28.5話
ううん……なんだよ。五月蝿いなあ……
こっちは一世一代の大仕事を終えてやっと眠れたんだから邪魔しないでよ。
え?
なんで彼等と同行する事にしたかだって?
そんな事言われたって知らないよ。何となくそうしたかったからそうしたんだよ。君にだってあるでしょ? 感情のままに動きたくなる時がさ。
え? よく分からないって? 君は感情のない人形かなんかかい? 生きてて楽しいかい? それで。
……ちょっとからかっただけだろ? そんなに真剣に悩むなよ。調子狂うなあ。
ああ、なるほどね。それで君は僕に色々聞きたい訳ね。人間の感情ってのを理解するために。
まあ、いいさ。どうせ死んだんだ。時間はいくらでもあるし君の質問に心行くまで答えてあげるよ。何が知りたいの?
せっかく一生懸命立てた計画が失敗する可能性もあったのになぜ同行したんだって?
……それは、まあ、確かに、ね。
君の言う通りだよ。彼等自身も言っていた通り、もし彼等に荷物を持っていかれたら僕はどうするつもりだったんだろうね。月華美人はまた取りに行けばいいけど荷台や荷台を運ぶラクダはそういう訳にもいかない。盗まれて逃げられたら追いかける事もできないしね。
うーん、……一つ言えるのは僕が馬鹿だって事だよね。あれだけ人に騙されて苦しめられてきたのにそれでも信じる事を止められなかった。それが原因の一つかな。
もう一つは、彼等も僕に負けず劣らずの馬鹿だったからって事だろうねえ。同類に会えて嬉しかったっていうか……だって忌み子だよ? 僕の置かれてた境遇も酷かったけど彼等は多分それ以上だったんじゃない?
僕も人の事言えないけど会ったばかりの素性も知れない人間なんか信じちゃ駄目でしょ。
仮に僕が悪人だったとするよ? 僕に彼等を傷付ける事はどうやったって無理だろうけど、それでもやりようはあるんだよ? 例えば片目の目を盗んでクロを誘拐して売っちゃうとか。
あるいはもっと直接的にクロを犯してたかもしれないよ? 別に僕は同性愛者って訳じゃないけど相手がクロなら犯っても何もおかしくないよ。まあ、実際は死んでもやらないけどね。
何故かって?
僕と違ってクロは演技じゃなかったから。
……何が何だか分からない?
だからさ、僕はお人好しを演じてた部分もそれなりにあったんだよ。仕方ないじゃないか。色々酷い目にあってきたんだから。
でもクロは違う。おそらく僕よりもずっと酷い目にあってきただろうにちょっと優しくしただけで本気で嬉しがってたでしょ? そんな健気な子を襲える筈がないだろ? なんて可愛いんだろうねえ。生き残れてたらクロと結婚したかったよ。
……何言ってるのさ。ちゃんと真面目に話してるじゃないか。失礼な!
……はいはい、続きね。
普通は疑うもんなんだよ。相手の善意をさ。子供だって関係ないよ。あのくらいの年ならいじめだって平気でやるよ。子供は無垢だなんて言う人もいるけどさ。無垢ってのはまだ染まってないってだけの事さ。ほんの少しのきっかけで簡単に黒く染まるよ。透明と白は似てるようで全然違うんだよ。
クロは真っ白なんだよ。クロなのに。
……面白くない?
そうかなあ。ウケると思ったのに……
まあそれはそれとして、クロは僕以上に苦しんでるのに僕なんかよりずっと白い。僕の父さんの事で泣きそうになってた時は食べちゃいたいくらい可愛かったなあ……///
食人嗜好があるのかって?
……君はもう少し柔軟な思考を持った方がいいね。ものの例えだよ。まあ、性的な意味なら本当に食べちゃいたいけどね!
……そんな怖い目で睨むなよ。死んでも犯さないって言っただろ?
え? 嘘をつくから信用できないって? へえ、少しは人間ってのを理解できるようになったじゃないか。おめでとう。
……分かった。僕が悪かったから落ち着いて。2度も死にたくないよ。この状態で更に死ぬのかどうか知らないけど。
実際どうなの? 君なら知ってるでしょ?
自分にも分からない? 偉そうにふんぞり返ってる割には役に立たないね君。
……OK、分かった。まずその握りしめた拳をほどこうか。腕も下ろそう。あれだね。君はまず冗談を冗談として受け止められる広い心と冷静に人の話を聞ける耳を持とう。これは重要。テストに出るからね?
…………だからあ、冗談だから。メモする必要ないから。テストやらないから。OK?
……なんか君と話してると疲れるね色々と。お互い様だって? 僕等、あんまり相性良くないみたいね。
………………ふう、もうこれくらいでいいかい? じゃあ僕はもう寝るよ。早く父さんに会いたいしさ。
じゃあね、お休みなさい。




