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忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
魅了の魔王皇編
52/229

46話

 圧倒的な殺気が部屋を包むと男達は慌て出した。

「お、おい……まさか本気で殺す気か?」

「オレ達を殺したらこの船の持ち主の情報は手に入らねえぞ!」

 焦って言った言葉が片目を止めるキッカケになった。


「………………」


 言葉が届いた事に気を良くしたのか調子に乗って更に喋り出す。

「へへ……そうだ。殺せねえよなあ? そのガキの知り合いなんだろ? どこに行ったかどうなったか知りたいもんなあ?」

 ギリ……と歯軋りする音が響く。

「このクソ野郎共が……!」

 怒りに我を忘れそうになるジュレスだったが、ふいに冷たい空気が流れている事に気が付いた。さっきまで調子に乗っていた海賊達の顔が心なしか青ざめている。

 ジュレスは後ろを振り返った。


 底冷えのする冷たい空気を纏っていたのはクロだった。その瞳には光が宿っておらず一寸の光も射さない虚無の瞳には何の感情も読み取れない。


((なんだ、これは……))


 片目とジュレスは同時に同じ事を思った。これは何だ? いや……目の前にいるこの生き物は何だ? そう思わされる程の変貌ぶりだった。



「おじサンタチ……殺サレなけれバ、いいと思っテル?」

 声の質までいつもと違う。ぎちち、とガラスに爪を立てた時のような生理的嫌悪を催すような音だった。

「知っテル? 世のナカには、死んだ方ガましだと思うようなコトも、アルンダヨ?」

「ひぃ!」

「ま、ま、まて、オレ達に何かあったら……」

 先程と同じ言葉を繰り返すが効果があるとは到底思えない。

「ドウセ、何も教えるツモリ、ないんデショ? だったラ、おじさん達がどうなろウト関係ナいよね?」

 1歩、足を踏み出す。


 びくっ、と腰を抜かして後ずさろうとするがあまり上手くいってないようだ。

「ボクが、手取り足トリ、教えてアゲルヨ?」

 ニコニコと笑いながら近寄っていくが、目が合ったらそれだけで魂を抜き取られてしまいそうな程の寒気と狂気が溢れている。顔が整っている分余計に恐ろしい。

 クロの全身からは障気が吹き出し、視界が暗闇に閉ざされてしまう程の密度で部屋中に充満していた。


 片目は戦慄していた。クロが本気で怒っている。それは片目にとって驚天動地の事実だった。クロが生まれて出会ってからずっと一緒にいるが、クロが怒った事など1度も見た事がなかった。 クロは自身の不幸には慣れ過ぎて無頓着だし、自分と関わった者が不幸になるのは自分のせいなので自己嫌悪。今回のように自分の関わりのない所で他者によって自分の周りの人間が不幸に陥るのは初めてだったのである。


 どんなにスペックが高くてもクロはまだ10歳。初めての経験で自分を見失ってしまっても仕方の無い事だった。



「ま、待て! 確かに俺達はお前らを騙して売り飛ばそうとしていた! だが、殺す気はなかった!」

「殺すつもりなら眠り薬じゃなくて毒を盛ってる!」

「……ソレデ?」

「た、頼む! 許してくれ! もう二度と海賊なんかしねえから!」

 もはや海賊は涙目で懇願している。だがそれをおかしく思う者などこの場には1人もいなかった。

「陸についたら衛兵に突き出すなりなんなり好きにすればいい!なんならこの船だってお前らにやる! だ、だから許してくれ!」

「てめえ等の船じゃねえだろうが!! この船はアンジュのもんだ!」

 ジュレスの怒声に海賊達は黙り込んだ。



「おじさん達……さっきから1番大事ナ事を話してないヨネ?」


 ひっ という声が海賊達からもれる。体を覆う不気味な魔力の事もあり、クロにじっと見つめられると大蛇が足元から頭まで這い上がってくるような異様な感覚が込み上げてくる。


「この船の持ち主……アンジュさんを ド ウ シ タ ノ ?」


「ヒエエエッ!!」

 あまりの恐怖に声をあげる海賊達。

「こ、殺しちゃいねえ! 海に放り込んだだけだ!」

 船長の言葉にクロは不思議そうにゆっくりと首をかしげ、



「海ニ放リ込ンダ『ダケ』?」



「ヒイヤアアアアッ」

 ついに体を縮こまらせてブルブルと震え始めた。

「だ、大丈夫だって! すぐ近くにカラコミナ島がある! 船乗りならあんな距離渡りきれねえ訳がねえよ! 生きてる! 間違いなく生きてるよ!」

 その言葉にクロは無言でジュレスに確認する。ジュレスが頷くと、

「ソウ……良かったぁ」

 心の底からホッとしたような笑みを浮かべたクロはいつもの調子に戻っていた。



「さて、じゃあお前らも頑張って泳ぐんだな」

 ジュレスの言葉と共に片目の手によって海賊達は海に放りこまれていく。ちなみにジュレスが鳥を使った伝達でシュベリーや周辺地域に情報を送ったためどこに逃げても陸に上がった時点で御用である。


「カラコミナに着いたらアンジュさんにも会えるね! 楽しみだなあ」

 というクロに2人は

「「はい、そうですね。クロさん」」

 などと「さん」付けで返事をしていた。


 クロを怒らせる事だけは絶対にしないようにしようと心に誓った2人だった。

クロがゴンさんならぬ「クロさん」化してしもうた……

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