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忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
魅了の魔王皇編
51/229

45話

 結局、出航の時間になってもアンジュは見つけられなかった。ジュレスは諦めて船に乗り込む事にした。クロが心配そうにジュレスを見つめている。しかし声をかけてくる事はなかった。ジュレスにとってはそれは有難かった。いま話しかけられてもまともに応対できる自信がない。

 約束の時間になると3人の船乗り達が姿を現した。ジュレスが話をつけた連中だ。クロ達は早速船に乗り込んだ。

「やっぱり……似すぎてる」

「え?」

 船を見渡しジュレスがボソッと呟き、クロが聞き返すが

「いや、なんでもねえ」

 と言ったきり黙り込んだ。クロはジュレスが心配でたまらなかった。



 船の中は思っていたよりずっと快適だった。船の外観が古くて大きくもなかったので不安に思っていたが手入れが行き届いているらしく中は小奇麗でサッパリとした印象だった。

 中の家具やベッドは等はそれなりのものを使っているらしく肌触りもいいし広さもそこそこある。ジュレスが払った額でこれなら破格の待遇である。だがジュレスは眉間に皺を寄せて船長に尋ねた。


「料金の割には随分といい船じゃねえか。俺だったら倍は金を取ってるが」

 ジュレスの疑問に白髪で髭面の温厚そうな船長が答えた。

「昔取った杵柄ちゅう奴でな。色んな海で危険な魔物狩りや海賊からの護衛なんぞやっとったら金持ちの商人がただ同然でポンとくれたんよ。だから元手は殆どかかっとらんし金儲けいうよりは老人の趣味の延長線みたいなもんじゃ」

「なるほどねえ……」

 それでも表情を変えないジュレスに

「どうかしたの?」と尋ねるクロだったが

「いんや、なんでもねえよ」

 と答えてジュレスは奥の方へ歩いていってしまった。



 それから日が落ち夜となり、クロ達は船のコックが腕を振るった夕食を心行くまで堪能した。

「ふわああ。凄い料理だったねえ」

「久しぶりに美味い物が食えた」

 クロも片目も満足そうにお腹をさすっている。

「2人共食後に甘いジュースはどうだい」

 コト、とジュレスは2人の前にグラスを置いた。

「ジュース? ホントだ、甘い香りがする」

「気が利くじゃないか。ちょうど喉が乾いていたところだ」

2人は喜んでごくごくと差し出されたジュースを飲み干した。

「ふわあああ。何だか……食べたら眠くなってきちゃった」

「そうだな。私も少し……」

「旅の疲れが出たんだろ。船長、ちと早いが俺らは寝させてもらうぜ」

 船長に一声かけるとジュレス達は自分達にあてがわれた部屋に戻っていった。彼等を見送る船長達の視線は何故かひどく歪んで見えた。



 深夜。


 音も立てずに静かに部屋に侵入する影達があった。影達は部屋に入ると、部屋の住人がしっかりと寝静まっている事を確認した。影達はお互いに目配せしあいゆっくりと近付いていく。その影がクロの体に触れようとしたその時ーー


「!?」


 ランプに明かりが灯され部屋が照らし出された。そこにいたのは船長にコックに水夫。要するにこの船の持ち主達であった。

「こんな夜更けに人攫いか。精が出るな」

「な、なんの事やら……」

 鋭い眼光と共に冷たく声をかける片目に狼狽しながらも誤魔化そうとする船長。

「とぼけんなよ。誤魔化せるとでも思ったか? あんた等安値に釣られて船に乗り込んだ乗客を攫って売りとばしてる海賊だろ?」

 ギクッという音が今にも聞こえそうな程驚愕した顔でジュレスを見る海賊達。


「ど、どうしてそれを……」

「元々俺は港で船に乗せてくれる奴にはアテがあったんだ。ときろがそいつの船だと思って乗りこんでみれば乗ってるのは見た事もない奴等ときたもんだ」

 つまり殆ど最初から疑っていた事になる。

「昼間の話であんたは商人に船を貰ったと言ったがアイツは商人なんかじゃねえ。あんたが出鱈目吹いてるのが分かった時点でアイツから船を奪って悪さしてる海賊共だってのは当たりがついた」

 そう言って懐から小瓶を取り出した。

「分かりやすく食事に眠り薬なんか仕掛けてるくらいだしな」

「その瓶……解毒剤か! あの時のジュースに……!」

 目を見張ってコックが叫んだ。

「ま、そういう事だ。あんたらが食事に仕込んだ薬は全く機能してなかったって事さ」

「さて、そういう事だ」

 片目が一旦言葉を切る。




「どいつから死にたい?」


 圧倒的な殺気が部屋を包んだ。

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