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忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
魔族信仰編
40/229

35話

 街に忌み子の救世主が現れた。

 もっぱらそれが最近の街に流れる噂だった。


 南方の領土、エスクエス。二年前の戦によりアルクエド領土となった街。首都アルクエドに比べれば見劣りするのは仕方無いが、それでも中心街は栄え様々な文化、財産の交流地点となっていた。

 しかし豊かな部分があればそうでない部分も存在する。西区のスラムには貧困と病気と犯罪が溢れていた。


 そしてそこで密かに囁かれる奇怪な噂。忌み子の救世主が現れた。近いうちに忌み子の手によってエスクエスは滅びると。



「全く嘆かわしい事じゃない? くだらん噂に振り回されて法王庁が動くなんてさあ」

 そうぼやくのは白い全身鎧に身を包んだ30代半ば程の黒髪で浅黒い肌の中年男だった。何故顔が分かるのかといえば兜だけ着けずに顔を露出しているからである。

「噂を噂だときちんと確認するのが今回の我等の仕事です、隊長」

 たしなめるようにもう1人が言う。こちらは20代後半くらいでスラッとした長身の金髪男だ。青い瞳が遠目からでもよく目立つ。

「硬いねえ、相変わらず。人生もっと楽しまなきゃ損よ?」

「隊長が言うと悪魔の囁きにしか聞こえませんな」

 軽口に仏頂面でそう返す。自然なやり取りに彼等がぞれなりの長い付き合いである事が伺える。


「それにしても随分急な話じゃない。噂が流れ出してから1週間もしないうちに噂の出所と信憑性を調査してこいだなんて」

「……噂に関する何らかの情報が入ったのではありませんか?」

「宮廷占星術師かい? しかしあれは忌み子関係にはてんで弱いって話じゃない」

 宮廷占星術師は文字通り宮廷に仕える占星術師である。国家の運営に関わる重要案件などを占い国を正しい方向に導くのが仕事である。

 しかし、星を使って吉兆を占う占星術では忌み子は捉えられない。原因ははっきりしていないが、星の光の届かぬ闇の領域に忌み子は存在しているからだとか。


「直接関係はなくとも、大きな影響を受けた何かを掴んだのでは?」

「間接的にって事? それにしては初動の速さに迷いが無さすぎなんだよねえ」

「既に核心を得る程の何かを掴んでいると?」

「そうとしか思えないんだよね。あるいは先導してる誰かがいるのかも」

「……法王庁内に裏切り者がいると?」

 長身男の目が細められた。

「そんな怖い顔しないでよ。まだそうと決まった訳じゃないって。外部からの情報に良いように踊らされて操作されてる可能性だってあるんだからさ」

「成程……」

 そう言って長身男の表情は平静に戻った。

(やれやれ……真面目なのはいいんだけど冗談が通じないのが玉に傷だねえ)

 中年男は1人ふうと溜め息をついた。



 彼等の所属する十字聖騎士団は軽々しく動かしていい組織ではない。

 王の元に国を守護する二つの組織

 法王庁

 魔法庁

 簡単にこれらの役割を説明すると武力担当と魔力担当である。

 卓越した剣と兵術で王都を守護する十字聖騎士団は法王庁の象徴的存在である。

 法王庁直轄部隊である彼等を「噂」程度で動かすのは極めて異例な事態である。彼等が危惧する通り王都で何らかの企みが行われている可能性は決して否定できるものではない。


「ま、たかが一部隊の隊長でしかないボクちんが考えた所でどうにもなるもんじゃないかも知れないけど」

「ただ上の言う通りに動くだけでは足元を救われる、と?」

「そゆことだね~」

 ひらひらと手を振りながら気ままに進んでいく上司を見ながら

(何もなければいいのだが……)

 彼は1人不安に襲われるのだった

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