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忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
魅了の魔王皇編
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43話

 ヤバイ……鼻血でそう……


 それがジュレスの偽りない本心だった。今現在ジュレスはクロの後ろで共に魔物の姿に戻った片目の背に乗って移動している最中だった。片目の元の姿は6メートル近くもあり子供2人を乗せて走ることなど造作もなかった。

 何故このような状況に置かれているかというと……


 時間は少し前に遡るーー




「避難?」

「ええ、そうです。救世の天子殿にはこの街を離れてもらい、しばらくの間安全な場所に避難して頂きたい」

 大司教はそう答えた。

「今現在救世の天子殿の出現により反王政派穏健派の勢いは留まる事を知りません。敵対勢力からすれば救世の天子を拉致、もしくは殺害しようと思うのが道理です。クロ殿に起こる災厄はどうやら本物のようですし」

 大司教の話によれば過去に大司教が魔王皇と契約を交わした時も似たような状況になったという。


「魔王皇と契約を交わした事によりそれまで弱小勢力でしかなかった穏健派が一気に勢力を増しました。それと同時に数多くの襲撃者や暗殺者が現れ私を亡き者にしようとしたのです。ほとぼりが冷めるまで私は魔王皇の庇護の元に避難したのです」

「それは、どれくらいの期間……?」

 クロの疑問に大司教は困ったように笑い

「私の時はおおよそ2年程かかりました」

 と答えた。

「2年……」

 せっかく反王政派の皆に会えたのに……

 自分の居場所ができたのに……

 2年も離れるかも知れないなんて。

 クロの瞳が暗く沈む。


 ポン、とクロの肩を叩きジュレスが微笑んでいった。

「心配すんな。俺も一緒に行くからよ」

「ジュレス……! 本当に?」

 クロの表情がパアっと明るくなる。

「道案内も兼ねてな。言っただろ? 何があっても離れないって」

「それで、避難するのはいいが何処に行くんだ? その魔王皇の所か?」

 片目の疑問に大司教はコク、と頷き

「はい。南海の孤島、カラコミナへ。魔王皇が1人、魅了のコーデリックの住まう島です」


 こうしてクロ達はエスクエスを離れカラコミナへと向かう事になった。



 追手が来る可能性を考慮し片目の背に乗せてもらって移動する事になった。片目の足はとんでもなく速い。後を付けようとしてもまず追いつけないからだ。そうして片目の元の姿を見た時あまりの迫力にジュレスは腰を抜かしそうになった。


 ジュレスとクロの体は密着しておりクロの体温がじかに伝わってくる。クロの体からはとてもいい匂いがする。ジュレスは幸せいっぱいだった。

 ただ、困惑してもいた。クロの体は異常に硬い。表面は柔らかい皮膚に覆われているのだが、その下の筋肉は鋼の糸を束ねたような硬さを感じるし、骨は鋼鉄以上の硬さだった。


「クロの体について考えているようだな」

「ば、何を……俺はそんなエロい事……!」

 途端にクロの裸体を想像してしまい顔が真っ赤になった。片目はそんなジュレスの様子に呆れながら首を振った。

「そっちじゃない。クロの体の硬さに驚いているんだろう?」

「あ、そっちの意味か……ま、まあ」

 ジュレスが頷くと片目は説明し始めた。

「幼い頃私の乳を与えて育てた結果だろうな。加護の影響を受けた可能性も否定はできないが」


 銀狼族の体は鋼鉄よりも硬い。体内にミスリル銀を取り込んでいるからである。そんな銀狼族の乳を飲み続けた事によってクロの体は銀狼族に近い体になってしまったのだろう。

 クロの髪が銀髪なのもそういう理由からだ。もっとも本家程の高い防御力を持った訳ではないようではあるが。人間としては異常な程の硬さだった。剣で切りつけた所で表面に傷が入るだけで微量の血が流れる程度で済むだろう。強大な魔力の加護の事もあり、魔法にも物理にも強い。

 防御に関してはクロは魔貴族以上、魔皇族に匹敵する力を持っていた。


「成程なあ。……あれ? でもお前ら血の繋がった本物の親子ではないんだろ? 片目って子供産んだ事あるのか?」

「ないな」

「おい……だったら何で乳が出るんだよ。乳が出るのは子供産んでからだろ?」

「さてな。その点に関しては未だに謎だ。戯れに胸を吸わせてみたら乳が出たのであの時はさすがの私も驚いた。きっとクロの可愛さが私の溢れんばかりの母性本能を刺激して奇跡を起こさせたのだろうと私は思っている」

「溢れんばかりの母性? 溢れんばかりの野性の間違いだろ」

 ジュレスがそう言った瞬間片目は器用に体を揺らしジュレスだけを振り落とした。


「おい、コラーー!! 何て事しやがる! 男女! 野獣星人!! 2足歩行原人!!」

 どうでもいい事だが原人は元々二足歩行だ。振り落とされたジュレスが罵声を浴びせかけるが無視して片目は走り去っていった。しばらくして案内役のジュレスがいなければ道が分からない事に気付き憮然としながらも片目は戻ってきた。


 ちなみにこういう事態になった時真っ先に止める筈のクロは、片目の背の上でぐっすり寝こけていた。


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