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忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
女神の救い手編
62/229

55話

 暗くじめじめした、風の通らぬ古びた部屋。四方を石に囲まれ、鋼鉄の格子は幾重もの鎖と鍵で拘束されている。その部屋の中心に佇むのはボロ切れを身にまとった男だった。

 男と言ってもその年齢は若く、まだ成人を迎えていない少年といってもいい年だった。牢の向こうには衛兵がおり常に監視は行われていたようだった。


 この牢は人里離れた山奥の底、地下50メートル程の深さに存在し壁の深さは2メートル程もある。

 壁や地面を掘り進めようとしても絶対に逃げられないようにされていた。また床には巨大な魔法陣が引かれており魔力を吸収する仕組みになっているようだった。

 衛兵の待機する控え室にはカメラが仕掛けられており別の場所からも絶えず監視がされている。


「絶対に、外に逃がさない」


 そういう設計者の思惑が強く滲み出ていた。



 少年が牢に入れられてからおよそ2年が立とうとしていた。だが、少年の瞳には絶望は浮かんでいなかった。

 そしてある種の決意が浮かんでいた。

 必ず外に出る機会は巡ってくる。用が無いなら自分はとっくに殺されていたはず。生かされているという事はまだ利用価値があるという事だ。その時を待つ。その時こそ、自分の望みが叶う時だ。


 どれくらい時間が経っただろうか。薄暗い地下に明かりが差し足音が響いてきた。足音は少年の前で止まり、ガチャガチャと鍵を外す音がした。

「起きろ」

 男の声を少年は目を開けた。

「お前にチャンスをやろう。仕事をやる。それを達成すれば自由にしてやる」

 少年に拒否権などないように一方的に告げた。

 男はそこで一旦言葉を切った。


「救世の天子が現れた。殺せ」


 男の言った言葉の内容に少年の眉が寄る。

 短く用件だけを告げて男は去っていった。少年を拘束していた牢の鍵は外され、首に禍々しい首輪を装着させられた少年は外に出された。

 実に2年ぶりの外の世界である。少年は迷わず歩きだした。



「頼んだぞ。女神の救い手よ」



 男の一人呟く声が辺りに響いた。




「女神の救い手?」

 クロの声が部屋に響いた。

「そう、一言で言えば女神信仰版の救世の天子だね。女神信仰者にとっては神にも等しい存在だ」

 ネグリジェを着てクロのベッドに潜りこんだコーデリックがそう告げた。最近はこうしてコーデリックがよくクロ達の部屋に来て一緒に寝る事が多い。


「でもよ、女神の救い手は二年前の戦争以降表立って出てくる事は無かった筈だせ。それが何で今になって?」

「決まってるだろう。クロの存在が驚異だからだ」

 片目の言葉にその通りと言わんばかりにコーデリックは頷いた。

「女神の救い手の目的はクロ、君の命だ。救世の天使を女神の救い手が倒せば魔族信仰は衰退し、逆に女神信仰は活発化するだろうからね」

 コーデリックの言葉に場の緊張感が増した。


「それで最近よくぼくのベッドに潜り込んでくるようになったんだね? ぼくを守る為に」

「察しがいいね。その通りだよ。まあ個人的な欲求も無くはないんだけどね」

 ジュレスと片目が渋い顔をしてコーデリックを睨むがコーデリックはどこ吹く風だった。


「まあそういう事だから気を付けてね。勿論こっちでも警備を強化したり対策はしているけど」

「相手が女神の救い手なら何が起こるか分からないからな」

 片目も頷いて同意している。

「そんなに凄いの? 女神の救い手って」

 クロの質問に今度はジュレスが答える。

「殆ど伝説上の存在だからな。海を割いて大地を割ったとか、雨を振らせて日照りを救ったとか」

「要するに何をしてくるか分からないって事さ。用心するに越した事はないよ」


 クロの傍らに佇んでいたコピーが急に動き出しクロの形をとりだした。そしてクロの前に立ちはだかるように腕を組んで仁王立ちしている。

「いざとなったら自分がクロの身代わりになって戦うってさ」

 とコーデリックが通訳した。

 あのキス事件以来コピーはクロに良く懐き側を離れなくなってしまった。しかしコピースライムは影武者としてとても有能だからとコーデリックは止めずにむしろクロの側にいさせる事を推奨した。

「それが彼等コピースライムなりの愛情の示し方なんだよ。好きにさせてやって?」

 と言われたのでクロも止めさせようとはしなかったので今のような図が出来上がったのである。


「それにしても、女神の救い手がやってくるなんてどこからそんな情報を手に入れたの?」

 コーデリックはニヤリと笑って言った。

「ボクは『魅了』の二つ名を持つ魔王だよ? そこらじゅうに「トモダチ」はいるさ。それこそ、女神信仰者の中にもね」

「流石魔王。敵に回したくはないな」

「誰も敵に回すつもりはないよ? ボクの友達に手を出さなければ、だけどね」


 のほほんとして言うが、実際自分の仲間が傷付けられた時は容赦なく敵を排除するんだろうな、と片目は思ったのだった。

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