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忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
女神の救い手編
64/229

57話

 侵入者が通路を駆け抜ける。そのすぐ後を激しい炎が追いかける。レッドドラゴンの火球である。しかし侵入者に当たる事はなく壁に衝突し爆発を起こす。煙が晴れた時、影は既にその場にいなかった。


 落とし穴。押し潰す天井。壁から槍。転がってくる大岩。この決して大きくはない城のどこにこれだけ設置されているのか、と思う程の大量の罠が侵入者を襲う。

 だがそれらの罠が侵入者を傷付ける事はない。

 罠を避けた訳ではなく、むしろ低ランクの冒険者ですらそこまでかからないだろうと思う程に全ての罠にかかっていた。


 それなのに何故無傷なのか。


 肉体に上乗せされた膨大な魔力の防壁のせいである。単純な防御力だけで全ての罠を凌いでいる。とんでもない実力者だった。

ただ、実力者であっても戦慣れしている訳ではなさそうだった。挙動が素人臭いのである。罠にいちいちかかったり、迷路で迷ったり、簡単に魔物に囲まれたり。


 コーデリックは通信魔術の応用で侵入者の挙動を逐一偵察していたのだが、気になる事があった。

 犠牲者が誰1人出ないのだ。膨大な魔力を防御ではなく攻撃に転化させれば城内の魔物を倒せない筈はないのだ。事実コーデリックは断腸の思いで仲間ともだちに犠牲が出るのを前提で作戦を立てていたのだ。


 だが誰も死んでいない。大怪我を負った者はいたがそれもどうも手加減を誤って負わせてしまったもののようだった。使用人達が次々と証言したのだ。直接対峙して負けたが止めを刺さずに去っていったと。

 この時点でコーデリックは侵入者にこちらを傷付ける意志がないと判断し作戦を変更する事にした。



 明かりの消された薄暗い廊下で二つの人影が対峙していた。1人はコリーネ。もう1人は侵入者だった。

「一体にゃんの……何のつもりですか」

 一回噛んだ事を無かった事にしてコリーネは侵入者に尋ねた。侵入者は顔全体を覆っていた布の口元だけを緩めて言った。

「お前はいきなり襲ってこないだけ他の奴等よりは話ができそうだ」

 予想していたよりも随分若い声だった。実力からしてもっと年上かと思っていたのだが。

「何のちゅ、つもりかと言ってるんです。何故敵対者を生かすような真似をしたんですか」

 緊張がなかなか取れないらしく、噛みが直らない。



 意外な事に侵入者はクスッと笑う。

「そんなに怖い顔で睨むな。単純な話だ。そちらと敵対する意志はないという事だ」

「でゃったら、結界を無理矢理破るなんて事をせずに普通に訪ねてくれば良かったでしょうに」

 コリーネがそう言うと顔を顰めて

「こちらにも事情というものがあってな」

と返してきた。


「救世の天子に会わせてくれれば正直に全てを話そう」

「事情を聞くのが先です」

「……それは出来ない」

「ならば、会わせられません」



「「………………」」



 しばしの沈黙が場を支配する。やがてその静寂を打ち破って侵入者とコリーネの戦いが始まった。




「申し訳ありません。逃げられました」

 玉座の間に戻ってきたコリーネは項垂れている。あちこち怪我をしているようだが動く事に支障は無さそうだった。

「知ってるよ。見てたから。いちいち噛んでて可愛いかったなあ」

「きょ、きょんな時にからかわないで下さい!」

 コリーネの抗議をコーデリックは笑って受け流し、表情を真面目なものに変える。


「まあ気にしないでいいよ。どうやら侵入者の彼にはこちらを傷付ける意志がなさそうだという事も分かったし」

 うんうんと頷いた後コーデリックは作戦の変更をコリーネに告げた。

「作戦変更って……まさか、奴と直接会うつもりですか?」

「いいや」

 コーデリックは首を振り否定すると続きを話し始めた。

「向こうの狙いがボクならそれでも良かったんだけどね。クロが巻き込まれる可能性がある以上それは出来ない。彼の言葉をそのまま信用する訳にはいかないよ。それに……彼が危険な存在である事は確かなんだ。どうやら単純な力量だけならボクに匹敵するレベルのようだし」



 魔王皇と同じ強さ。

 一同に衝撃が走る。


「それじゃこの城の魔物や使用人だけじゃどうしようもねえな」

「どうするつもりなんだ?」

 ジュレスや片目の言葉を受けてコーデリックは不敵に笑う。




「それはね……」



 そうして新たな作戦の内容が伝えられた。


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