バントとかもできるんすか?」

「ああ、スクイズやセーフティー、あとはバスターも出来るっつってたな」



スクイズとは犠牲バントの事だ。ワンアウト、ランナー三塁の時に使われる、"自分が犠牲になって三塁ランナーをホームに返す"戦略である。対してセーフティーとは"自分がいきる"為のバントであり、相手の意表をつく為にヒッティングの構えから行う事が多い。

バスターは"相手の意表をつく"という点では同じだが、バントの構えからヒッティングに切り替える打撃の事である。

勿論、使用タイミングは場面によるが、どれも足が速い選手の有力な戦術だ。


(めちゃくちゃ極めてんじゃん)


古義も技術として練習はしていたが、公式戦で使用したのは片手で足りる程度である。それに、ソフトでやるという事は、相手は"あの球"だ。迫力、勢い。向かってくる一秒に、怯えずにバットを出さなければならない。


深間から数メートル距離をとった位置。乱雑に転がるバットの群れから明崎が一本拾い上げる。

ふっくらとした青い打球部には、茶色い泥が線状にこびり付いている。長さはこの中では中間といった所だ。



「まずは無難にこの辺りかなー。スタイル決まってきてから、しっくりくんの選んだらいいと思うし」



差し出されるまま受け取って、古義はグローブを置き両手で絞るようにグリップを握りしめる。重さは"勧誘"の時に使ったモノより軽い。

確かめるように佇む古義に、明崎が「因みに」ともう一つを拾い上げる。赤と黒のカラーリングに、細身の打球部。長さのあるその一本は、古義が"勧誘"時に何となく手にしたバットだ。



「これはビヨンドマックスな。野球にもあるし、知ってっかな? 芯に当たれば飛距離が伸びるけど、そうじゃなければ威力も弱い。長距離打者用のバットな」



「ほら、"ビヨンド"って描いてあるだろ」と示された英字を視線で追う。確かに。

「おお……」と零した古義に、明崎はニカリと笑う。



「あん時コレ持ってきたから"おっ!?"って思ってさ。飛ばす気満々なのかと思ったけど、わかってなかったみたいだったから」

「あー……なんとなく見た目がカッコ良かったんで、ソレにしたんすよ」

「ふん? なるほどなー」



ウンウンと頷く明崎はビヨンドを置き、別の一本を手に取る。銀色のそれは古義の持つバットより打球部は細めで、長さもある。

明崎のお気に入りなのだろう。「んー」とバットを手に両腕を上げ、身体を捻る。



「うっし。とりあえず古義は基本的なトコから! つっても、腕を伸ばしきる少し前がミートポイントってのは野球と一緒だと思うし、注意するのは"アッパーにならない"ってトコくらいか」

「下からすくい上げる打法は長距離バッター向けだからすか?」

「それもあっけど、球が重い分アッパースイングだと基本"伸びない"んだよ。仮にティーバッティングの時に守備の頭を超えたとしても、実際の試合だとピッチャーは球に回転かけてくるだろ? 前に見せたドロップだった場合、下向きの回転だからアッパーだと単純フライになることが多いし……ああ、あと有名なライズの時も。アレは上向きの回転がかかってるから上手く当てりゃ一発もあるけど、浮き上がってくる軌道に対してだと打点は一点だからな」

「当てることすら難しいと」

「そうそう。まぁアッパーじゃなくても捉えにくい球なんだけど、どちらにしろ利点はないな」



「だから」と明崎は続け、バットを構えてゆっくりと軌道を見せる。

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