61話
城のあちこちから、戦闘音が流れてくる。敵の後続部隊と城内の魔物、使用人達との戦闘が始まったようだ。
「幸い、敵がここまで侵入してくるまでにはまだ時間がある。それまでに対応策を考えよう」
コーデリックが冷静に意見を述べる。
「待って、コーデリック! それは……」
クロが焦って声を上げるがコーデリックはあくまで冷静に声を上げる。
「そう、キミの危惧しているとおり、ユータ君との戦闘で消耗している彼等には勝機は薄い。多数の犠牲者が出るだろう」
クロの顔が大きく歪む。この1ヶ月間、この城でクロは彼等と親交を深めてきた。同じ時を過ごし、笑いあい、暮らしてきた。 その彼等が、2度と手の届かない所に行ってしまう。
「クロ。キミの気持ちは分かる。我慢しろとは言えない。ボクだって悔しい。でも、彼等の仕事は身を張ってボクを、キミ達を守る事なんだ。それが彼等がここにいる意味なんだ。……第一、今から助けに行っても間に合わない。……ボクらに出来るのは、彼等が稼いでくれた時間の間に、この場の全員が生き残れる方法を考える事だけなんだ」
何も言えなかった。分かっている。戦闘では何も役に立てない自分がこの場で言える事など何もないのだ。この場で1番力のあるコーデリックの指示に従うのが最善なのだ。
クロは自分の無力さが歯がゆくて仕方無かった。強大な加護の魔力があろうと、丈夫で死ににくい体があろうと、できるのは自分の身を守る事だけなのだ。戦う為の力は、自分には無い。
クロの葛藤をよそにコーデリックは素早く作戦を立てていく。
「ユータ君。敵の部隊が使うであろう武器、武装に心当たりはあるかい?」
「……詳しい事まではオレにも分からん。ただ、奴等は魔法でオレの頭の中の記憶を覗いている。地球の科学技術を盗んでいる筈だ。この世界で使われている一般的な武器とは一線を画したものを使用してくる筈」
ユータの言葉に片目が閃いたかのように聞く。
「ではユータ。お前の故郷で使われていた武器や兵器にはどんなのがあるんだ? 例えば、拳銃のような物もあったりするのか?」
片目の頭の中にあったのは、10年前に出会ったある冒険者が使っていた武器だった。あれは、そこらの武器とは使われている技術のレベルが違った。だからもしかしたら、と思ったのだ。
ユータは片目の口から出た拳銃という単語に驚いた。ユータが見た限りではこのネバーエンドの世界の文明水準は地球でいう所の中世時代程度だったはずだ。到底拳銃などを作れるレベルでは無かった筈だが。
「この世界にも拳銃があるのか。そうだな……オレもあまり詳しくないが、オレのいた世界では兵の主な武装は拳銃の発展系となるライフルや連射できるマシンガンといったものがメインだった。ピンを抜いて投げる事で爆発を起こせる爆弾ーー手榴弾や、爆弾それ自体が推進力を持って飛んでいくロケット弾等もある」
「ふむ、つまりは基本的には鉛の玉を火薬で飛ばす拳銃系統と、爆弾系統の二系統な訳だね。……防具についてはどうだい?」
「防具は防御力よりも機動性に重きを置いて軽装である事が殆どだな。下手な鎧だと弾が貫通するし、弾丸を弾くような厚さの鎧だと重すぎて動けないからだ。まだ動き回って弾を避けた方がマシ、という事だな。最も、拳銃を用いない俺達に同じ装備をしてくるかどうかは分からんが」
ユータの説明を聞いておおよその作戦は決まったらしい。コーデリックは作戦の内容を説明し始めた。
「攻撃担当と防御担当、二つに分かれよう。攻撃のメインは片目だ。相手は遠距離攻撃がメインで装備も(おそらくは)機動重視で柔らかい。超スピードで動き回れて体も硬く、近距離戦が得意な片目が適任だろう。防御のメインはユータ、君だ。キミの防御力耐久力はこの中でもトップレベル、それにボク達の中では一番敵の武装に対応できる筈だ。クロとジュレスを敵の攻撃から守ってくれ」
「了解した」
「分かった」
「クロ、キミは戦う力はないが高い防御力と加護の魔力がある。敵が万が一魔法攻撃をしてきたり、耐えられるレベルの攻撃をしてきたらキミがジュレスを守ってくれ。それ以外はとにかく自分の身を守る事を優先に」
「うん、分かった」
「ジュレス……キミは」
言いかけた言葉が途中で澱んだ。ジュレスが、この場で誰よりも悔しい思いをしているのは明らかだったからだ。
戦う事も、守る事もできず、自分の身すら助けて貰わなければいけない。ジュレスの口がわずかに動いた。声は出していなかったが、何と言っていたのかは明らかだった。
『ちくしょう……』
コーデリックは改めて声をかける。
「ジュレス。悔しいだろうけど今は耐えるんだ。今のキミにとっての勝ちは、生き残る事だ。今はそれだけを考えろ」
コクン、と頷いたのを確認してコーデリックは締めくくるように言った。
「ボクは、攻撃も防御も両方やる。状況を見ながら動くから。指示も飛ばすと思うからそのつもりでいてくれ」
その場の全員がコクン、と頷いた。
戦いの時は、もうすぐそこまで来ていたーー
作者は近代兵器やミリタリーにはてんで無知なので、おかしいだろうと思う事が沢山出てくると思いますが、暖かい目で見守ってやって下さい。致命的なミスに関しては、助言頂けると助かりますm(_ _)m




