52話
こうしてコルネリデア城での生活が始まった。いないのかと思われていた使用人達とはコーデリックとの面会が終わった後に顔を合わせる事になった。というか、話が一段落した後にコーデリックがもういいよ出てきても、と言った瞬間に部屋に雪崩れこんできた。部屋の外でずっと覗いていたらしい。
コリーネ曰く
「城の主であるコーデリック様より先に客人と顔を合わせるなんてとんでもない」という事で隠れていたらしい。クロ達は暫くもみくちゃにされて大変だった。
◆
コンコン、というノックの音と共にドアが開かれ少女が3人分の朝食を運んできた。
「おはようクロ。朝食持ってきたわよ」
「ふわあ……おはようアンジュ。美味しそうだね」
「ふふ、料理長が腕によりをかけて一生懸命作っているからね」
そう言ってアンジュはティーポットから紅茶を注ぐ。甘い香りが部屋に立ち上り、ぐう~という音と共にジュレスが起きてきた。クロ達3人は全員同じ部屋を割り当てられる事になった。全員個室よりその方が色々とやりやすいだろうという配慮の末である。
「お、朝飯か。おはよーさん」
「ご飯の匂いで起きるなんて食いしん坊よねジュレスったら」
フフッと笑うアンジュにジュレスは顔をしかめて言った。
「スラムで不味い飯に慣れてりゃ食いしん坊にもなるさ。ここの飯はうめえしよ」
「ホントよね~あたしここに来てから2キロも太っちゃったもの」
「2キロも横幅が増えたのか? そりゃあ大変だな」
「そのキロじゃない! もー馬鹿にして! 横幅2キロメートルってどんな化物よ!」
クスクスとクロが笑う。
「あっ! クロまで笑って! 酷い! 自分はスタイル抜群だからって~……いいなあ」
そう言ってアンジュはクロに抱きつき憂鬱な溜息をつく。
「アンジュ、重いよ……」
「あたしそんなに太ってないもん!」
「そういう意味じゃなくて……乗っかかれたら重いよ」
「お前な……今は仮にもこの城の使用人だろ。仮にも客人に対してそれはマズイだろ」
そう、彼女は現在この城に使用人として仕えているのである。コーデリックの配下の魔物に助けられてコルネリデア城で介抱して貰った恩返しとして志願して働いているのだ。
ジュレスの注意に素直に従いクロから手を離す。
「そうね。失礼しましたお客様」
現在14歳。ジュレスと幼馴染でジュレスの2歳年上の彼女はエスクエスの戦争で親を失い、ジュレスを訪ねてスラムまでやってきたのだ。
彼女は女神信仰者という訳ではなく魔族信仰者という訳でもなかったが故郷を取り戻そうと奮闘するジュレス達の姿を見ているうちに感化され自分も何か役に立ちたいという事で穏健派の一員となった。
彼女の父親はシュベリーで漁師をしており船を持っていた。幼い頃から父親について漁に出ていた彼女は船の動かし方も熟知しており教団内でのカラコミナとの文字通り橋渡し役として活躍していたのだ。
「ふう、それにしてもやっぱりクロって綺麗よねえ。あたしなんか全然叶わないや。自信なくしちゃうわ~」
「クロと比べるのが間違ってんだよ。クロと渡り合える奴なんてそれこそコーデリックくらいだろ」
「そうよねえ~」
「アンジュだって可愛いと思うんだけどな~」
クロの言葉にアンジュは嬉しそうにしながらも溜息をつき、
「あたしだって見てくれにはそれなりに自信あるんだけど……でもね」
そう言って自分の旨を撫でさすりまた息を吐く。
それを見たジュレスがニヤリと笑い、
「ああ、アンジュにもクロと張り合えるものがあったな。平らな胸だ」
バチーンという音がしてアンジュが叫んだ。
「そういうのセクハラっていうのよ! このクズ! そばかす!」
叩かれた頬をさすりながら
「そういうお前のはパワハラって言うんだぞ。訴えてやる」
とジュレスが言う。
「やってみなさいよ」とアンジュが言うとジュレスはクロにガバッと抱き着き
「クロえも~んアンジュが暴力振るって暴言吐いてきてしかも貧乳なんだ~助けてくれよ~」
「クロえもん?」
「む、胸は関係ないでしょうが!」
遂に耐えきれなくなったのかアンジュはジュレスと追いかけっこを始めた。あはは、と困ったように笑うクロを尻目にいつの間に起きたのか片目は優雅に紅茶を啜っていた。




