66話
「ここにはもう居られないな」
開口一番、コーデリックはそう言った。
「居られないって、どういう事?」
「敵の襲撃によってこの城はもうボロボロだ。拠点としてはとてもじゃないが使えない。敵がまたいつ襲撃してくるかも分からないし、もっと安全な場所に移らなければ」
「同感だな。次の襲撃が来たら無事に撃退できるかどうか分からん」
「しかし、安全な場所と言ってもどこにそんな物がある?」
ユータの疑問にコーデリックはニヤリと笑って言った。
「あるよ。東の超大国、マガミネシア。魔王皇が1人、謀略のサーベルグが治める世界最大の魔族の国さ」
「サーベルグ……どこかで聞いたような」
クロがうーんと首をかしげながら言うと片目が答えた。
「あのいけ好かない吸血野郎が仕えている主人だろう」
そう、クロ達がかつてエスクエスで出会った吸血鬼の魔族、クロイツェフ=サーベルグ。彼が仕える主人こそ魔王皇サーベルグその人である。
「そっか。じゃあ、マガミネシアに行けばまた会えるんだね」
「できれば一生会わなくてよかったのだがな」
喜ぶクロと嫌がる片目。対称的な2人だった。
「コーデリック様……」
コリーネが何かを決意した顔でコーデリックに語りかける。
「分かってるよ。ここに残るんだろう? この城はキミの城だ。好きにするといい」
「お気づきでしたか……ハイ。私はここに残って城の修繕と残された使用人達と魔物達の面倒を見ようと思います」
「あたしも、ここに残るわ。ついていっても足手纏いにしかならないと思うし」
ジュレスはそんなアンジュの顔を見て何かに気付いたようにニヤッと笑って、
「そっか。頑張れよ。コリーネを落とせるように」
「落とす?」
コリーネは何を言われたのか理解できないようだったが、アンジュは顔を真っ赤にし
「な、何言ってんのよ! ジュレスの馬鹿!!」
と叫びつつコークスクリューブローを速やかにジュレスの鳩尾に叩き込んだ。
「ブロロロ!!」と悶絶しながら転げ回り
(充分戦力として通用するだろ)と思ったがそれを口にしたら今度こそ息の根を止められそうだったので黙っておいた。
「さて、出発する前に……皆、おいで」
とコーデリックが声をかける。するとどこからともなく3匹の魔物がクロ達の前に姿を現した。
それはコピースライムのコピーと、いつか城の中でクロと触れ合った2匹の魔物、カーバンクルとユニコーンだった。
「コピー! それに君達はあの時の……」
「クロの為に3人の友達に一緒に来てもらう事にしたよ。コピーは影武者。カーバンクルは一緒にいる者に幸運を与えると言われている。災厄の力を和らげられるかもしれない。それと、移動用としてユニコーンを」
3匹がそれぞれ頷くように鳴き声を上げた。
「移動なら私の背に乗れば……」
と拗ねたように片目が言うが、コーデリックは首を横に振り
「キミは護衛や乗り物よりも攻撃に回ってもらった方が効率がいい。今はユータという優秀な護衛もいるしね。キミも、本当は分かっている筈だ」
片目は何も言い返さなかった。言い返さなかった事がコーデリックの言葉が正しい事を証明していた。
「食料や荷物も用意したし、そろそろ行こうか」
コーデリックが口笛を吹くと空から巨体を揺るがせレッドドラゴンが地面に降り立った。
「この子に乗って海を越える。大陸に着いたらそこから徒歩でマガミネシアへ向かうよ」
「そのままマガミネシアまで飛んできゃいいんじゃねえの?」
「そうしたら私達がマガミネシアに移動したのがモロバレになるだろ。ちょっとは頭を使え」
呆れたように言う片目にジュレスは口を尖らせ言い返した。
「うっせえ直情馬鹿。オメーにだけは言われたくねえ」
「私のどこが直情馬鹿だって?」
そう言ってギリギリとジュレスの首を締めあげる。
「そ”う”や”っ”て”す”く”て”を”た”す”と”こ”た”よ”~」
ジュレスの苦しそうな声が辺りに響くのだった。




