33話
「そうそう、お前等が気にしていた過激派だが」
ジュレスは思い出したかのように言った。
「簡単に言やあ【故郷を取り戻す為にならどんな汚い事でも平気でやる】そういう連中だ。そういう連中は過激派って呼ばれてて俺達穏健派とは隔絶された組織だ」
ジュレス達と過激派は全く関係ないという事実を改めて確認できてクロは内心ホッとしていた。
「反王政派も一枚岩ではないと言う事か」
片目の言葉にジュレスはそういう事だな。と頷く。
「ハッキリ言って敵視しあってる。ある意味女神信仰者達より質が悪いからな。奴等の最終目標は故郷の奪還じゃねえ。女神信仰者を一人残らず抹殺する事だ。イカれてるぜ」
理解出来ない、と言った感じでジュレスは言った。
全女神信仰者の抹殺……恐ろしい事だ、とクロは思った。確かに女神信仰者達によって魔族信仰者、忌み子は迫害され酷い目にあってきた。だからと言って皆殺しなんて、それはとても悲しい考えだ。
「まあ、これで大体説明は済んだかな。それで本題だ」
ジュレスは改めてクロに向き合うと頭を下げた。
「クロ、俺達反王政派の仲間にならないか? いや、なって欲しい。お前は、伝説に伝えられる救世の天子に間違いない。お前が仲間に入ってくれれば、魔族信仰者だというだけで迫害されるこの腐った世の中をきっと変えられる!」
しばらくの間、クロは黙っていた。やがておずおずと口を開いた。
「ぼくに本当に救えるのかな?」
勿論だ、そう言おうとしたがクロの表情のあまりの真剣さに口を挟む事が出来なかった。
「ねえ、ジュレス。ぼくは今まで沢山の人と関わってきたよ。多くの人がぼくに関わったが為に死んでいった。その度に、今度こそは、今度こそはって思い直して頑張ってきた。でも、結局誰も救う事なんてできやしなかった。そんなぼくに、世の中を変えるなんて出来るのかな?」
「………………」
ジュレスはしばし黙って考えていたが、何かを決意したように言った。
「だったら、俺が証明してやるよ」
「え?」
「俺は死なねえ。お前が仲間になってくれるなら何が起こっても絶対に、お前の側にいる。災厄なんてな、カビの生えた迷信なんだよ。お前のは本物なのかも知れないけどな。」
「ジュレス……」
「だけどな、クロ、覚えとけ。乗り越えられない壁なんかないんだ。災厄は乗り越えられるんだよ。人も、魔族もな」
クロ……確かに忌み子に訪れる災厄は強大なものかもしれない。だけど、負けてはいけないよ。人は、魔族は、災厄に打ち勝てるんだ。
「ジュレス……どうして君は……」
どうしてこうもルクスお兄さんを思い出させるんだろう。
「?」
「ううん、何でもない。……分かったよ、ジュレス。ぼくに出来る事があるなら、ぼくは反王政派の仲間になるよ。片目も、それでいいよね?」
そう言って片目の方を見ると、片目は黙って頷いた。
こうして、片目とクロは反王政派のメンバーとなったのだった。
「さて、そうと決まれば祭りだな。今日はクロと片目の歓迎会だ。きっとゼロ神官長が大張り切りするだろうからな。ものすげえ規模になると思うぜ」
「祭りか……いいな。久しくそういう催し物は参加してなかったからな」
「ゼロ神官長ってさっきの人? ここで一番偉い人なの?」
ジュレスはコクンと頷き説明を始めた。
「そうだな。このアジトの中では最高位の責任者だ。ただ組織全体で言えば3番目だな。上に司教と大司教がいる」
「大司教……凄い人なの?」
「ああ。コーデリック=フォンデルフ。反王政派穏健派の最高責任者にして、史上初めて魔王皇と契約を交わした人間さ」
「「コーデリック=フォンデルフ!?」」
クロと片目の声が綺麗にハモった。
「何だ? 知ってるのか?」
「ぼく達、その人に会う為にこの街に来たんだ!この手紙を渡す為に……」
そう言ってクロは懐から一通の手紙を取り出すとジュレスに見せる。
「……中身を見てもいいか?」
「いいよ」
ジュレスになら見せてもいいと思えたので素直に手紙を渡した。受け取った手紙を見始めたジュレスは、見る見るうちに表情を険しくさせていった。
「あの腐れ野郎ども……そういう事か。それでお前達はこの街に来たんだな……」
「うん……」
「クロ、俺はそのルクスって人に会った事は無えし、その場にいた訳じゃねえけどよ……」
「うん」
「惜しい人を亡くしたな……凄えと思うよ。たった一人で……」
「うん、ありがとう……」
クロは何だか嬉しかった。ルクスの事をジュレスが認めてくれたからだ。忌み子のジュレスが女神信仰者のルクスを素直に認めてくれた。それは、いつか魔族信仰者と女神信仰者が手を取り合える未来が来るのではないか、と儚い夢をクロに見せてくれた。
「それで、大司教には会えるか?」
片目がジュレスに尋ねる。
「しばらくは無理だな。大司教は忙しいからな。1ヶ月くらいすればこっちに来る予定になってる筈だが……」
「救世の天子が居るのを知ってもか?」
「恐らく予定を詰めて早めるだろうが、それでもすぐにって訳にはいかないだろうな」
そう言ってジュレスは持っていた手紙をクロに返した。
「ありがとよ、クロ。手紙は返すぜ。これは、お前が直接大司教に渡しな。きっと、それがいい」
「うん、ありがとう」
こうして、クロ達は大司教が来るまで地下大神殿で暮らす事になった。




