62話
城の中で散発していた戦闘音が止んだ。静寂が辺りを包む。
(どこだ? どこから来る?)
油断なく、辺りを見回すコーデリック。どんな小さな変化も見逃さないつもりだった。
だがーー
「がっ!!」
バララララ、という連続音と共にコーデリックの体から煙が吹き出し、短い叫び声が上がる。
「「「!!?」」」
何が起こったのか分からない。分かるのはどうやら攻撃を受けたらしいコーデリックから全身から蒸気を噴き出しながら身悶えているという事実だけだった。
力を振り絞り辛うじて立ち上がるとコーデリックの体から無数に撃ち込まれたのであろう弾丸がポトポトと転がり落ちてくる。
その弾丸を目にした片目が目を見張る。
「これは……! 銀の弾丸だ!」
直後片目の所にも連続音が鳴り弾丸が撃ち込まれるが、既にそこには片目はいない。気配と、攻撃が来た方向から当たりをつけ突進する。直後、ぐああっ! という叫び声と共に襲撃者が壁に激突し、動かなくなる。
倒れ伏した襲撃者の体が点滅するように姿を現したり消したりするのを見てユータは叫ぶ。
「まさか、光学迷彩なのか? 馬鹿な!」
彼の故郷でも未だ完全に実現されていない技術だと言うのに、地球に比べて数段文明レベルの落ちるこの世界でどうやって……?
「魔法だ……おそらく、足りない技術を……魔法と組合わせる事で、補った、んだ……」
苦しそうにコーデリックが呻く。片目はしばらく部屋中を移動して暴れ回ったが、それ以上敵を捉える事ができなかった。
「片目、もういい、今はクロ達についていてくれ……おそらく時間差で突入してくるつもりだ。今はそれ以上はいない」
「しかし、また来たらどうやって捕捉する?」
ようやく全ての銀の弾丸を体から吐き出し終わったが、受けたダメージそのものは消せない。明らかに顔色の悪い顔を上げてコーデリックは魔力を発現させた。
コーデリックの全身から蜘蛛の糸のように魔力で編まれた糸が部屋中に張り巡らせる。少しの間を置いて数人の叫び声が聞こえ、糸に絡め取られてもがいていた。
「魔力で姿を消しているなら、魔力を吸い取ってしまえばいい」
ニヤリと笑う。コーデリックの放った糸に囚われた相手から魔力が奪われていき、どんどん敵の姿が見えてくる。コーデリックは手から衝撃波を出すと意識のあった全員を昏倒させた。
「さて、第2陣まで撃退したが、次はどうする?」
次の瞬間、球状の物体が部屋に投げ込まれた。
ユータはハッとなり大声で叫ぶ。
「爆弾だ! 離れろ!」
次の瞬間、大爆発が起こる。
とっさに全員爆発地点から離れるが、続いて2個3個と手榴弾が投げ込まれた。
「危ないっ!」
咄嗟に近くにいたクロとジュレスを突き飛ばす。ユータはモロに爆発を食らったが魔力の防壁によってほとんどダメージは受けていない。だが爆発の衝撃までは防げなかったようで、肋骨がきしんだ。
「ぐっ……!」
「大丈夫!?」
「来るな! じっとしていろ!」
次の瞬間再び発泡音が連射される。ユータは間一髪でクロとジュレスの前に立ち塞がり身体で攻撃を全て受け止める。肋骨にヒビが入る音が耳に響く。口から血を出しながら叫んだ。
「前方3メートル! そこにいる!」
片目が瞬時に移動して敵を跳ね飛ばす。次の瞬間には片目の身体に銃弾の雨が降り注ぐが、片目の身体に銀の銃弾など聞くはずもない。
「なめ、るなあーーーーーー!!」
怒りと共に敵に突進し爪で横一文字に凪いだ。鋭い爪痕とバラバラになったボディスーツを残し敵兵達は吹き飛ばされる。
再び静寂が訪れる。だが、先程の攻撃によって糸が焼き切られてしまった。
「くそ、せっかく位置を特定できるようにしたのに……こうなったら」
コーデリックは覚悟を決めて、大技を発動させた。
光の通らない黒い障気がコーデリックの身体から噴き出していく、否、コーデリックの体が障気へと分解されていく。
やがて部屋中が黒い障気に包まれた。
「本気でやってやるよ。来るなら来い!!」
コーデリックの叫び声が部屋に響いた。




