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忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
修行編
87/229

78話

 サーベルグが戦闘の開始を宣言した時、既に片目は魔物化しサーベルグの目の前まで肉薄していた。


「先手必勝だ」

 実際にはサーベルグが言い終わる前に動き出していたのでフライング気味だったがそれを突っ込む者は誰もいなかった。

 虚を突かれた形になったサーベルグは片目の全力の爪の斬撃をまともに受け吹っ飛んだ。すかさず追いすがり容赦なく追撃を仕掛けようとしたその時、サーベルグの身体が沢山の小さい蝙蝠に分かれ片目をすり抜けてクロ達の方へ向かっていく。


 すぐにユータが迎撃に向かい何匹か叩き落とすがいかんせん数が多すぎて全てを捉えきれない。

「部屋の端に全員寄れっ!!」

 素早く声に反応しクロとジュレスが壁に寄り瞬時にユータも傍に寄った。片目の右目に魔方陣が展開し魔力が増幅される。

炎熱地獄眼ブレイジングヘルズアイ!!」

 裂帛の掛け声と共に片目の視界に映った蝙蝠達が強大な炎に包まれる。契約により得た新たな能力の1つであった。炎に巻かれ悶え苦しみながらも蝙蝠達は一つに密集し人型を取り始める。


「チャンスだ! 行くぞユータ!!」

「おうっ!」

 片目がユータに声をかけ同時に違う方向から飛びかかる。片方が迎撃されたとしてももう1人の攻撃を届かせるためだ。しかし、サーベルグは攻撃に対して最も効果的な迎撃策を選んだ。

即ち、全方位攻撃を。


「地獄の冷気よ、魂までも凍てつかせたまえ

 氷結大地獄コキュートスヘル


 標的の中心点から全方位に向けて放たれた冷気と氷の結晶が片目とユータを跳ね飛ばし、同時に身体にまとわりついていた炎もかき消した。クロとジュレスは攻撃の範囲外にいたのでダメージを受けずに済んだ。

 一進一退の攻防であった。模擬戦だというのに本物の戦場さながらの緊迫感が場を支配していた。誰もが口には出さなかったが理解していたのだ。ここで腑抜けた戦いを再び繰り返すような事があれば到底敵と渡り合ってはいけないと。


「やるしかないか……」

 ユータが意を決して先の戦いでは出さなかった切り札を出す。

「天より落ちし雷鳴よ邪悪を滅ぼす力となりて我の剣とならん

 聖雷鳴流動剣セイントサンダーブレード

 ユータがこの魔法を出さなかったのは理由がある。威力が強すぎる為に相手を殺してしまう確率が高いのだ。だが今戦っているのは不死の吸血鬼。何も遠慮する必要はなかった。

「む………」

 即座にユータの魔法の危険度を理解したサーベルグは防御策を取った。


「全てを惑わす幻影の空間 我が願いによりて今ここに顕現せん

 幻影空間ミラージュイリュージョン

 サーベルグの声と共にその姿が消える。


「隠れたか……」

「チッまたかよ……!!」

 懸命に位置を捉えようとするが、足音すらしない。翼を使って飛んでいるのだろう。羽音で捉えようにもこちらの攻撃が届かない高高度から急降下して襲ってくる。大したダメージは受けていないものの、剣を出し続けているユータはどんどん魔力を消耗していく。

 サーベルグが取った作戦は女神信仰者の部隊が取ったのと全く同じだった。姿をくらまし少しずつダメージを与えていき、相手の消耗を狙う。


「馬鹿野郎おおおおおおおお!!」

 ジュレスが凄まじい大声で叱咤する。

「片目! ユータ兄! 前の戦いから何も学んでねえのか!」

 あまりの剣幕に思わず2人はジュレスに視線を向ける。

「片目! てめえの鼻は何の為についてんだ!! 只の飾りか!?」

「ユータ兄!! あんたが剣の形に変形させてるそれは何だ!?」

 2人は顔を見合わせて、

「「なるほど」」

 ニヤリと獰猛に笑った。


 ジュレスの言葉の意味に気付いたのか、サーベルグの攻撃が激しさを増した。どんどん傷が増え、血が流れていくが2人は全く頓着しない。やがて片目が目を大きく見開き、

「そこだっ!!」

 柔軟で強靭な筋肉を爆発的に収縮させ、大砲の如き勢いと速さでサーベルグの体を捉える。

「ガッ……!」

 片目に跳ね飛ばされ、体勢が乱れた隙にユータが大ジャンプをして天井に足をつける。

「ライ〇イン!!」

 技名が思い浮かばなかったのか某有名RPGの魔法名を持ち出してきたが、ユータ以外は誰も知らないので突っ込みは入らなかった。ユータの手から放たれた電撃は宙に浮かんでいたサーベルグにまともに突き刺さった。


 ガオオオン!! と本物の雷が落ちた時のような腹に響く音が轟き、バリバリバリッという電気が細胞に行き渡り焼き尽くす音が聞こえ、やがて音が静まると空中に静止していたサーベルグが地面に落下していく。


「やった……!!」

 全員が勝利を確信したその時、自然落下の途中から明らかにスピードを上げてクロ達の方へ急カーブを描き接近していく。

「油断大敵ですね」

 勝利を確信したサーベルグがクロの首筋目掛けて鋭く伸ばした爪を付き立てようとした時、



 クロの姿が消える。



「ーーーーーー!!!?」

 直後にジャンプしたクロの全体重を乗せた延髄蹴りがサーベルグの後頭部へ突き刺さり、そのまま床材を砕く勢いで地面に叩きつけられた。

 ビキビキビキ……という音とともに地面にヒビ割れが走り、その一撃の重さが伺い知れた。


「油断大敵、だね」

 ニコッとクロが微笑む全員が顔を驚愕に歪め口をあんぐりと開けて言った。

「「「つ、強っ………!!」」」






「やれやれ……やられてしまいましたね」

 ボゴッという音と共に床に沈んでいたサーベルグが復活し、両手を上げた。

「見事です……私の負けですね」




「「「やった!!」」」

 クロとジュレスとユータが喜びの声をあげるが、片目は不機嫌そうに腕を組み言った。

「フン。何が『私の負け』だ。謙遜も過ぎれば嫌味にしかならん」

「え? それってどういう……?」

 クロの質問に片目はサーベルグを指差し、

「ヤツの身体をよく見てみろ。服はボロボロだが身体そのものはもう完全に回復してる」

 クロの一撃を受けてから起き上がるまでの僅かの間に傷が治ってしまっていた。恐るべき回復能力だった。

 さっきまでの喜びも束の間、3人は絶句する他はなかった。


「まあまあ、いいじゃないですか。私から1本取った事に変わりはないんですから。これはあくまで『模擬戦』。そこまで深く考える必要はありませんよ」

 などとフォローを入れてサーベルグは健闘を称えたがクロ達はとても喜ぶ気にはなれなかった。クロ達は相手が不死という事もあり、手加減なしの全力で『殺しにいった』のに対してサーベルグにとってはあくまで『模擬戦』だったのだから。


 その証拠にサーベルグの取った戦略は女神信仰者の部隊が取ったものと全く同じだった。これはクロ達が前回の戦いから何を学びどれだけ成長したかを確認する為であった。当然それは本来サーベルグが得意とする戦い方とは違うのだ。


 目指す道は果てしなく遠く、まだまだ精進が必要だと言う事を全員が身に染みて理解したのだった。

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