51.5話
見たら分かるだろうけど、ボクは淫魔族だ。インキュバスとかサキュバスって奴だね。人間の性を餌にする種族さ。Hな事をして代わりに精を貰う。そうやって生きる種族だね。
でもボク達淫魔族にとって人間はあくまで餌で、恋愛対象にはならないんだ。人間だっておいしい料理やデザートに舌鼓を打つ事はあっても、食べ物に恋したりはしないでしょ? それと同じさ。
ボク達淫魔族は人間を発情させ、快楽の海に溺れさせ、精を搾り取る事ができる。でもね、人間の持つ『愛情』は奪えないし壊せない。例え妻から夫を寝取ったとしても真実の愛があれば夫は妻の元へ帰っていくんだよ。
ボクはね、人間の持つ愛情というものがとっても羨ましかった。ボクも人間のように誰かを愛し愛されたかったんだ。
ある日ボクは決意した。相手から精を奪うのではなく、愛を奪おうと。その時にボクの両目は腐って落ち、代わりに新しい両目が生えてきた。それが魅了眼だったんだ。
そうしてボクは生まれ変わったんだ。魅了眼を持つ新たな存在としてね。それからはとにかく会う人間と仲良くなったよ。手当り次第にね。体を重ねる相手もいたけど、それは愛が欲しかったからで性欲を満たしたいからじゃない。
でもね、色々やって気付いたんだけどボクは純粋な意味の恋人達が持つような愛情が欲しかった訳じゃなかったんだ。
ただ、1人が嫌だったんだね。
同族達の人間を餌としか考えない物の見方にはついていけなかったし周りからは浮いてたんだ。寂しかったんだね。
その事に気付いてからは誰かと寝るような事は無くなったし人間だけに拘る事も無くなったよ。ボクは他者と仲良くなれればそれで良かったんだから。
あ、勿論して欲しいって言われればしたよ? 友達の頼みならね。
その時からボクに「性別」というものが無くなったよ。何て言えばいいのかな。どっちでもあるしどっちでもない。そういう存在になった。だから男にもなれるし女にもなれるんだ。今は女だね。
どちらでもない中性にもなれるよ。おっぱいもおちんちんもついてない存在だね。……クロ君、顔赤いけど大丈夫?
そうやって色んな人、色んな種族と仲良くなろう、仲良くなろうって色んな努力をしていたらいつの間にかボクの力はかつての同族とは比べ物にならない程になっていたんだ。
それで気が付いたら魅了のコーデリックなんて呼ばれるようになって魔王皇の席に名を連ねるようにまでなってしまった。
別にボクは国を収めようなんて思ってた訳じゃなくて仲良くなった友達皆で暮らせる所を探してそこに住み始めただけなんだよ。だから皆がここにいるのは上下関係とか関係ないんだ。皆命令とかじゃなくて自分の意志でボクに従ってくれてるのさ。
それでまあ、色々あって人間の収める国と親交を深めるようになって魔族信仰に出会ったんだ。彼等の教義はボクにとってまさしく理想そのものだった。人間の方からそんな風に魔族に歩み寄ってくれるなんて信じられなかったよ。
そうしてボクはジルバルトと出会ったんだ。あ、ジルバルトってのは大司教の本名ね。彼とボクはすぐに意気投合してね。友情の証として彼に刻印をあげたんだ。そうしたら教団の勢力が一気に強くなってねえ。それまでロクに力のなかった穏健派が過激派を押し退けて教団内のトップにのし上がったんだよ。
でも嫉妬とか邪魔も凄くてね。
彼の命を狙ったり、彼を懐柔しようとする連中が後を立たなかったんだ。だからしばらくボクの居城に彼を匿ってほとぼりが冷めるまで待つ事にしたんだ。
うん、今の状況と同じだね。だから、ジルバルトは自分の時と同じようにキミをボクの元へやって匿ってもらおうとしたんだね。実際いい案だと思うよ。ここにいる間はボクが守ってあげるよ。頼もしい友達もいっぱいいるしね。
まあ、長々と話しちゃったけど何が言いたいかっていうとね、これからよろしくね♪ って事さ。
ところで、さっきからボクの頭の中を覗いてるのは誰かな? 仮にも魔王と呼ばれるボクの心を覗くなんてどこの不届き者なのかな? まあ、大体想像はついてるけどね。……キミも色々大変そうだから今回は気付かなかった、って事にしておいてあげるよ。
……あ、逃げられちゃった。
ん? ううん、何でもないよ、気にしないで。こっちの話だから。




