59話
コーデリックが一瞬で侵入者の側に詰め寄り、襲いかかる。
そしてーー
目にも止まらぬ速さで侵入者が着けていた首輪に衝撃を与え破壊すると抜き取り魔法で凍結させた。あまりの速さに何が起きたのか片目以外は誰も理解できなかった。ただ、コーデリックが手に持っている凍結している首輪を見て、首輪を取る為に攻撃を仕掛けた事を理解した。侵入者は攻撃の衝撃で一瞬意識が飛んでいたようだがすぐに意識を取り戻したようだった。
奪われた首輪を見て何が起きたのかを知ったようだった。
「首輪が……」
呆然と呟く青年に、コーデリックはにこやかに告げた。
「キミを縛っていた鎖は外した。これでキミはもう自由だよ」
「………………」
青年は何と言っていいのか分からない様子であった。
「コーデリック、一体どういう事なの? その首輪は……?」
「これは爆弾だよ。首輪の中に仕込まれてる。遠隔操作でいつでも好きなタイミングで爆破できるようになってる」
「爆弾……? 何で首輪にそんな物を」
訳が分からないという顔をしているクロにコーデリックは説明した。
「裏切ったり命令に背いたりしないようにする為にだろうね。ついでに言うと盗聴器まで付いてるから、彼がボク達に全てを説明して助けを求めようとしても無駄だっただろう」
「……更に言うなら、戦闘になってオレが負けた時に敵ごと巻き添えにするつもりもあっただろうな。それくらいは平気でやる奴等だ。オレに救世の天子の殺しを命令した奴等は」
苦々しい顔で言う。
「やはり、女神信仰者なのか? クロを殺すようにお前に命令を下したのは」
「その通りだ。二年前の戦争以降ずっと牢獄に囚われていたオレはある日突然牢から出された。救世の天子を殺せば自由にしてやると言われてな。そんな戯言を信じていた訳じゃなかったが牢から出るには唯一のチャンスだった。オレにはどうしても成し遂げたい事があった」
二年前の戦争という単語を聞いて厳しい表情をしたジュレスは青年に質問した。
「あんたが……女神の使い手なんだな? そして二年前の戦で俺達魔族信仰者を殺しまくったんだな?」
その瞳には強い怒りが、殺意とも呼べるものが混じっていた。
「こんな事を言っても信用できないかもしれないが、オレは本物の女神の使い手じゃない。そもそも、女神の使い手が現れたなんて事自体が嘘なんだ」
「!? どういう事だ?」
動揺するジュレスに青年は説明を続ける。
「『救世主』の存在がどれだけ教団や信仰者にプラスをもたらすか、お前達なら身を持って知っているだろう? 救世の天子が現れたのだから」
一同は黙り込んだ。その通りだったからだ。事実クロが現れてからの魔族信仰者の勢いはめざましい。
「だが、女神信仰者達の元にはいくら経っても救世主は現れなかった。どれだけ探しても見つけられなかった。だから、救世主をでっち上げる事にしたのさ。偽者だろうと気付かれなければ結果に大差はないからだ」
「その偽者があんただって言うのか……? じゃ、じゃあ戦争の時はどうだったんだよ」
「戦えなかった」
「え?」
「戦えなかったんだよ、オレは。だからオレは使えないと判断されて牢獄に入れられたんだ。実際に戦場で戦っていたのは別人だ。偽者の替え玉という訳だ」
滑稽な話だと自重げに青年は笑う。あまりの話の展開にジュレスはなかなか次の言葉が出て来ない。
「戦えない、という事はないだろう。事実お前は強い。罠と魔物を突破してここまで来れたではないか」
「……力だけは確かにあった。だが、力があってもオレには度胸がなかった。人を殺す度胸が」
青年の言葉に片目は納得できないという顔をして更に尋ねる。
「戦う度胸のない奴がどうしてそこまで強くなれるんだ? 生まれた時から元々強かったとでも言うのか? 魔族でもあるまいし」
「元々強かったのさ。というより、魔力に対する非常に強い適性があった。だからオレはこの世界に呼び出された」
「この世界に、呼び出された?」
クロがオウム返しに疑問を口にした。
「あいつらは女神の使い手を召喚術で呼び出そうとしたのさ。本物を呼び出す事は出来なかったが、異世界の魔力に非常に強い適正を持った個体を呼び出す事には成功した。それが、オレだったという訳だ」
青年の言葉にクロは愕然として言う。
「そんな、そんな事が……」
「全てを語ろう。最初から最後まで、何があったのかを。その代わり、全てを話し終わったらオレの質問に答えて欲しい」
「……うん、分かったよ」
青年は真摯に語りかけた。クロは真摯にそれを受け止めた。
青年は深く頷き、語り始めた。




