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忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
修行編
93/229

84話

ーーコーデリックの場合



 険しい山中の奥、秘境と呼ばれる場所にコーデリックはいた。マガミネシアを旅立ってからずっとこうやって各地を巡っている。その理由は……


「魔に適応せし者よ。何用でこの領域へ参った」


 コーデリックに語りかけるのは全長10メートルはあろうかという巨大な亀であった。ズッシリとした重い、そして堅固な甲羅を背負い象のような分厚い足でそれを支えている。長い年月を経たのであろうその顔には深い皺が刻まれている。コーデリックを見据える瞳には拒絶の意志が宿っている。



「何用って、やだな。ここはキミの支配する領域じゃないか。キミに会いに来たって以外に何の理由があるって言うんだい?」

「……我を滅ぼしに来たか」

 警戒心を露わにする陸亀にコーデリックは苦笑を浮かべる。

「ボクが魔族だからってそれは偏見ってものだよ。ボクはただ単にキミと仲良くなりたくて来ただけだよ」

「仲良く……? 我等四聖獣が魔族と相いれぬ者である事は分かっているのだろう」

 あくまでも拒絶の意志を示す四聖獣の一角、玄武。

「ああ、女神がこの世界の均衡を保つためにこの世界に生み出した4匹の守護神、それが四聖獣だったね。そんな事は勿論分かっているよ」

「それならば、何故……?」



「キミ達は仕事を全くしてないじゃないか」

 キッとコーデリックの瞳が鋭くなる。

「何……?」

「この世界のどこが平和なんだい? 世界は貧困と差別と格差に溢れ、悲劇や悲惨が当たり前のようにまかり通っている。だと言うのにキミ達は自らの住処に引きこもって閉じこもっているだけじゃないか。山に引きこもって下界に降りてこない仙人に、価値があるとはボクにはとても思えないね」

「………………結局、何が言いたいのだ」

「ボクに力を貸して欲しい。女神信仰はねじ曲がり最早正しい道を自らの意志で歩んでいけなくなっている。その元凶を倒すには力が必要だ」

「成程。お主の言いたい事は分かった」

 しばし瞑目した後、玄武は重い腰を上げて立ち上がった。



「本来、魔に属する者に聖に属する我等が力を貸す事は有り得ない。だが、お主の言う事が正しいのもまた事実。我も憂慮しておった事だ」

 玄武の言葉にコーデリックは顔を明るくさせる。

「それじゃあ、力を貸してくれるのかい?」

「いいや」

 玄武はゆっくりとかぶりを振った。

「お主が真に力を託すに足る存在か見極めてからだ。見事、我に己の価値を示してみせよ!」

 圧倒的な威圧感がビリビリとコーデリックの身体を震わせる。


「望む所さ。その為にボクはここに来たんだから」

 かくして魔王皇コーデリックと四聖獣玄武の戦いの幕が切って落とされた。




「ただいまー……」

 力無い声でコーデリックが挨拶する。その姿に一同は絶句した。身体の半分程が消し飛んでいたからだ。

「コーデリック! どうしたの!? ひどい怪我だよ!」

 クロが涙目になってコーデリックにかけよりすぐさま回復魔法をかけ始める。

「ダメだよ、クロ回復魔法は……キミの寿命が」

「ボクの寿命が尽きる前にコーデリックが死んじゃうよ! いいからじっとしてて!」

 その場には片目やサーベルグも同席していたが、状況が状況なだけに誰も止めようとはしなかった。そうして治療が終わり、回復し終わった後コーデリックもクロも倒れてしまった。

 次の日、うっすらとコーデリックは目を開いた。


「おはよう、コーデリック。身体は平気?」

 隣にはクロが同じようにベッドに横になっていた。

「クロ……お陰様でね。助かったよ、ありがとう」

 クロはホッとしたような顔をして、だが次の瞬間顔を歪ませた。

「一体何があったの……? コーデリックがあんなに傷付くなんて」

「新しいトモダチを増やそうと思ってね」

「え?」

「ボク自身が強くなるのも勿論だけど、てっとり早いパワーアップには強い友達の手助けが必要だと思ったのさ」

 てっとり早くなどと言っているがあの身体が半分消し飛んだ姿を見るととてもそんな風には見えない。心配ではあったが、クロはあえて何も言わなかった。


 翌朝、コーデリックは再び旅立って行った。ユータが何故か生気を吸い取られたかのように干からびてミイラになっていたが、片目を初め皆は静かに手を合わせ合掌するだけだった。


 そういう事が3回程繰り返された後、コーデリックはマガミネシアにまた滞在するようになった。

 本人曰く「もうパワーアップは終わったから」という事で、事実コーデリックは別人かと思えるほどに雰囲気が変わり、覇気に満ちていた。相当なパワーアップを果たしたのだろう。性欲の方もパワーアップしたようで、毎日相手をさせられているユータはあらゆる意味で昇天しそうだった。

 裸でユータに抱きつき起きてくる男性体のコーデリックを見ても、最早誰も何も言わなかった。


 その日以降、ユータに見つめられると何故か悪寒が走るようになったクロとジュレスだった。


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