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忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
修行編
88/229

79話

 こうしてサーベルグとの模擬戦は終わりを告げた。サーベルグは全員を見渡して告げた。

「さて、今の戦闘で分かった事を指摘させて頂きましょうか」

 若干クロ達は緊張しながらサーベルグの言葉を待った。ユータは学校に通っていた頃のテストが返ってくる時の緊張に似てるな、と思った。


「まずは、片目殿」

「おう」

 ふんぞり返りながら偉そうに腕組みをする。

「まず最初に、ルールというか礼儀はきちんと守って下さい。若干フライング気味でしたよ」

 チッと舌打ちをしながら不機嫌そうに言い訳をする。

「フン、実際の戦場でお行儀良くよーいドンで始める奴がいるか。奇襲も立派な作戦だ」

「……色々言いたい事はありますが、まあいいでしょう。言っても聞かないでしょうし」

(不良生徒に頭を悩ませる教師の図だなまるで)

「フライングしたのはともかくとして、奇襲を仕掛けたのは評価出来ます。微塵の手加減のない攻撃も、容赦ない追い討ちも徹底していました。戦いというものをよく判っておいでだ。その速さと攻撃力を生かした戦法は並大抵の者では防げないでしょう」

「そう褒めるな」

 そう言って得意気な顔をする。


「契約によって得た新たな力も早速使いこなしているようで何よりです。力任せに振るうのではなくきちんと使い所を考えて使用したようですしね」

 あの時あのタイミングで大量の動き回る蝙蝠を迎撃するには視界に入れた物全てを焼き尽くす炎熱地獄眼(ブレイジングヘルズアイ)は最も適した攻撃方法だった。

「ですが、その攻撃が当たらないのでは意味がありません。どのような状況下でも相手の位置を捕捉し攻撃できるようにするのが今後の課題でしょう」

 途端に不機嫌そうに顔をプイと背ける。

(子供だなまるで)



「次に、ユータ殿。前回の戦いでは防御に徹していたようですが今回は攻撃に回りましたね。何か思う所があったのですか?」

 サーベルグはジュレスの記憶を覗いたので前回の戦いをきちんと把握している。サーベルグの問いにユータは答えた。

「前回の戦いではコーデリックがいたが、今回はいない。片目だけに攻撃を任せるのは良くないだろうと判断した結果だ。何よりも、守勢に回っているだけではいずれじり貧になる」

「なるほど。前回の戦いから学んだという事ですね。実際、正しい判断だったと思います。状況に応じて戦い方を変えるのは戦術の基本ですからね」


 そして更に褒め称える。

「そして貴方の身体能力は人間でありながら魔王皇に匹敵するレベルであり、脅威という他はありません。あの雷の剣も恐ろしい威力でした。……ですが、前回の戦いでは何故出さなかったのですか?」

「あの時のオレには人を殺す覚悟が無かった。……だが、力無い者の半端な同情は更なる悲劇をもたらすと学んだ」

「ふむ、人を殺す覚悟が出来たと?」

「……そこまではまだ。オレが出来たのは『結果に関わらず全力を尽くす』という事だけだ」

 サーベルグの問いに答えたユータの顔にはまだ苦い物が混じっていた。

「『殺す覚悟が無い者は戦場に立つ資格はない』などと説教を垂れるつもりはありません。そんな事は各々が自分で考え決着を着ければいい事だからです。しかし、『あれこれ考える前に今できる事に全力を尽くす』……私はそういうやり方、嫌いじゃありませんよ」

 サーベルグはユータを慰めるように言った。

「ですが、力の使い方が大雑把すぎます。もっと柔軟に状況に応じて使いこなせるようになれば貴方の力は私達魔王皇を超えうる。コントロール方法を覚えて下さい」

「了解した」



「次に、ジュレス殿。個人的に今回の戦いで私は貴方に健闘賞を送りたい」

「え?」

 思わぬ称賛に驚きを隠せない。

「メンバーの中で一番弱いのは貴方だ。だが、貴方が一番戦況を的確に捉え冷静に行動していました。貴方の助言が勝利の決め手となった」

「そんな大したことしてねえよ、俺……」

 自信がないのか謙遜するジュレス。だが、サーベルグは更に強い口調で言う。

「貴方は契約を交わし新たな力を得たはず。普通、その力を試してみたいと思うのが人情でしょう。ですが、貴方は契約で得た力を使わなかった。それは何故ですか?」

「あの後、自分の力がどの程度向上したのか確かめてみた。恐らく、今の俺の戦闘能力は中級魔族クラス。まだ力を得たばかりで満足に力を使いこなす事も出来ない俺がついていけるレベルじゃなかった。今回の戦いは」

 落ち込むように言ったジュレスだったが、サーベルグは微笑んだ。


「そこですよ。貴方の素晴らしい所は。自分に出来る事出来ない事を冷静に把握し、最善の行動を取るように尽くす。事実、貴方の助言がなければ戦いの結果は変わった物になっていたでしょう」

 今回の戦いの立役者は間違いなくジュレスだった。片目とユータの力がいくら強くても当たらなければ何も意味がないし、クロの思わぬ反撃で決着がついたのもそれまでの累積したダメージがあったからだ。

「戦いで大切な物とは何か?それは、どんな状況でも諦めない強い心と、冷静に戦況を見極める目です。貴方にはそれがある。

戦いとは、魔力や力を比べるだけの物ではない。いくらでもやりようがあるのです。色んな戦い方を学んで下さい」

「……分かったよ。ありがとうサーベルグ」

 サーベルグの言葉には幾分かリップサービスが含まれていたが、それでも素直にジュレスは嬉しく思った。


「最後に、クロ殿」

「はい」

「貴方には驚かされました。あそこまで戦える力があったとは、完全に油断していました。その油断を見逃さず、勝利の決定打となる一撃を決めた。称賛に値します」

「ありがとう」

「ですが、多用は禁物です。貴方は私達の中心人物。例え他の者を犠牲にする事があったとしてもやられてはならないのですから」

「うん……」

「貴方の回復魔法があれば倒れた仲間がいたとしても復活できる。これはとてつもないアドバンテージだ。それを活かす戦い方をするべきです」


 しかしここでクロは言い返す。

「それはぼくも分かっているつもりだよ。でも、それだけじゃ駄目だと思ったんだ。守られて、傷付いた仲間を癒すというだけでは勝てないと思ったんだよ」

 サーベルグは微笑んで言った。

「クロ殿。何も私は貴方の行動を咎めているのではありません」

「え?」

「貴方の言い分は正しい。事実貴方の行動が決定打となって決着が着いたのですからね。私が言いたいのは、戦い方には色んな選択肢があるという事です」

「選択肢……」


「例えば遠距離からの攻撃を使えるようになれば、守られながらでも隙をついて攻撃に参加できます。敵に近付いて身をわざわざ危険に晒す必要もない。または支援魔法などを覚えて仲間の強化へ励むのも良いでしょう」

「なるほど」

「相手からすれば守りが硬くせっかくダメージを与えた敵を回復させられて、しかも支援魔法で強化までしてくる。厄介極まりない存在でしょう」

「ほええ~」

 クロはサーベルグの話にしきりに感心していた。

「ですから今後は遠距離攻撃なり支援魔法なり行動の幅を広げる事を意識してやっていきましょう」

「うん、分かったよ」



 全員に話し終わり、総括としてサーベルグは語り出した。

「今後はそれぞれの課題をクリアする為のメニューを組んで特訓していきましょうか。……ひとまずこんな所ですかね」

 そう言って締めくくった。



 それぞれがそれぞれの課題に思いを馳せて、明日からの特訓に望むのだった。

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