83話
ーークロの場合
「さて、これから支援魔法や遠距離攻撃の訓練をしていく訳ですが、その前に……」
「はい」
マガミネシア領内にある闘技場。そこで2人は向かい合っていた。訓練の場所に何故闘技場を選んだのか。万が一クロの魔神の力が暴走しても被害を最小限に抑えるためである。
「まずは簡単な魔力のコントロール方から学んでいきましょう。いきなり大魔法を使うと魔神の力が暴走するかも知れませんし、貴方の身体にもいらぬ負担をかけかねない。どのくらい力を使えばどのくらい影響がでるのか、その相関関係を調べてからにしましょう」
「うん、分かった」
まずクロが取り組んだのは魔法の中で最も扱いやすいと言われている火の魔法、その初級の魔法である火の玉を出す所からであった。
1度回復魔法を使った事もあり、身体の中を流れる魔力の流れとそれを外に放出する感覚を既に知っていたので比較的簡単に火の玉を出す事ができた。
火の魔法に始まり、四大属性の中でも簡単な順、すなわち土、風、水の順に初級魔法を練習していった。後に進む程に時間はかかったがクロは全ての属性を問題なく扱う事ができた。
「ふむ、初級魔法に関してはどれも問題なく使えるようですね。流石です」
「それは凄い事なの?」
「普通はまあ自分の得意な属性に偏るものなんです。私は水。片目殿なら火と言った具合に。クロ殿は偏りなくどの属性も扱えるようですね」
「へえ……」
「ただ、どうもクロ殿の扱う魔法は陽性に偏っているようですね。闇の魔法は恐らく出せないでしょう」
魔法には基本となる四大属性とは別にその魔力の方向性によって+のエネルギーとーのエネルギーに別れる。+は聖魔法、ーは闇魔法となる。
「ぼくが魔法を使って火を出したり風を起こしたりすると、それは聖なる力を伴ったものになるって事だね?」
「そうです。そして基本聖属性は闇属性に強い。聖なる力には『魔』を払う力があるからです。同じ理屈で魔族は基本聖属性に弱い。クロ殿が攻撃魔法を使えばそれは対魔族においては高い威力を発揮するでしょう」
「なるほど……でもぼくはなるべく攻撃魔法よりも防御や支援の為の魔法を使いたいな。人を傷付けるのは性に合わないから……」
「分かっていますよ。これはあくまでも適性の確認の為の訓練ですから安心して下さい」
とサーベルグは微笑んで言った。
続いてクロ達が行なったのは単純に魔力の出力を上げる訓練である。これはどの程度の魔力からクロの身体に影響が現れるのかを調べる目的もあった。
その訓練で分かった事はクロが普段の状態で意識して出せるのは中級魔法までだという事だった。上級魔法レベルまで魔力を放出しようとするとクロの髪は青色に染まり始めるようだった。
「ふむ、魔神の力を引き出しても出せるのは上級魔法まで。大魔法まではいかないようですね」
ちなみに上級魔法の1つ上のランクが大魔法である。そして極大、超絶と上がっていく。上級魔法までいけるだけでも相当優秀である。一般的に上級魔法まで習得できれば魔法使いと名乗れるレベルである。
そして最後に、1度だけ回復魔法を試した。サーベルグの身体はすぐに回復してしまうので片目に実験台になってもらった。
その実験で分かった事は、やはり回復魔法は魔神の力を使わなければ出せない事と、クロの身体に著しい負担をかけるという事だった。
クロが治した傷は軽い切り傷であったがそれを治すだけでも軽い眩暈が起きた。また髪も真っ青に染まり元に戻るのにも時間がかかった。
「やはり回復魔法は危険です。ここぞという時以外には決して使わないようにして下さい」
「うん……」
1通り実験を兼ねた訓練が終わるとクロが希望していた支援魔法や防御魔法の訓練に入った。クロ自身が望んでいただけあって攻撃魔法よりも高い適正を示した。素の力でも上級魔法、魔神の力を引き出ぜば大魔法までも出せるようになった。
主に覚えたのは一定の範囲内に影響を及ぼす魔法である。攻撃力や防御力を上げたり、逆に下げたり、毒や麻痺を与えたり魔力を吸収したり出来るようになった。
本人曰く「なるべく殺したくないから」という事であったが、そうとう嫌らしいラインナップになっていたのは否めない。
その後は接近戦の為の一通りの体術に、遠距離攻撃の為の魔法を覚えた。これは四大属性のどの属性でも出せるようになった。威力は大した事がないのでダメージを与えるというよりも牽制目的の為のものだった。
そうしてクロの戦闘能力、特に魔法に関しては劇的に高まったのであった。




