64話
クロは1人、涙をボロボロとこぼしながら、どうしようもない現実を受け入れきれずにいた。
「嫌だよ……! こんなのってないよ……! コーデリック…………戻ってきてよ」
力なく項垂れ動かぬ遺体に擦り寄るクロに声をかけれる者は誰もいなかった。
唯1人を覗いてーー
『救いたいか?』
「え?」
思わず声を上げ、辺りを見回す。だが声の主はどこにも見当たらなかった。
「「「?」」」
突然のクロの異変に3人はクロがおかしくなったのかと思った。
『救世の天子よーー我と契約を果たせし御子よ。救いたいか? 傷付き命尽きようとしている友を。変えたいか? 悲劇しかもたらさぬ運命をーー』
「………………」
『ただで、という訳にはいかない。お前は今まで以上に多くの物を失い、人からかけ離れた存在になるだろう。更なる災厄がお前を待ち受けるだろう』
謎の声はどこからともなく頭の中に響いてくる。そして、もう一度改めてクロの意志を確認しようと質問を投げかける。
『御子よ。我と契約をかわせし少年よ。救いたいか? その手でーーお前が望むのなら、我はーー私は、お前に更なる力を与えよう』
「……いたい」
最初は身体をブルブルと震わせて、力なく。
「救いたい!」
2度目は力強く、高らかに。
「魔神よ。ボクと契約をかわした存在よ。あなたが、ぼくに力をくれると言うのならーーぼくは受け入れよう。その力をーーあなたという、その存在を!!」
その瞬間、世界が変わる。
力無き、守られるだけの存在だった少年は、戦い、平和をその手でつかみ取れる存在へと、生まれ変わる。胸に刻まれた刻印はかつてない程の魔力を放ち、膨大な魔力の奔流が圧倒的な質量を持って溢れ出す。
「うおおっ! す、すげえ……」
「何という、何という魔力の量だ」
「一体何が起こっている……?」
驚愕する3人の叫び声も圧倒的な魔力の奔流が放つ音にかき消される。ズゴゴゴゴゴ……という鳴動が地震のように辺りを響かせる。
そして、今までクロの身体を覆うだけだった魔力は、クロの体内へと呑み込まれていく。今まで感じた事の無い感覚と痛みが身体中を駆け巡った。クロは歯を食いしばり耐える。
やがてクロの身体は光輝き、内側からほどばしる魔力がクロの髪の色を変化させる。
「クロ……! 髪の色が」
片目が叫んだ。クロの髪の毛は、魔神が持つ物と同じく青く光輝いていた。クロはコーデリックの身体に手を触れると、強大な魔力を送り込み始めた。
それは回復魔法と呼ぶには余りに荒々しく暴力的とも言えるものだった。凄まじい勢いで膨大な量の魔力がコーデリックに注ぎ込まれる。びくん、びくんと跳ね上がりつつもコーデリックの身体が再生されていく。
「おお……コーデリックの身体が再生していく」
やがて身体の傷は完全に塞がり青白く血の気の引いていた肌はほのかに赤く色付いていた。
ゆっくりと、クロがその手を離す。
ややあって、閉じられていたコーデリックの瞼に力が入り、ゆっくりと開かれていく。
「おお……」
「すげえ……奇跡だ」
「これが、救世の天子の力なのか」
3人が驚愕し息を呑む。
「コーデリック……?」
クロは些か自信なさげにコーデリックに声をかけた。
「やあ、クロ……やっぱり君は戦う道を選んだんだね。それでこそ、救世の天子。それでこそ、僕等のクロだ」
「コーデリック……!! 良かったぁ……」
力いっぱいコーデリックの身体を抱きしめ抱擁した。小刻みに体が震えていた。優しくクロの手に自らの手を重ね、愛おしい者を見る目でクロを見つめた。
「ごめん、だいぶ心配かけちゃったね。ありがとう、クロ……」
「ううん、ボクの方こそ守ってくれてありがとう。良かった、助かって」
「コーデリック様! ご無事ですか!?」
周囲の廃墟と化した城の壁を押しのけ倒して、コリーネとアンジュが姿を現した。
「ジュレス、クロ! 良かった! 無事で」
「アンジュ……生きてたか」
アンジュとジュレスがそれぞれ安堵の声を上げた。
「やあ、コリーネ……何とか助かったよ。1度死んじゃったけど」
「ええ!? だ、大丈夫なんですか?」
コリーネの慌てふためく姿を見てコーデリックはふふ、と微笑んでいた。




