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忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
エスクエス奪還編
97/229

87話

 大陸の中心に位置する国、アクアドール。その首都であるアルクエド。女神信仰の発祥地であるこの都市は、女神信仰の第一人者という立ち位置を西の超大国ザカリクへ譲ってしまっている。が、その代わりにザカリクの援助を受けて発展していた。逆に言えばザカリクの意向には逆らえない。

 裏切るような事をすれば援助は打ち切られ、衰退するのは目に見えている。だが本来はザカリクの援助を受ける前から普通に都市として機能していたのだ。たとえそうなったとしても生きていく事は出来る。


だが……


 貫頭衣に身体を包んだ年配の男は憂慮するように皺だらけの顔を僅かに歪めた。

「この街は豊かだ……。だが、偽りの繁栄だ。ザカリクの傀儡となり魔族信仰者の犠牲の上に成り立った、な」

 傍らに控える2人の男は黙ったまま主の命令を待っている。

 白銀の全身鎧に身を包んだ屈強な戦士であった。1人は黒髪黒目に無精髭を生やした中年男。もう1人は中年男よりも更に1回り大きく歳も重ねた壮年の男だった。茶色い髪に青い瞳。顎には綺麗に刈り揃えられた立派な髭が頬まで伸びてモミアゲまで繋がっている。その顔には無数の古傷がたたえられており、鷲のように鋭い瞳は見る者に威圧感を与える。歴戦の戦を勝ち抜いてきた武人であった。


「イーグル、ロウナルド。お主たちはどう捉えておる?この街の現状を……」

 先に口を開いたのはイーグルと呼ばれた鷲のように鋭い目を持つ男だった。

「完全な平和、とは言い難いでしょう。……ですが、偽りなれど平和は平和。それを崩して何かを成すのは、相応の覚悟と意義が求められましょう」

「うむ、そうだな……ロウナルド、お主は?」

「恐れながら法王猊下。魔族信仰者の首領、大司教から一つの提案が齎されました」

 ロウナルドが大司教の名を口にした途端2人の表情が変わる。


「ほう……して、その提案とは?」

「ザカリクの支配から解き放たれ、真の正しき信仰へと道を正す方法がある、と」

「! して、その方法とは?」

「ザカリクと手を切れと」

 重い沈黙が辺りを包んだ。そんな事は言われなくても分かっている事だ。それが出来ないから苦労していると言うのに。

 そんな法王の無言の講義を受け取ったかのようにロウナルドが再び口を開く。

「その代わり、マガミネシアとの国交を回復させる準備があると」


「何? マガミネシアと……」


 マガミネシア。西のザカリクと並ぶ東の超大国である。まだ法王が即位する前、一信徒であった若かりし頃、ほんの少しではあるが親交を持っていたのだ。豊かな国土と高い技術力から生み出される様々な資源は大いにアクアドールに恵みを齎していた。


 しかし4年前の戦争が始まって以降、国交は途絶えたままだ。当然の事だ。魔族信仰者への侵攻を行なったのだから。アクアドール国内の事で直接マガミネシアに手を出した訳ではないとはいえ、悪感情を持たれて当然だった。


「だが、魔族との親交を国王は、国民は許しはしまい。マガミネシアの庇護下に入れば確かにザカリクからは手を切れるだろうが……」

「国王が正気を失い魔法庁の連中、引いてはザカリクの手の者に傀儡とされている現状は法王猊下もよくご存知であられましょう」

 知っている。勿論知っている。国王が最早只の操り人形と化している事は。4年前の戦争が始まった時、誰もが賛成した訳ではないのだ。

 良識と見識を持って戦争など起こすべきではないと、何人もの家臣や教団関係者が直訴したのだ。

 だが、その意見は受け入れられず、どころか反逆者として投獄されてしまった。処刑者が出なかっただけマシだった。当時、既に即位していた法王も真っ向から反対した。投獄されてもおかしくはなかったがそうはならなかった。


 裏で魔族信仰大司教、コーデリック=フォンデルフが手を回した為だ。別に善意に基づいてやったのではないのだろう。現法王が投獄されればザカリクの手の者のいずれかが次の法王となりより厄介な事になる。

 だが、救われたのは事実。そして自分はその借りを返せてはいない。


「まさか、クーデターを起こせと言うのか? それはあまりに無茶が過ぎる」

「その事については、マガミネシアが主導で戦争を起こすと言っています。マガミネシアがアルクエドへ攻め込んだ体にすれば良いと」

 成程、クーデターは国民から反感を買うが他国からの侵略という形で王政が崩壊すれば誰も文句は言えない。ついでにザカリクの一派を掃討して法王庁がマガミネシアの元で暫定政府として機能すれば女神信仰を正しい方向へ軌道修整できるし魔族信仰者との親交も回復できる。

 一石二鳥、いや三鳥の作戦だった。


「流石は大司教よ……よく頭が切れる」

「それは否定しませんが、今回は魔王皇も噛んでいますので」

「成程、策謀の魔王皇が……恐ろしい2人が手を組んだものよ」

「全くその通りで」

 大司教と魔王皇、この2人の切れ者を敵に回さずに済んだ幸運に密かに法王は感謝したのだった。

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