81話
ーーユータの場合
「特訓を始める前に、魔法について少し勉強をしましょうか」
わざわざ教室が用意されユータは椅子に座らされ机に向かわされた。故郷での授業を思い出しゲンナリする。
「勉強は苦手なんだがな……」
「強くなる為と思って我慢して下さい」
そう言うと手に教本を持ち教師さながらに解説を始めた。
「さて質問です。魔法とはそもそも何ですか?」
「空気中に漂う『魔』を取り込みエネルギーに変換して外へ放出する技術、だろ」
「正解です。ではそもそも『魔』とは何ですか?」
今度の質問には答えられなかった。今言われて初めて疑問に思ったぐらいだ。考えてみれば魔法は戦闘において切り札となる重要な要素であるにも関わらずその根源である魔については何も知らない。
「………………」
「はい時間切れです。正解は、『悪意』です」
「悪意?」
「生きていればあるでしょう?誰かを憎んだり、殺したいと思ったり、嫉妬したり、様々な悪い感情が。それは目に見えないだけで外に放出されているのです。犯罪を犯した者を『魔が差した』と表現するでしょう?あれは文字通り空気中に漂う悪意に行動を支配されてしまう事を言うのです」
確かにそういう言葉があるが、では故郷の地球にも魔は存在しているのだろうかとユータは思った。
(あるのかもしれないな……)
ユータの目には彼の故郷は悪意で満ち溢れているように見えた。
「その悪意という目に見えない形のないものを物理的な現象に変換する技術を魔法と呼ぶのです。魔を扱う法、魔法、という訳です」
「なるほど……」
「では、魔族とは何でしょうか?」
「……体内に魔を蓄積させた存在、か?」
「うーむ、惜しい……ですが少し違います」
自信なさげに言ったがサーベルグの反応を見ると当たらずも遠からずといった所か。
「正解は『魔に適応した種』です。他の生物に比べ魔に対して抵抗力があり、また上手く魔をコントロールできる。ユータ殿の言った通り身体に魔を蓄積できる体質もある。そのお陰で丈夫な身体を持ち、強い魔力を持てるという訳ですね」
「う~ん、魔に適応した種、かぁ」
ウンウン唸りながらも何とか理解できているようだ。サーベルグは解説を続ける。
「では魔物とは何ですか?」
「それなら分かるぞ。魔を上手くコントロール出来なくて理性が飛んでしまった存在だな」
「そうです。正解」
机の下で小さくガッツポーズを取るユータ。
「さて、魔族についてはこれで終了です。今度は人間という種族について考えてみましょうか。人間には魔族と同じように魔力を扱う者もいれば、ユータ殿のように魔力を聖なる力に変換する者もおります。これが人間という種の特性です」
「魔族には同じ事は出来ない……?」
「そうです。基本的には人間だけが「悪意」を「善意」に変えることが出来ます。だからこそ聖なる力や回復魔法を使いこなせるのです。魔族はそれらは不得手です。例外もいますがそういう種は例外なく人間程度の戦闘力しか持てません」
彼等は知らぬ事ではあるがかつて片目が出会った冒険者バレットの恋人もその数少ない例外であった。
「そして、聖なる力は魔を打ち払い浄化する力がある。魔族にとっては恐るべき力です。だからこそ私は先日貴方の使った切り札を警戒したのです。不死の私を唯一葬りされる手段があるとしたら、それは人間の扱う聖魔法でしょう」
「さて、ここまで長々と解説した理由が分かりましたね?貴方は対魔族においてメンバーの中で最強の力を持つといっても過言ではないという事です。ですから聖魔法を中心に鍛えていきましょう」
そうして聖魔法の訓練を中心に、戦略の幅を広げる為に雷だけではなく風や水などの他属性の攻撃も覚え、支援魔法や防御魔法、軽い回復魔法なども覚えた。
基本的には前衛に立ち壁となりながら攻撃に参加し、状況に応じて援護や防御にも回れる、正に『勇者』のスタイルを目指す事となった。
そして自在に魔法の威力をコントロールできるようにも訓練した。上級魔法しか今までは使えなかったが、それ以下の弱い威力の魔法も使いこなせるようになっていった。
そうしてユータは日々の修行をこなしていったのだった。




