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忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
魅了の魔王皇編
61/229

54話

「誤解だあーー!!!! 俺は何もやってねえ!!」

 盛大な叫び声が城の一室に響いた。

 クロ達の部屋である。

 天井からジュレスが縄で縛られ吊るされており、その前には般若の顔をした片目が仁王立ちしている。



 クロはジュレス?にキスをされた。

 その事を片目に話したところ片目の顔が見る間に赤くなっていき顔中に血管を引き攣らせて般若の顔になった。

 そして部屋の中で寝ていたジュレスは片目によって亀甲縛り……もとい拘束され今まさに尋問という名の拷問が行われようとしていた。


「いつかこういう日が来るかも知れないとは思っていたが、それがこんなに早く……しかも相手がお前だとは。正直裏切られた気分だ。お前はクロが嫌がる事はしないだろうと思っていたのに」

「嫌がるってぼくは別にそこまで嫌だった訳じゃ」

「黙らっしゃい! そうやって気を許したら最後、あれよあれよと進んでいって最後は汚されるんだ! クロの育て親として見過ごしてはおけん!」

「何でぼくの意志より片目の意志が優先されるんだよ~ぼくの問題なのに」

 クロの事の筈なのにクロ自身の意見が却下されるのは理不尽に思えるクロだった。


「おい、勝手にそっちだけで話を進めんな! 俺がクロの意志を無視してキ、キキキスなんてする訳ないだろ!」

「ほう、ではクロが望むならキスをするというんだな?」

「それは当然」

 瞬時にジュレスは答えた。

「有罪」

「何でだよ! クロに望まれたらお前だってやるだろうが!」

 それどころか望まれなくてもやる可能性すらある。

「私は育ての親だからいいんだ」

「何だその滅茶苦茶な理屈は!」

「うるさい! せっかく今まで必死に耐えてきたのにポっと出の奴に横からかっ攫われた私の気持ちがお前なんかに分かるか!」

「必死に耐えてきたんだ……」

 クロは若干顔が引き攣っている。


「ともかく、お前が何と言おうとクロがお前にキスされたと言ってるのは紛れもない事実なんだ」

「その事なんだけど……」

 ここでクロが口を挟んだ。

「あれ本当にジュレスだったのかな。何か様子が変だったし一言も喋らなかったし……大体ぼくはあの後すぐにこっちに戻ってきたのに既に中にジュレスがいるってのもおかしいし」


 考え込むクロをよそにジュレスはひらめいたとばかりに叫んだ。

「分かった! 偽物がいたんだ! 誰かが俺に化けてクロにキスしたんだよ! そうすれば俺に罪を擦り付けられるからな!」

「「な、何だってーー!!?」」

「ふむ……案外馬鹿にできん話かもしれんな。ここには様々な珍しい魔物がいる。中には変身能力を持つ奴もいるかもしれん」

「コーデリックに聞いてみようよ」



「あー 恐らくそれはコピーの仕業だね」

 そうコーデリックは答えた。今日は男性体の気分らしく黒いスーツに身を包んでいる。髪の長さはショートになっており金色の瞳がよく映えた。白く透き通る美しい肌は男になっても全く変わらない。

 外見上は16歳くらいに見え、女性体の時より若く見える。

 絶世の美少年2人が向かい合う様は中々見れるものではないだろう。見る者が見れば鼻血を垂らして喜ぶ光景であった。


「コピー?」

「コピースライムって言ってね。外敵の姿を真似る事によって身を守る習性があるんだ。クロが出会ったのは多分その子だと思う」

 パン、とコーデリックが手を叩くとコリーネが音もなく背後に立っていた。

「お呼びでしょうか」

「話は聞いてたね? コピーを連れてきて」

「畏まりました」

と返事をするとまた音もなく姿を消した。


「……ひょっとしてコリーネって実はすごく有能?」

「緊張しなければね」

 成程、確かに初対面の時は緊張で噛み噛みだった。

「コリーネは元々この城を治めていた城主の息子なんだ。ボクの叔母さんの息子……甥っ子に当たる」

「では、魔皇族という事か」

 片目が感心するように言う。

「うん。この城の名前はコルネリデア城って名前でしょ? あれ、コリーネの正式名称なんだ。彼は正当なこの城の後継者なんだよ。今は修行を兼ねてボクの付き人をやってるんだけどね」

「ふえーー」

 知り合いの思わぬ過去にクロは感心する。

「人に過去あり、というヤツだな。見かけだけで判断してはいかんという事か」


「コーデリック様。コピーを連れてきました」

 そう言って部屋に入ってきたコリーネは透明のジェル状の物体を抱え込んでいた。ドサッと地面に落とすとジェルは蠢いて形を変えていく。するとコリーネがもう1人、コリーネの横に立っていた。


「!?」

「これは……!」

「ふええ~」

 三者三様の声を上げる。


「これがコピーの能力。体液を採取して細胞の情報を読み取り外見上はほぼ完璧にコピーできるんだ」

 コーデリックの説明にクロは納得したように頷いた。

「体液を……そうか、それでキスをしたんだね」

「そうなんだ。だから悪気があってキスをした訳じゃないんだ。あくまで体液を採取する為にやった事だから。許してやって欲しい」

 そう言ってコーデリックは頭を下げた。

「こ、コーデリック様! あなたが頭を下げる必要は……!」

「いいんだ。配下の不手際は主の責任。本当に申し訳なかった」

 クロは宥めるように笑顔を浮かべ言った。

「配下じゃなくて、友達でしょ? 友達の不手際に頭を下げるなんて、コーデリックは人がいいなあ」

 クロの言葉にコーデリックは目を丸くする。

「君の責任じゃないよ。それに、ボクは気にしてないから」

「クロ……ありがとう」


 主が頭を下げた事に何かを感じたのか、コピーはコーデリックの姿に変身し、そして主と同じように頭を下げた。

 申し訳なさそうに項垂れるコピーの頭をクロは優しく撫でた。

「コーデリックのせいじゃない。自分のせいだって言いたいの?……いい子だね。ぼくは気にしてないから。大丈夫だよ」

 クロの言っている事は理解できるようで、嬉しそうに笑みを浮かべるとクロに抱きついて頬ずりした。

「さすがクロ。コピーに気に入られたようだね。この子は気難しいんだけど」

 コーデリックが感心したように言った。


「それはいいんだが……俺こいつと会った覚えないんだけど」

 ジュレスが困惑気味に言う。

「おそらく、寝ている間に体液を採取されたんだろうね」

「体液を採取って……」

「もちろん、口から」

 ニコリと笑って言うコーデリックにジュレスは肩を落として項垂れた。

「俺の……俺のファーストキスが……」


 ジュレスの言葉に好奇心を刺激されたようで、コーデリックが悪戯げな表情を浮かべて、

「そうなの? じゃあボクがセカンドを奪ってあげようか? 何だったら夜のお相手もするよ? 男ででも女ででもお好みの方で」

 そう言って顔を近づけるとブンブンと顔を横に振り、

「い、いや、いいから! 大丈夫だから!」

 コーデリックの悪ノリにクロも乗ってきて、

「ジュレス、キスだったらぼくでよければできるよ……?」

「クロ! お前分かっててやってるだろ! コーデリックに毒されやがって!」

 この2人に詰め寄られたら拒否しきれる自信がない。ジュレスは大いに困っていた。

 そこにコホン、と咳をうち、

「あ~ ジュレス? 何だったら私が……」

「お前のなんかいらん」

 最後まで言い切らせる事もさせず即答で断った。


 ピキっと額に青筋を浮かび上がらせた片目は音もなくジュレスの背後に回ると体を絡みつかせて全身を締めあげた。

「いい度胸だ小僧。大人のお姉さんの身体の魅力をその体にたっぷりと分からせてやろう」

 などと言ってコブラツイストでギリギリと圧迫する。

「体の魅力を分からせるの意味がちげえよ……! ギエエエ!!」



 コルネリデア城にジュレスの絶叫がしばしの間響き渡った。




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