71話
メグロボリスはクロ達にとって非常に新鮮で楽しい場所だった。立ち並ぶ露店、行き交う人々、動く床、光り輝く看板。様々な物が雑多に溢れ見る物全てが視界を刺激した。
屋台で買った揚げ饅頭を頬張りながら都市内を進んでゆく。道行く人々の視線がクロとコーデリック、ユータに集まる。クロとコーデリックはその容姿に。ユータは異世界人という事もあり見かけない風貌なので目立つ。
黒髪黒目は珍しくはないが黄色の肌というのはこの世界にはいない。白人種黒人種はいても黄色人種はいないからだ。クロとコーデリックは人から注目を浴びるのは慣れっこだがユータはそうではない。どうにも居心地が悪そうに視線をキョロキョロさせている。
「見られるのは慣れてないのかい? 仮にも女神の救い手が」
「ザカリクにいた時は遠くから姿を晒す事はあってもこんな近くで見られる事は無かったからな」
「へえ、どうしてだい?」
「変装と言うか……伝承に伝わる女神の救い手の姿に似せる為に髪と目の色を変えていたからな。近くで見られたらバレる危険性がある」
伝承に伝わる女神の救い手の姿は金髪に金色の瞳をしている。
「髪の毛は染めればいいけど、瞳の色はどうしてたの?」
「カラーコンタクトレンズというのがオレの故郷にはあってな。それを真似て作った物を目に着けた」
「ええ!? レンズを目に? 痛くないの?」
クロが驚きの声を上げる。瞳にレンズを着けるというのは知らない者からしてみたら恐ろしく思えるのだ。
「オレも初めての時は緊張したが、慣れればまあ、何とかな」
「初体験って緊張するよね~ボクも初めての時は緊張したなあ」
「お前の言う初体験は意味が違うだろ。黙れ」
同調しようとしたコーデリックをユータは黙らせる。
「ひどーい! 最近ボクに冷たくない?」
「これ以上悪魔の誘惑に屈する訳にはいかん」
コーデリックの抗議を無視してユータは先に進む。
「無駄な抵抗を……」
ボソッと言うがユータは聞き逃してはいなかった。
「聞こえてるぞコラ!」
やがてクロ達はメグロボリスの中心部、巨大な電波塔へと辿りついた。
「ここがメグロボリスをコントロールする中枢、ブラックタワーだよ」
「ブラックタワー……確かに黒いね」
クロの言う通り目の前にそびえ立つタワーは全てが黒い。だがよく見ると表面に基盤のような物が張り巡らされており、時折電気が通っている事を示すように一部が光り輝いていたりする。
「何となく絶対防壁と似てるな」
ジュレスの持った感想にコーデリックも頷き、
「実際ここは絶対防壁の更に上位版みたいなものだから、間違っちゃいないね」
そう言うと息を大きく吸い込み、
「サーちゃん、来たよー!入れてー!!」
と叫んだ。
「さ、サーちゃん!?」
「入れてって……入り口なら既に開いてるじゃないか」
ユータと片目がそれぞれ反応する。コーデリックはニヒッと笑い言った。
「サーちゃんはアダ名。大親友だからね。あと、入口は確かに開いてるけど、それはフェイクだから」
「フェイク?」
今度はクロが疑問を示す。
「招待されてない者が通るとどこか別の場所に飛ばされるようになってるのさ」
「何だと?」
メグロボリスに着いた時からユータがうすうす感じていた事だがここの科学力は故郷の地球を凌駕するレベルに達している。いかに地球にはない魔法技術を組み合わせているとはいえ、異常だった。
しばらくすると何かの起動音のような音が響き、ブラックタワーが鳴動した。それが静まるとコーデリックは入口の中へと進んでいった。中に入った途端にコーデリックの姿が消失し、一同は仰天する。
「き、消えた?」
「おそらく飛ばされたんだろう。正しい場所へとな。オレ達も行こう」
ユータはそう言うと入口へと入っていった。クロ達も中へと入っていった。
入口を潜った瞬間、不可思議な感覚に全身を包まれる。ユータだけがかつて感じた事のある感覚に近いものを感じていた。
(エレベーターに乗った時のような感覚……おそらくは空間ごと別の場所に飛ばされてるんだろうな)
気が付くと一行は広いホールへと足を踏み入れていた。
奥の方を見ると、一人の男が立っていた。
「ようこそブラックタワーへ。歓迎しますよ皆さん」
そこに立っていたのは、クロイツェフ=サーベルグだった。




