51話
「ちょ、ちょっと待って。魔王並みの力だなんてそんな……」
いきなりそんな事を言われてもクロは戸惑うばかりだ。
「まあクロ君の場合その周りを覆ってる『呪い』と食い合ってる部分があるみたいだから自覚しにくいとは思うし現実にボク程の力は出せてないみたいだけどね。潜在的には間違いなくボクと張れるよ」
「呪い……?」
「キミの体を覆う魔力には禍々しいものが混じってる。それがキミやキミの周りの人達に色んな不幸を運んできた筈だよ」
災厄は、呪い……?
考えた事もなかった。呪いというなら、この刻印を与えた魔神が自分を呪っている?
黙り込んでしまったクロの代わりに片目が尋ねる。
「呪いだと? ならば、魔神がクロを呪っているというのか?」
「うん。あるいは、クロ君ではなくて魔神の方が呪われていたのかもね。……つまり、伝説の魔神ネクロフィルツに誰かが呪いをかけたのかも」
「魔神が、呪われていた?」
「だって、おかしいだろう? 契約を交わして加護を与えた相手を呪うなんて。魔神の持つ魔力そのものに呪いがかけられていたと考えた方が自然じゃない?」
言われてみれば、確かにそうだった。目から鱗が落ちる気分だった。
「ま、本当の所どうなのかなんてボクには分からないよ。ボクに分かるのはクロ君の魅了の力がボクに並び立つ程のものだって事さ。それって凄い事なんだよ?」
と言ってウインクする。
クロは、うーんと少し考えて言った。
「そんなに凄いなら、2人で手を組んだら世界を征服できちゃうかな?」
コーデリックは一瞬目を見張ったかと思うと次の瞬間には大笑いし始めた。
「アハハハハ!! そりゃあいい! 確かにキミとボクが手を組んだら世界中の全てを魅了できるだろうね♪」
瞼に涙を滲ませながらコーデリックは言う。
「参ったな、ボクの方がこんなにも惹き付けられちゃうなんて……クロ君、キミはとってもステキだよ。ボクが今まで出会った中で、誰よりも、ね♪」
クロもお返しとばかりに言った。
「ぼくも、会うまではどんな人なんだろうって怖がっていたけど、会ってみたらこんなに優しくて素敵な人で良かった」
そうしてニコッと笑ってコーデリックを見つめた。
「ふふ、光栄だね。救世の天子にそう言ってもらえるなんて」
「ぼくも光栄だよ。魔王皇にそんな風に言ってもらえるなんてさ」
2人は声を合わせて笑った。
その光景をじっと見ていたジュレスが呟いた。
「なんか……似た者同士だな」
「そうですね。同じ魅了の力を持つ者同士通じ合うものがあるのでしょうね」
コリーネもジュレスの言葉に同意した。
(魅了の力か……言われてみりゃ納得だな。あの演説で皆心を鷲掴みにされちまったし、教団内での人気も物凄い。救世の天子だからだと思ってたけど、あれはクロ自身の力だったんだな。そういう力を持つからこその救世の天子なのかもしんねえけど)
今にして思えばクロが今まで散々誘拐されたり性的な悪戯をされそうになってきたのもクロの容姿や災厄のせいだけではなく魅了の力が原因だったのではと片目は考えていた。今までは厄介なものだとしか考えてこなかったが、これはクロにとって大きなプラスになる可能性を秘めている。
クロの敵を減らし味方を増やすには最適の能力だ。おまけに目の前にはその道のスペシャリストがいる。教えを乞えば、クロは自分の力をコントロールできるのでは……?
片目にはとてもいい考えに思えた。
クロとコーデリックはしばらく談笑していたがコーデリックはふと寂しげな顔をして言った。
「クロ君はボクと一緒だね。誰よりも寂しがり屋で、だからこそ誰よりも他者を愛する」
コーデリックの言葉にクロの胸は揺さぶられた。クロは忌み子故に、誰よりも嫌われ何よりも愛情に飢えていた。だからこそ、人を愛した。例え自分を迫害する者であってもだ。
「少し、ボクの話をしていいかなーー
そう言ってどこか遠い目をしながらコーデリックは語り始めた。




