ロングティー④
(っ、ココ!)
「あり?」
カキーン。しっかりとミートしたはずの球は手応えだけを残して古義の視界から消える。
どこいった。追う古義の視線の先で、「はい」と手を上げ前方に走り寄る高丘の姿。見つめる上空に、大きな曲線を描いて落ちてくる白球。
パチンッ。額の少し上でキャッチした高丘が、「意気込みすぎだね」と微笑んで宮坂へ球を返す。受けた宮坂が今度は神妙な面持ちで「もう後ろまで飛ばすったぁ……意外とパワーあんな……」などと呟くので、古義は更に縮こまってしまう。
言うのなら凡フライだ。"打てた"とは言わない。
「まっ、だろうな」
「明崎センパイ……」
「テイクバックがデカすぎ、手首も返しきれてないし、強打狙いすぎだ」
「す、スミマセン!」
「まだ最初なんだから上手くいかなくって当然! ただ最初だからこそ、変な癖をつけないように形を意識しないと! 結果はあとあと!」
「そんなあせんなって」と呆れたように励まされ、古義は情けなく「はい……」と頭を垂れる。
昔からやる気が空回ってしまう性質だった。小学生の時に無我夢中で造った粘土の熊は犬になってしまったし、中学時の水泳競争も息継ぎを減らしすぎて後半一気に減速した。
そして野球も。思い描いた空想を現実にしようと気合いを入れれば入れる程、結果はついて来なかった。
(……悪い癖だな)
カッコイイものが好きだ。だからこそ目先の結果を求めてしまう。
いい加減、この連鎖も断ち切らないと。
「……あの、明崎センパイ」
「んー?」
「もう一回、振ってもらっていいっすか?」
申し訳なさそうな古義の要求に明崎は「ああ、いいぜ」と頷き、手にしたバットのグリップを握り構えて見せる。
真剣な面持ち。左足を軽く上げたテイクバックから、踏み込んだと同時に銀色の線が空中を切り裂く。
じっと。古義はそのスイングを見つめ、明崎がフォロースイング(最後の流しの事だ)を終えた所で目を瞑る。
再生される明崎のフォーム。姿を重ね合わせるのは古義自身の姿だ。
ひとつひとつを上書きして、新しい"イメージ"を模る。
(……古義?)
明崎が違和感に瞬く。古義が「お願いしあっす」と再び構えるまでの、たった数秒の出来事だ。
それでも何故か、妙に引っかかる。
「三本目」
深間の声。放たれた一球に向け、振られたバット。その軌道に、明崎が目を見張る。
その、フォームは。
カキーン!
飛ばされた打球は風雅と宮坂の間を駆け抜け、地に触れるも勢いを保ったまま砂利を蹴散らしていく。範囲は高丘より、小鳥遊寄り。数歩左へ移動した小鳥遊が、地面よりも少し離れた位置でパシリとグローブに収める。
「いー感じだね! かずちゃん!」
風雅に球を返したそのままの流れで親指を高く掲げ、自分の事のように嬉しそうにはしゃぐ小鳥遊に、古義は「あざぁっす!」と大声で返す。
今度こそミートした。きちんと芯で当てた時は、皮を剥いたゆで卵のような柔らかな感触がするのだ。
(やっべぇーっ! ドキドキするっ!)
イメージが形としてハマった時の、なんとも言えない高揚感。
浮足立つ気持ちを必死に抑えながら、古義は再びバットを構える。
今の感覚を忘れないウチに、モノにしたい。
「四本目」。深間の声に、鼻から息を吸う。
捉えた球体。テイクバック。グリップから引き寄せて。
(……っここ!)
当てて、押出し。前へ伸ばして、スナップ。
カキーンッ!




