古義の突撃とマネ志望⑦
肯定した伊集院に部内がザワつく。
「ウゲッ!? マジかよ!?」嫌そうな顔をした宮坂を、「ちょっと! 妹ちゃんの前で"ウゲ"はないでしょ!」と風雅が叱咤する。
(え? なに? 有名な人なの!?)
キョロキョロと視線を彷徨わせる古義を見て、小鳥遊がそっと扉に寄る。
「翡翠高校ってね、ウチと同じで去年に男子ソフト部が出来たんだ。で、その設立者がかのちゃんのおにーさん。部員も実力者揃いでねー。新設ながら県大会優勝! で、全国大会でも優勝ってね!」
「つっても、決勝は苦戦してたみてーだけどな」
「ウチは県大会の決勝で翡翠に負けちゃったのよ。中々痺れる試合だったわ……」
「あ、でもボク達も全国行ったんだよ! 県内から二チームいけるから! でも、その全国準優勝のチームと初戦に当たって、負けちゃったんだけどね」
「どっかの誰かさんのくじ運がサイアクなお陰でな」
「しょうがないだろー、オレ昔っから"引き"が良いんだって」
アハハと頭を掻く明崎に「ったく、アイツら以外と当たってりゃ勝てたってのによ」と宮坂が舌打ちする。
どうやら余程根に持っているらしい。
「次は勝てばいいだろう!」と岩動に肩を叩かれ、「ったりめーだ、全部ぶっ倒す」と口を尖らせている。
「で、今のは去年の夏の話しでね。秋以降の大会も翡翠とはよく決勝で当たるんだけど、いっつもあと一歩で負けちゃってて」
「なるほど、因縁の相手ってヤツですか……」
「そんなトコかな」
なるほど事情は飲み込めた。
この伊集院は、ライバル校の頭領の妹というワケだ。
「……目的はなんだ」
沈黙を貫いていた蒼海が、静かに問う。
「アイツに、ウチに行けと言われたのか」
暗に"スパイ"に来たのかというような問いかけに、古義はギョッとする。確かに、常に勝っているとはいえギリギリの試合をするような相手なら、余程の慢心がなければ警戒するに越したことはないだろう。
なので、ちょうど入学となる"妹"を使い、敵地の情報を探る。
(つまりコイツは、"黒"だ!)
合点がいったと古義は伊集院に警戒の眼差しを向けるが、視線を落とした伊集院を探るようにじっと見据える蒼海の眼に、刺々しさはない。古義はそんな蒼海を不思議に思いながらも、伊集院の言葉を待つ。
仮にそうだったとしても、素直に"ハイそうです"とは言わないだろう。
「……そう、お思いになられるのが自然ですわね」
何処か諦めを帯びた響き。呟いた伊集院が、すっと顔を上げ「違いますわ」と否定する。
「私は、兄の"夢"が砕け散る様をこの目で見たいんですの」
一切揺るがない強い瞳には、憎悪に似た暗い熱がチリリと灯っていた。
*****
部の制度としては問題ない筈だが顧問に確認してみないと、と明崎は伊集院を連れて職員室へ向かい、残った部員達で練習が始められた。
準備体操からストレッチ、ステップとこなし、適当にペアを組んだらキャッチボールとなる。
「にしても、あの伊集院に妹がいたとはな」古義の隣で岩動とペアを組む宮坂が、信じられないというように呟く。
その更に隣でボールを投げつつ顔を曇らせたのは、風雅と組む小鳥遊だ。
「かのちゃん、伊集院君のコトあんまり好きじゃないのかな?」
「そうねぇ、あの表情もそうだけど、理由もあんまり穏やかじゃなかったわね」
「んな話しはどーだっていいんだよ。アイツも変人なんじゃないだろうな」
「変人?」
どういうことだ? と高丘の放った球を受け取りながら反復した古義に、「マジやべーから、アイツ」と宮坂。




