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忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
謀略の魔王皇編
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67話

 レッドドラゴンの背に乗って海原を駆け巡る。海上スレスレの、波間を縫って低空飛行する姿はまるでユータの故郷にあったジェットスキーのようだった。高度を上げればその分目立つ。なるべく人目に触れないようにギリギリのラインを滑空するように突き進んでいく。

 やがて大陸が見えてくる。急ブレーキをかけながら水上を裂くようにブレーキをかけ減速する。無事に海岸に降り立つが、海水を反動で頭から被るはめになった。冷たく塩辛い水が体にまとわりついて気持ち悪い。


「うえ、しょっぱい……」

 堪らないと言った顔で仲間の方を見るが、コーデリックは意味ありげに笑い、ジュレスは前屈みになって顔を合わせず、ユータは顔を真っ赤にして口をパクパクさせていた。

 クロの着ていた上着は絹で出来た上等な生地で出来ており、また南国の暖かい気候に合わせたため上はそれ1枚しか着ておらず、ようするに水で肌が透けていた。白い肌に二つの赤い果実がその存在をひっそりと主張していた。片目だけは、さすがに長い付き合いという事もあり何食わぬ冷静な顔で鼻血を垂らしていた。

「結局興奮するんかい!」

「黙れ前屈み野郎! クロの美しい身体を目にしたらこうなるのは自然の節理だ!!」

「……なあ、お前本当に元銀狼族の長か? 実は違う団体に所属してたとかないよな?」

 からかいではなく本気で疑問に思ってるらしく真剣な顔で片目に尋ねるジュレスだった。


「あはは、2人はホントに仲がいいねえ」

 無邪気に笑うクロにコーデリックはため息をついて言った。

「クロ、キミはいい加減自分が人に与える影響というものを少しは気にした方がいい」

「???」

 だが、クロにはやはりよく分からないようだ。

「ま、いいか。ボクには別に実害ないし」



 何はともあれ大陸に辿り着いたクロ達はレッドドラゴンと別れ陸路を北に進んでいった。風が優しく髪を撫で、緩やかにバラけさせる。思わず広がる髪を手で押さえるとクロは一つの事実に気が付いた。

「あれ……髪の色が元に戻ってる……?」

「何だ、今頃気付いたのか。お前が倒れて寝てる間に少しづつ元の色に戻っていったぜ」

「そうだったんだ……」

「だが完全に元に戻ったという訳でもないぜ。よーく毛先を見てみな。うっすらとだが青みがかってるだろ」

 言われた通り見てみるとほんのわずかにだが確かに青みがかっている。魔神の力を行使した影響なのだろうか、とクロは思った。夢の中で会った青年は言っていた。力を使う度に魔神に近付いていくかもしれないと。

 髪が青く変わるのは魔神に近付いたという事なのか。今は大した影響はないと思われる。が、再び力を行使していけばその度にどんどん魔神に近付いていくのだろう。そして完全に魔神となった時自分はどうなるのか、とクロは考えた。

 クロは首を振ってそれ以上考えるのは止めにした。今はできる事を一生懸命やっていくしかない。それが例えどんな未来に通じていたとしても。


 海岸から歩いてしばらくは砂と岩の不毛な土地が続いていたが、やがて土の大地となり、更に進むと草むらや木々が見えるようになってきた。マガミネシア領に近付くにつれて土地が豊かになっていくようだった。マガミネシアへは一晩では踏破できない。途中でテントを張り夜を越し、朝になってまた歩く。しばらくそれを繰り返した後だった。クロが異変に気付いたのは。


 コーデリックの様子がおかしい。なにやら常に身体をソワソワさせ、かと思うと熱の篭った視線で見つめてきたり、目が合うとそらしたり。何かを持て余しているような感じだったがそれが何なのかクロには分からない。

 もしやこの間の怪我がまだ治りきっていないのだろうかと思って尋ねてみるが、身体は全然平気だと言う。確かに体の調子自体は良さそうだ。むしろ元気が有り余ってるようにも見えた。

 仲間全員がそれに気付いていたが、深く追及する事は無かった。


ーーそれが、あんな悲劇を起こしてしまうとは、この時点では誰も気付いてはいなかった。



 夜。満月の夜。魔力が最大限に高まるその夜に事件は起きた。夕食を済ませ、毎日の習慣となっていた(牢の中でもこれだけは許されていた)筋力トレーニングをこなし、水に濡らした布で半裸になった身体をぬぐい汚れを落とす。ユータは、唐突に自分に向けられる視線に気付く。


「………………」

 物言わぬ顔でじっとこちらを見ているのはコーデリックだ。その瞳には熱がこもり、見る者を誘惑しそうな妖しい輝きを放っていた。

 コーデリックは美しい。それも尋常じゃなく。全身からは妖しい熱が放たれているようだ。まともに目を合わせてしまったら囚われてしまいそうだった。なるべく見ないように意識しないようにして、ユータは寝袋に潜り込んだ。


 深夜ーーふとした拍子に寝転がると、右手に柔らかい感触があった。力を入れてみるとふにっとした弾力のある感触が返ってきた。

「あっ……」

 思わず、と言った感じのかすれたかん高い声が聞こえた。

「!!?」

 ビクッとして思わず飛び上がると、そこにいたのはコーデリックだった。今は女性体のようだ。もしかして今自分が触ったのは……ユータの全身に冷や汗が流れた。

(やばい。魔王の胸を揉んでしまった……いい感触だった)

 違う、そうじゃないと頭を抱えて転げ回る。

「ユータ」

 鋭い、冷徹な声がかけられ、真っ直ぐに鋭い瞳を向けてきた。

(まずい、消される)

 ユータは死を覚悟した。


 しかし次の瞬間伝わってきたのは、暖かく柔らかい身体の感触だった。コーデリックが身体を剃り寄せてきたのだ。ユータの逞しい胸板に二つの柔らかい双丘が押し付けられ押し潰された。

「!!?」

(何だ!? 何が起きている? いい匂いがするっ!! やばいっ)

 何がヤバイのかよく分からなかったが、とにかく気が動転して何が起きているのか分からない。

「もう、ダメだ……」

「え?」

「ずっと我慢してきたけど、もう限界だ」

 次の瞬間、何とコーデリックは衣服を全て脱ぎ捨てユータの上にのしかかってきた。

「!!! な、な、な、なにを……!」

「ユータ、キミの…………精が欲しい」

 そう言うとコーデリックはユータの着ていたズボンを下着ごとずり下ろした。普段決して人前に見せることのない物がさらけ出され、外の冷たい空気に触れびくん、と跳ねた。

「ま、待て! 落ち着け……! こういうのはだな、節度のある付き合いを経てからお互いの同意の上にだな……!」

 しどろもどろになって止めさせようとするが、混乱して力がまるで入らない。

「ボク、もう我慢できない……!!」



「アッーーーーーーーー!!!!!!」



 ユータの絶叫が辺りに響き渡った。



 次の日、仲間達が見たのは全身をツヤツヤさせ満面の笑みを浮かべるコーデリックと、大切な何かを失い、全てを吸い尽くされたように力なく横たわるユータの姿だった。


ケロッグコーンフロスト!

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