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忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
女神の救い手編
72/229

63.5話

 ………………

 朦朧としていた意識が徐々に覚醒していく。目を開けると瞳に映るのは見知らぬ場所。


「ここは…………どこだ?」

 起き上がり周囲を見渡して見るが、やはり景色に見覚えはない。一体何故こんな事になっているのか分からない。

 ふと思い出す。そうだ。ボクは確かさっきまで城に侵入してきた敵兵達と戦っていて、そして……


「ああ、そうか。ボクは……死んでしまったのか」


 ただでさえ銀の弾丸を大量に撃ち込まれて弱っていた所に、奥の手の暗黒空間ダークネスイリュージョンを発動させ大量に消耗し、止めに最後の大爆発だ。魔力と生命力を使い果たしてしまったのであろう。

「て事はここがあの世なのか。なんだか味気ない場所だなあ」

 目に映るのは廃墟。くたびれた建物、物、かつて生きていたと思われる生き物の骸。死んだ者が訪れる世界は天国か地獄が相場だと思うのだが、そのどちらでもなさそうだ。ここには朽ちたゴミしかない。

「クロ達は助かったのかな……でも誰かが死んだならここで再会しても良さそうなものだけど」


 辺りを見回しても誰もいない。誰もボク以外は死ななかった? いや、あの戦闘の規模で誰も死ななかったなんてありえない。確実に使用人達や魔物達の中で犠牲者が出た筈だ。

ボクだけが地獄に落ちて皆天国に行っちゃったかな? だとしたら……

「ひとりぼっちは、嫌だなあ……」

「そうだな」

「こんなゴミしかない味気ない所で」

「全くだ」

「長くいたら気が狂っちゃいそうだよ」

「同感だ」

「気が合うね。ボクとトモダチにならない?」

「いいだろう」

「うん、よろしくね」

「よろしくな」

 嬉しくなって手を取って喜んだ所でピタ、とボクの動きが止まった。




「………………誰?」




 ボク達は、ゴミ山の上に用意されたテーブルを囲み、優雅に茶など啜っていた。うん。美味しい。ボクを唸らせるなんて相当の上物だね。

「いい味だね。どうやってこんなの用意したの?」

「テーブルと椅子、ティーカップはこのゴミ山から掘り出した。紅茶の中身については……聞かない方が良かろう」

 テーブルを挟んで向かいに座る男はそうやって紅茶を啜る。

「なんだい? ここにあちこちある何かの死骸からでも抽出したのかい? ……そうだとしたら紅茶じゃなくて紅茶味の何かだね」

 まあ、飲めて美味くて体に害がないなら何でもいいけど。


「……で、君は誰? ここはどこなんだい?」

 一通り茶を楽しんでからようやく本題に入る。

「私の名はネクロフィルツ。かつて、魔神と呼ばれ恐れられし者」

 彼は事もなげにそう言い放った。

 彼が伝説の魔神ネクロフィルツ? 改めてボクは彼を見てみる。

青色の髪、クロと同じ赤い両目。それなりに端正な顔立ちで、肌は青白く生気をあまり感じさせない。黒いマントに複雑な紋様の施された藍色のスーツ。想像していた魔神像とは全然違う。外見上は魔族とほぼ大差ないように見えた。

「へえ、驚いたね。まさか伝説の魔神に会えるなんて。……ん? って事は、ここはもしかして『掃き溜め』? 参ったな。これでも皆に愛されてると自負してたんだけどな」

 いや、と自称魔神の彼は首を横に振る。


「恐らくここは本物の掃き溜めでは無い。私と契約をかわした御子の精神世界だろう。赤子の頃に見た風景が、かの者の原風景として焼き付けられたのだろう」

「ここがクロの精神世界だって?」

「そうだ。そして私も恐らくは本物の魔神ではなく、その一部。かの御子と契約をかわし御子の精神の一部となった魔神の魂のひと欠片だ」

 淡々と感情を感じさせない声で彼は言う。

「そして、御子と深く心の交流を深めた者の魂は死後ひとときここに引き寄せられるらしい。今まで何人かそういう者がここへ訪れた」

「……て事はやっぱり、ボクは死んだんだね」

 分かっていた事だけどやっぱりしんどいね。


「いや」

 と彼はかぶりを振った。

「恐らくはだが、お前はまだ死んでいない。今までここを訪れた者とは違う、魂の煌めきを感じる。一時的に仮死状態にでもなったのだろう」

「それなら、ボクは戻らなきゃ。まだやらなきゃいけない事が沢山あるんだ。…………でも、どうやって戻ればいいんだ?」

 そもそもどうやってここに来たのかも分からないし。

「私の力ならお前を元の世界に戻せる」

「本当かい!? それならぜひ頼むよ!」

 だがそう言っても彼はじっと動かず黙ったままだった。



「お前に聞きたい。お前を復活させる事が本当に御子にとって助けになるのか?」

「ボクが役に立たないと言いたいのかい? 舐めるなよ!……と言いたい所だけど、あれだけ敵に良いようにやられたんじゃ何も言えないね」

「そういう事ではない。私は人間の感情というものに疎い。だから今まで度々いろんな者の心を覗いたりここを訪れた魂と対話を重ねたりして勉強してきた。今ではそれなりに理解できるようになったつもりだが」

「ボクの頭の中を覗いてたのは君か。器用な事をするねえ。……それで?」

 ボクが続きを促すと、魔神は迷ったように語り出した。


「お前を元の世界へ返すには、御子を通じて私の魔力をお前の身体に送り込めばいい。そうすればお前の身体は失った魔力を取り戻し再生するだろう」

「何も問題ないように思えるけど」

「しかしそれは今まで以上に私の魔力を身体に取り込むという事でもある。今まで身体を覆うだけだった魔力が身体の内部にまで行き渡る事になる。そしてそれは御子に看過できない影響を及ぼすだろう。身体的には勿論だし、今まで以上に災厄に見舞われる事になるだろう。……果たしてそれは、御子にとって本当に助けになるのか?」

「………………」

 成程、彼が躊躇する理由もよく分かる。


「成程ね。だったら、直接本人に聞いて見ればいい」




 呆気に取られる魔神の顔と言うのも面白いね。なかなか珍しい物を見れたんじゃないだろうかとどうでもいい事をボクは考えていた。

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