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忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
魅了の魔王皇編
50/229

44話

 そうして夜が明ける頃には次の目的地である港町シュベリーに着いていた。徒歩で歩けば1週間かかる道のりを片目は2人の子供を乗せた状態でわずか1日で踏破したのだ。

 丸一日走り続けたが足に疲れは見えず息も切れていなかった。とんでもない脚力と持久力であった。



 2人が片目から降りて歩き出すと片目も人型へと変化し街の中へと入っていった。

「なんか、変な香りがする……」

 くん、とクロが形の整った鼻を嗅ぐ。

「そりゃいわゆる磯の香りだ。ここはもう海のすぐ近くだからな。海鳥の鳴く声も聞こえるだろ」

 確かにうみねこやカモメの鳴く声が聞こえてくる。海まで来たんだな、と感慨深げにクロはあちこちを見回している。


「何だ? クロは海に来るのは初めてか」

「うん、今までは内陸を旅してたから。海は初めてだよ」

「物珍しいのは分かるけど目的を忘れるなよ。観光に来た訳じゃねえんだからな」

 ジュレスが釘を刺すと片目も

「あんまりキョロキョロしてるとはぐれて人攫いに捕まってしまうぞ」

 そんな事ないよ! と言い返したい所だったが事実クロは今まで何度も捕まって売られそうになった事があるので黙って2人から離れないように後をついていった。



 エスクエスが陸の交通拠点だとするとシュベリーは海の交通機関だった。様々な帆船が並び積荷が陸に下ろされる。多くの露店が立ち並び様々な人々が行き交う姿はエスクエスに決して引けを取らない。ジュレス達が足を運んだのは小型の帆船が停泊している港だった。


「ここで船を調達するのか」

 片目の言葉に

「船を調達っつうか乗せてくれる奴をな」

 とジュレスは返す。

 普通に考えて海を渡るのにわざわざ船ごと買い取ろうとする者はそういない。乗せていってもらった方が確実だし安全だ。海を渡るのなら海を生業にしている者を頼るのは自然の道理だろう。


「見つかったぞー」

「早いな」

 片目が感心したように言うがジュレスは何でもなさそうに

「ま、うちら穏健派は交渉術あってのものだからな。これくらい朝飯前よ」

 と言った。

 それに大司教から十分な量の資金はもらっているのだ。金さえ払えば大抵の船乗りは引き受けてくれるだろう。それを生業にしている者も多い。


 シュベリーからカラコミナへはそう遠い距離ではない。危険な海域という訳でもないし2~3日風に揺られていれば着く。実を言うと魔物は生息しているのだがここの海域の魔物は大人しく人間に危害を加えるような事はしない。それでも女神信仰者なら魔物を嫌がって船に乗りたがらないが魔族信仰者であるクロ達には関係ない。


「それにしても、どこ行っちまったんだかあいつ……」

「あいつ?」

 クロが疑問に思って尋ねるとジュレスは説明し始めた。

「本当は既に船は確保されてる筈だったんだ。教団に船を所持してる奴がいてな。そいつの船に乗せてもらう予定だったんだよ。ところが待ち合わせ場所に行っても居やしねえ。どこで油売ってんだか」

 ハアーと溜息をつく。

「それは……探した方がいいんじゃないの? なにかトラブルに巻き込まれているかもしれないし」

「駄目だ」

 クロの提案をジュレスは一蹴した。

「あいつが居なくなったのはあいつの責任!自分の任務を果たせず組織に迷惑をかける奴の為に危ない橋は渡れねえ。ましてやクロ。お前は教団にとって何より替え難い存在なんだ。お前を無事にカラコミナへと送り届けるのが第一だ」

 いつになく強い口調で言われ黙り込むクロ。


 そんなクロの姿を尻目に、ジュレスはいずこへかと歩き出していった。

「ジュレス、どこに……?」

「ちょっとションベン。出発まではまだ時間があるからゆっくりしてな」

 ぶっきらぼうに言って去っていくジュレスにクロは戸惑いを隠せない。

「ジュレス……」

「年の割には出来る奴だがやはりまだ子供だな」

「え?」

 唐突な片目の言葉にクロは聞き返す。

「本当は心配でたまらないんだろうさ。強がっているが感情を抑えきれていない。まあ、言っても奴はまだ12歳。十分すぎる程に優秀だがな」



 クロ達の視界から外れた途端にジュレスは走りだした。息を切らせながらあちこちを見て回る。

「クソッ……どこ行っちまったんだ! アンジュの馬鹿野郎……」

 弱々しく不安げな声が路地に響くのだった。

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