47話
海賊達を海に放り込んだ後、航海は順調に進んだ。ジュレスが多少は船の動かし方を知っていたらしく何とか島まで船を運ぶ事ができた。
海岸に接岸し船を停泊させる。船から降りたクロ達を迎えたのは南国の豊かな自然と風土だった。白い砂浜にはヤドカリが屯し、打ち寄せる波間にはヒトデや貝が揺られている。道端にはヤシの木や観葉植物が生い茂っている。
「ふわ~ ここがカラコミナ島……」
南の島が珍しいのかクロはあちこちをキョロキョロ見回している。
「それで、島に着いたのはいいがこれからどうするんだ?」
「城に向かう。魔王皇の居城が奥にある筈だ」
そう言ってジュレスは歩き出した。2人も後を追って歩き出す。
歩きながらクロはこの島の主の事を考えていた。
魔王皇コーデリック。魔族の国を起こした魔族の王であり、半王政派穏健派大司教に加護を与えコーデリック=フォンデルフの名を与えた者。
(一体どんな人なんだろう……)
優しい人だったらいいけど、怖い人だったらどうしよう。
もし不興を買うような事になったらどうなっちゃうんだろう……
ブルブルと顔を振り、
(いや、大丈夫! 救世の天子は魔族にとっても重要な存在のはずだし今まで会った魔族の人達も皆丁寧に接してくれていたし、ひどい事はしないはず!)
そんな事を考えていると何やら空に鳥の影が見えてきた。
バサッ バサッと音を立てて近付いてくるそれはどうやら鳥ではなさそうだった。
影の主はクロ達の近くまで寄ってくるとふわっと地面に着地した。降りてきたのは翼を生やした魔族の少年であった。身長はさほど大きくはなく150センチくらいであろうか。
黒髪に浅黒い肌、黑い髪を生やし黒い執事服を身にまとった黒づくめの格好だった。
ふう、とため息をつくとクロのかおを見るなり顔を真っ赤にして硬直した。そしてそのまま動かない。クロが顔の前で手を振ってみたが反応がない。
「あのー……」
「ひ、ひゃい!!」
バネ仕掛けの人形のように飛び上がる。
「あ、あにゃた様がニェクロヒルツ=ふぉんデルフ様でございますでありますね!?」
緊張しまくってるようで噛みまくりで発音もおかしい。
ああ、そうかーー怖いのは向こうも同じなんだ。
クロはそう思ったら何だか心が軽くなってきて、緊張がとけてきた。目の前でガチガチに固まっている少年を見ていたら体が勝手に動いていた。
ギュッと手を優しく握り、囁きかけた。
「大丈夫だから、落ち着いて。ぼくはネクロフィルツ=フォンデルフ。君の名前は?」
クロの突然の行動に驚いていたようだが、少し落ち着いたらしくゆっくりと口を開いた。
「わ、私は……その、コーデリック様にお使えする使用人の1人、コリーネと申します」
「そっか。ぼく達を迎えに来てくれたんだね?」
「は、はい。そうです」
コクコクと首を縦に振る。
「それじゃあ、案内してもらっていいかな?」
「ひゃ、ひゃいっ」
まだ呂律が回ってなくて怪しかったが、取り敢えずは落ち着いたようだ。
こうしてコリーネを先頭にしてクロ達は進み始めた。テクテクと歩きながらコリーネは何かを言いたげに何度もチラチラとクロの方を見る。なかなか声をかける勇気が出せなかったようだがやがて意を決して口を開いた。
「あ、あにょっ!」
どうしたの? とクロが優しく声をかけると言いにくそうに、
「あの……て……手が……」
そう、さっきからずっとクロはコリーネの手を握って放さなかった。クロは悲しそうに表情を歪めて言った。
「ぼくと手を繋ぐのは、いや?」
「そんな事ありませえん! 嬉しいですう!」
顔から湯気が出そうな程に真っ赤になりながら叫ぶ。そんな姿を見ながらジュレスはため息をついた。
「ありゃあ、天然ジゴロだな……」
見たところ相当内気そうな感じだし、クロにあんな風に迫られたらひとたまりもないだろう。若干少年に同情した。
ギリギリギリギリ……
何だ? と思い音の方を見ると片目が物凄く悔しそうに歯軋りしていた。
「悔しい……クロに手を握ってもらえるなんて……悔しい」
「2回言うな」
「大事な事だから2回言ったんだ!」
怒鳴り込む片目にジュレスは呆れる。
「お前なあ……いい加減子離れしたらどうだ? そんなんじゃいつまで経っても嫁にやれないだろ」
クロは男なので元々嫁に行く予定などないという突っ込みを入れる者はいなかった。
「嫁になどやらん! クロは私と結婚するんだ!」
「うわあ……」
本気で言ってるくさい片目にジュレスは本気で引いている。
「ヒカル=ゲンジ計画かよ」
「何だ? そのヒカル何とかって」
「お前みたいに頭のとち狂った変態が可愛い子供に目をつけて理想通りに育てて成長したらおいしく頂いちゃうっていう最低の計画の事だよ。そういう話があるんだ」
「そのヒカル=デンブとやらは私と気が合いそうだな」
「ダメだこいつ……早く何とかしないと」
漫才を繰り広げている2人から距離を取るようペースを早めながらクロ達はどんどん先に進んでいった。
「あ、あにょ……後ろの2人が……」
「気にしなくていいよ。放っておこう」
気がついた時にはジュレスと片目は完全に置いてかれて道に迷う事になったのだった。
光る=臀部計画




