才能無き天才Ⅱ
1時間後。第四試験場には三つの影。
グレン・ヘル・ガルドス
東堂・雅音
ニーナ・ヴァレンタイン
この3名の他に、ギャラリーがちらほら。十人程度だろうか。試験場の中心には険悪な空気が漂っている。ニーナからグレンへの一方的な殺意と言い換えることもできるだろうか。
「あんた、留年生なんだって?」ニーナが早速挑発してくる。
「まぁね。でも俺だって、単位が必要なんだよ。だから負けられない。まぁー俺が勝っても理事長には別室を用意して貰うから」と、[勝つこと]を前提として語るグレンにニーナは違和感を覚え、眉を顰める。
「あんた、勝つつもり?勝てるつもり?」
「勝ち負けの確率は半々だからね」内心、グレンはこの状況にワクワクしていた。極力それを顔に出さないようにしているつもりだ。早く戦いたくて仕方が無いのだ。それを察したのか、雅音は「始めんぞ!!」と言ってふたりを初期位置へと促す。
ドーム型のこの場所は、東京ドーム三つ分の広さである。観客席はすり鉢状であるのだが、ドーム型なのにすり鉢状なのはどうも不思議な感じがする。その巨大なステージには2人しかいないが、しかし、それ以上の緊張感がある。
「各位、武器を霊装で展開せよ」雅音が指示を出す。
武器―魔法士や剣士が使う専用の獲物。剣士と言っているが、正確にいうと銃等も含めまとめて[剣士]という。
霊装―武器を実態を伴わない形で展開することをいう。
「じゃぁ―始め!!」雅音の怒号にも似た合図を出す。その瞬間、ニーナは一気に間合いを詰めて来る。そしてグレンの懐で武器を展開する。
「来なさい!!アルテミス!!」狩猟、純潔。これら2つの象徴たる女神の名を冠する細剣を出し、一気に薙ぐ。[決まった―!!]ニーナは確信する。していた。確かに間合いに入っていたが、切っ先すらかすめられなかったのだ。
「なっ、、、!?」いない。どこにもいない。ニーナは辺りを探し回るがいない。
「残念。上だよ―」グレンは武器を展開しながら降りて来る。降って来る。
「絶剣・逆鱗逆撫―!!」荒々しい、錆び付いた刀身。鋸のような刃は意図して創られている。この刀は切れ味で勝負しない。この刀は挽いて絶つのだ。「―っ!!」ギリギリで避けるニーナはその威力に目を見張る。振り下ろした刀は床に当たる。その場を中心に百メートル程の亀裂が入る。「何!?その刀は!!」思わずニーナは声を上げる。「何って、刀だよ」と、グレンは淡々と答える。地面に亀裂を入れる程の威力を持った刀を軽々と振り回す力を見てニーナは考える。
(こいつ、、、強い!!何で留年なんかしてるのよ!おかしいわよ!!)でも。でも―彼女は負ける訳にいかないのだ。天剣祭に出るためには、この学園の生徒のトップ10に入らなくてはいけない。故に留年したやつなんかに負けている場合ではないのだ。
「今から、アンタの絶剣、、、?とかいう巫山戯た刀とアンタのプライドも、壊してあげるわ!覚悟しなさい!!」と言ってニーナはアルテミスに魔力を込める。そして、
[第1秘剣―エア・スプリント!!]細剣を薙いだその刹那―真空の刃が数十個飛んで来る。それを全て、生身で受けるグレン。
「生身!?アンタ、武器は実態は伴わないけどそれによる傷は本物なのよ!?」
「何を今更言ってるのさ。さっき、俺を壊すって言ったくせに。嘘をついたのか?」と、挑発的に、威圧的にそう言った。
「だったらもう、徹底的に殺してあげるわ!!」既に傷だらけの彼にニーナは、さらに細剣を薙ぐ。細剣ゆえの鋭い真空の刃は、更にグレンの体を抉る。しかし、それに対してもやはり全てを防がない。
(何なの!?コイツ、、、)わからない。ニーナ・ヴァレンタインには彼がわからない。ずっと持っている巫山戯た刀を一切使わないのも、段々イライラしてきた。わからない。ニーナ・ヴァレンタインには何もわからない。
「おい、グレン。てめぇ―遊んでんじゃねぇよ。早く片付けろ」と、ここで東堂が口を挟む。その言葉にニーナはとうとう本気で怒る。
「アンタ、いい加減にして!私に喧嘩売ってるの!?早くアナタも攻撃なり防御なりしなさいよ!!私に対する挑発も大概にしなさいよ!!」と―言った。
言ってしまった。
これが名前の由来。相手をとことん挑発する。逆鱗を、逆撫でする。怒りに任せるようになったら、グレンの勝ちはほぼ決まる。
「じゃぁ、本気で行くよ。殺しちゃったら、ごめん」とだけ言って、グレンは自分の傷を治す。
魔力が無い彼がどうしてそんなことが出来るのか、それは彼が使っている巫山戯た刀―[絶剣・逆鱗逆撫]に、無限の魔力があるから。彼がその刀をもっている限り、魔力は絶対に尽きない。
「絶剣・逆鱗逆撫。炎戒流、第一剣技―[完全模倣]!!」グレンの叫びが、場内に響き渡った。
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