マウンドに立つ③
「……かぁーずぅーまあああー!」
「ひいっ!」
怒りに戦慄いた未咲が、顔を跳ね上げ鋭い眼光で射抜いてくる。
「腰が高い! 初心者だから生きてる球が怖いのはわかる! だからって許さないからね! それにその後もなに? 挽回するならともかく、トンネルからの大暴投フルコースでどうすんのっ!」
「す! みません!」
「あんたピッチャーやる気なんでしょ! ならせめて周りを見るくらいの気持ちは持ってなさいよ! 無視された真也が面白いコトになってるじゃない!」
「まあまあ姉ちゃん、そんくらいで……」
(しんや……? あ、高丘センパイか。え、高丘センパイ?)
そこで初めて、古義は自身から数メートル離れた位置に立つ、高丘の存在に気がついた。どこか悲しげな苦笑を浮かべている。
(そっか、中継に入ってくれてたんだ!)
「すみません高丘センパイ! 無視したとかじゃなくて! 全然! 気づかなくって!」
「いや、アピールが足りなかった僕のせいでもある。それよりも、肘は大丈夫かい? 思いっきり投げてたからね」
「あ」
慌てて肘を回してみるが、特に違和感は感じない。
「平気っす」
「そうか、ならいい。次は無理せず、中継に返すように」
(……やっさしいなー)
いつの間にかヘルメットを外していた小鳥遊が、大声で「ドンマイ! かずちゃん!」と手を降ってくる。
ガハハッ! と笑う声に視線を左方へ転じれば、
「俺はいまだに暴投するぞ! トンネルは暫くないがな!」
太い腕を組んで岩動が言うので、「だから! 誠はいい加減ワンバンを覚えろ!」と未咲は更にご立腹だ。
これでは埒が明かない。そう思ったのだろう。
姉を宥めていた明崎は仕方なさそうに部員を見遣り。
「ハイハイ、次は誰いくよ?」
「オレだろ!」
勢い良く挙手した宮坂が、許可を得る前に駆け出した。通りざまに風雅が何か小言を言っていたようだが、古義にはよく聞き取れなかった。
明崎はただ冷静に、
「じゃあ、日下部。次はライトな」
「わかりました」
日下部が後方に移動し、空いたセカンドには小鳥遊が戻ってくる。
グローブを置きヘルメットを被った宮坂は、腕を回しながら意気揚々とバッターボックスに立った。
「っしゃあ! 来いやぁ!」
古義の知る限り、宮坂もどちらかと言えばパワーバッターだ。右バッターの宮坂が思いっきり引っ張れば、打球は古義の元に飛んでくるだろう。
事実、サードに構える深間は先程よりも守備位置を後方に移し、ショートの高丘も、気持ち三塁ベース側に寄っているように思える。
身体が強張る。
また、来たらどうしよう。なんだっけ? 腰を落として?
だが古義の緊張を他所に、打球は飛んでは来なかった。三球とも。宮坂の打球は、ショート強打、センター前、サードライナーで締めだった。
「肩に力はいりすぎ」
呆れたように言う未咲に、明崎は不機嫌そう顔を顰め、
「わーってんだよ」
次に打席に立ったのは、石動だった。センターにはやはり、日下部が移動している。
隣、にいる。いや、決して距離が近いとは言い難いのだが、それでも古義はなんとなく、緊張を覚えた。
そっと横目で伺ってみる。が、思った通り、日下部は古義に一瞥もくれない。
古義はため息をつきつつも、
(……今はよそ見してる場合じゃないか)
思い直して、数歩後方に下がる。
記憶が確かなら、古義が初めて明崎に声をかけられた『勧誘』の時、野球場との境目にある小山まで打球を飛ばしていたのは、岩動だと聞いた。
ドッシリとした体格からして、明らかなパワーバッターだ。ロングティーを見ていても、デカイ一発を武器にするタイプに思える。
「よろしく頼む!」
笑顔で構える岩動。まずは、一球目。
肩を入れたテイクバック。ブンッ! っと宙を切る音が聞こえるような、豪快なスイング。が、そのバットは白球を捉える事無く、再び勢いをなくした。
空振り。岩動は「ん?」とズレたメットを直し、
「外れたな!」
「かお! 動いてる!」叫ぶ未咲に、
「おお、そうだったか!」
意識して首を固定してみせる。




