77話
片目とジュレスが契約を結んでから次の日。パーティーメンバーは再び常世の間に集まっていた。
「片目、お前……その右目」
「ジュレスと契約を交わして手に入れた新しい力だ」
「ジュレスと!? へえ、おめでとう二人とも」
ユータが驚き、クロが喜ぶ。
「ああ、ありがとう」
ジュレスがはにかみながら例を言う。
「なんか……ジュレス変わった? そんな素直な性格だったっけ?」
クロが敏感に変化に気付いて言うと片目が勝ち誇ったように言い放つ。
「私の愛がジュレスを変えたのだ」
「何言ってんだよ、馬鹿……」
恥ずかしそうに言うが怒る訳でもなく、ごく自然に穏やかな表情を浮かべている。今までとのギャップも相まって可愛いと思わされるには十分な魅力を放っていた。
特にユータはジュレスの変貌ぶりに驚いていた。
(契約を交わすとあそこまで人が変わるものなのか……)
「ジュレス、可愛くなったよね~ ぼやぼやしてると片目にジュレスを取られちゃうかもよ?」
「お前は何を言っているんだ……」
耳元でボソッと囁くコーデリックに呆れたような表情を浮かべるユータ。大体コーデリックはついこの間までユータに迫りまくっていたというのにまるで無関係のように振舞っている。
(まあ、淫魔族の言う事を間に受けてもな……)
「さて、お集まりの皆さん、そろそろ本題と参りましょうか」
ユータの思考を遮るように声がかけられる。奥から出てきたのは常世の間の主、魔王皇サーベルグその人だった。
「それで、ぼく達は何で呼び出されたの?」
「ええ、実はですね。ここ数日の間にここにいる全員から全く同じ内容の相談を受けていまして」
サーベルグがそういった瞬間に全員がまさか……という顔をしてお互いの顔を見合わせた。
「そう、その相談の内容は『強くなりたい』でした。ですから私から一つ提案がありまして」
「提案って?」
「ここにいる間私が皆さんに強くなれるよう手解きをしようかと思いまして」
「つまり、修行をつけてくれるという事か?」
ユータの言葉にサーベルグはコク、と頷いた。
「ありがたいな。願ってもない話だ」
片目が、
「ありがとうよ。感謝するぜ」
ジュレスが、
「ぜひよろしく頼む」
ユータが、
「……よろしくお願いします」
クロが、それぞれ快諾した。
「……あれ?」
1人足りない事に気付きクロが声をあげる。
「……コーデリックは修行受けないの?」
コーデリックはフフッと笑い、
「修行は勿論するよ。ただしボクなりのやり方でね。ちょっとやってみたい事があるんだ~」
と嬉しそうに言った。
「まあ、同じ魔王皇に『修行をつける』というのも些か傲慢な話ですからね」
フォローするようにサーベルグが言う。
「そんな訳でボクはしばらくここから離れるから」
「「「えっ!?」」」
サーベルグを覗いた全員が驚く。
「ここから出ていっちゃうの?」
「大丈夫。合間合間に戻ってくるからさ」
などと言ってひらひらと手を振って別れの言葉を告げる。
「それじゃあボクは行くね。皆修行頑張ってね~」
そう言って外に出ていってしまった。
あっけらかんとした表情をして去っていったが、常世の間を出た途端真剣そのものの表情になった。
「もっと強くならなくちゃ……この間のような失態は絶対にしない……!」
そう言って進む姿は誇りある魔王皇コーデリックとしての顔をしていた。
「なんか、アッサリといなくなっちゃったね……」
あっけにとられた顔でクロが言った。
「またすぐひょっこり戻ってきますよ。それがコーデリックという人です」
「そうだね。今はとにかく自分達が強くなる事を考えなくちゃ」
「ご立派な心がけですクロ殿。それでは早速始めましょうか」
「何をするんだ?」
ユータの疑問にサーベルグが答える。
「ここにいる全員で私と模擬試合を致しましょう。遠慮はしなくて結構ですよ。私は不死ですから」
「あそこにある脳が破壊されたらまずいんじゃないか?」
片目が言うが、
「心配には及びません。あれが収められている容器には考えうる限りの防壁を施してあります。何より、脳を破壊されたとしても私は死にませんから」
「そうか、なら遠慮はいらんな」
片目がそう言い放ち、パーティー全員(コーデリックを除く)VSサーベルグの模擬試合が始まろうとしていた。
「では、始めましょうか」
サーベルグが戦闘の開始を告げた。




