48話
コリーネの案内の元、クロ達は魔王皇コーデリックの居城であるコルネリデア城へと足を踏み込んでいた。通路を歩いていくと、1人の少女が歩みよってきた。
「ジュレス! 無事に島にたどり着けたのね!」
「アンジュ!」
ジュレスがホッとしたように笑って、アンジュと呼ばれた少女を腕でヘッドロックして締めあげた。
「アイタタタッ」
「この野郎! 心配させやがって! 何やってたんだよコラ」
そう言われて決まりが悪そうにボソッと呟く。
「それがその……いつも通り船にお客を乗せて航行してたらそいつらが海賊で船を乗っ取られた挙句に海に放り出されちゃって……」
「そこにコーデリック様の配下の魔物がたまたま通りすがって彼女を救出しこの島まで送り届けたという訳です」
アンジュの説明を補足するようにコリーネが言った。
「そっかあ、アンジュさん無事だったんだね。良かった」
クロが声をかけた。アンジュはクロの方を見ると顔を真っ赤にして
「え、え……もしかしてこの子、いやこの方が救世の天子様? うそ……すっごい綺麗……髪サラサラ……肌も透き通ってるし」
アンジュは驚いたように可愛い綺麗を連呼していたが、クロの目から見れば彼女も十分可愛いと呼べる容姿の持ち主であった。
年の頃はクロより4つ上くらいであろうか。桃色の髪を後ろに束ね二つに分けている、いわゆるツインテールの少女の体は海に出る影響で小麦色に焼けている。青色の瞳は年相応の思慮深さと好奇心を映しており冷静さと活発さを併せ持っていた。
顔の形は適度に整っており、健康的に日焼けした体は受ける人間には好まれるだろう。ただひとつ、平らな胸が玉に傷であるが。
「コーデリック様の所に行くのね? あのお方も天子様に負けじ劣らじの美しさだから会ったらきっと驚くわよ」
「へえ、そいつは楽しみだな」
また後でね、と手を振るアンジュと別れ先に進む。
「ねえ、コリーネ」
「はい、何でございましょうネクロフィルツ様」
緊張は完全に取れたらしくきちんとした受け答えを返してくる。
「さっき、トモダチの魔物って言ってたけど……配下の魔物って事?」
「いえ、あのお方に配下はひとりもいません。全ての者があの方にとっては対等であり友達なのです。……この私めも勿論含めて」
どこか誇らしげに主の事を語るコリーネ。
「この城には数十人の使用人や数多くの魔物がございますが、その全てが自主的にコーデリック様に付き従っているのです。あのお方の魅力に惹かれて」
「自主的に? へえ、すごいねえ」
「自主的にといってもコーデリック皇は魅了眼の持ち主らしいからな。半分強制のようなものだ」
「魅了眼?」
「魅了眼とは読んで字のごとく目が合った相手を魅了して自分の虜にしてしまう魔眼の1種でございます。コーデリック様は一切戦闘行為を行わずその魅了眼のお力で五大魔王皇の1人にまで登り詰めた稀有なお方です」
魔族の共通的価値観として『強さが全て』というものがある。従って魔族の世界で成り上がろうとするなら当然己の強さを示さなければならない。必然的に戦闘行為で自分の力を誇示するのが魔族のあり方である。しかしながらコーデリックは一切戦闘行為を行わず自身の魅力のみで数多くの魔族を従えていった魔王皇の中でも異色の経歴の持ち主なのだ。
「実際の所、戦闘能力はどうなんだ? 強いのか?」
魔王皇の実力が気になるのか片目がそんな事を聞いてきた。コリーネは少し困った顔をして
「あのお方の戦闘能力がどれほどのものなのかを知る者はおりません。1度も戦った姿を見た事がないので……ただ」
「ただ?」
「あのお方に『敵はいない』これだけは断言できます」
コリーネの言葉に片目はふむ、と頷き
「向き合った者は全て仲間に……という事か。確かに『敵はいない』な。……それもある意味では立派な強さなのだろうな」
とどこか感心したように言った。主人を褒められて嬉しかったのかニコニコと笑顔を浮かべながら
「コーデリック様の最終目標は『世界征服』なのです。あの方曰く、〔世界中の皆と仲良くなれたらそれはもう世界を征服しているのと同じ事だよね〕だそうです」
「それって素敵な世界征服だね!」
クロが笑顔で言うとコリーネも笑顔で言う。
「そうですね……だからこそ私達は、あのお方をお慕い申し上げているのです。魅了の力とは、関係なしに」
それは彼の心からの言葉にクロには思えた。そして同時にそんな素敵な王様なら会うのがとても楽しみだと心から思った。当初の恐怖などどこかに消えていってしまったのだった。




