27話
「ルクス……?」
そこに立っていたのはルクスだった。しかし……
今のルクスは今までと何かが違った。
「場所を変えようじゃねえか。人目につくと都合が悪い」
そう言って借金取り達はクロを連れて人気のない裏路地に移動した。
借金取り達の足が止まった事を確認すると改めてルクスは声をかけた。
「クロを放せ」
怒っている? いや、それも間違いではないけれども、正解ではない。ルクスはこんな表情をする人間だっただろうか。ルクスが今放っているのは殺気だ。
普段のルクスとの違いように借金取り達は戸惑っているようだ。しかし気を取り直したようで、ヘラヘラと笑いながら声をかけた。
「ようルクス。どうしちまったんだ? お前らしくもねえ。いつもの頼りねえ愛想笑いはどうした」
借金取り達の挑発にもルクスはじっと黙ったままだ。
「おいおい、随分と無愛想になっちまったもんだな。……だが忘れちまった訳じゃねえだろうな。てめえにはまだ借金が」
「関係ない」
ルクスが言い放った一言は借金取り達を黙らせるには十分だった。黙ってしまった借金取りにルクスは続けて言葉を放った。
「どうした? お前達らしくもない。いつもの気持ち悪いヘラヘラ笑いはどこに行っちまったんだ?」
いつものルクスからは想像もできない程に辛辣な言葉に誰も口を挟めなかった。
「おいおい」
ニヤリと笑って
「随分と頭が悪くなっちまったもんだな。挑発されてる事にも気付けねえとは」
この一言で借金取りが切れた。
「てめえ……分かってんだろうなあ。このガキがどうなっても構わないってのか?借金もまだ返せてねえ分際で偉そうにしやがってよ」
ニヤリと笑みを浮かべた借金取りは幾分かペースを取り戻したかのように見えた。
「ああ……分かってるよ。心配するな。その子はお前達のようなチンピラに傷付けられるような相手じゃない」
チラッと片目を見て
「その子に毛筋程の怪我でもさせてみろ。次の瞬間お前達の首は胴と別れを告げる事になるだろうぜ」
この言葉に借金取り達は取り戻そうとしていた余裕を失った。それは脅しでも何でもなく、純然たる事実である事を借金取り達も感じていたからだ。
銀狼族の片目は、いや、クロの保護者である片目はクロを傷付けた者を決して許さない。
「く……だがなあ、てめえにはまだ借金がまだ残ってんだ。そんなてめえがオレ達に逆らったら残された家族は」
「お前達は3つ勘違いしてる。」
そう言ってルクスは指を3本立てた。
「1つ、借金は月華美人ですぐに返せる。2つ、お前達はただのチンピラだ。何かあれば簡単に上から切り捨てられる」
借金取り達は黙ったままだ。それはルクスの言葉が正しい事を示していた。そして、3本目の指を折る。
「お前達は僕を舐めすぎた」
「何がどう舐めてるのか教えて頂きたいもんだなルクスさんよ。お前に一体何ができるっていうんだ?」
完全に舐めきった態度でそう言う。
「お前達を破滅させる事ができる」
間髪入れずにルクスは言い切った。
「お前達の企みは全部バレてるんだよ。父さんの事業を追い込んだのも、毒を盛って病気にさせたのも、妹達は最後はどう転んでも娼婦にさせるつもりだった事も、月華美人を狙ってサンドワームが襲ってくる事も、僕が失敗したら弟達を焚きつけるつもりだった事も! 全部、全部なあ!!」
あまりの内容に全員空いた口が塞がらなかった。借金取り達は自分達の企みが全部バレていた事実に。クロと片目はあまりの計画の鬼畜さに。ルクスは最後にクロと片目の方を見て辛そうに顔を歪める。
「そして僕が月華美人を持って帰れば、僕を殺して奪うつもりだった事も、な。後悔してるのは、僕の計画に関係ない人を巻き込んでしまった事だ。本当は全部自分だけでカタをつけるつもりだった」
「ルクスお兄さん……」
「ルクス……お前……」
何と声をかけていいか分からない。
「クロ……だから君が父さんの事で悩む事はないんだ。僕は父さんを救うつもりだった。そのつもりで計画を立てていた。だけど僕は救えなかった。誰も悪くないんだ。悪いのは父さんを救えなかった僕と全ての元凶である反王政派の連中だ」
その瞬間に借金取り達の顔色が変わった。
「て、てめええええ!! どこで! どこでその情報を手に入れやがった!!」
「素直に僕がそれを喋ると思うか?」
「クソッタレがあ!!」
借金取り達は顔を真っ青にしながら歯をガチガチ鳴らしていた。純然たる恐怖のために。そして恐怖を振り払うように1人がナイフを、もう1人がボウガンを取り出した。
「そうだ。ここで僕を殺しておかないと、どこに情報が漏れるか分からないぞ。かかってこいよ。ここで決着をつけよう」
ルクスはそう言うと腰に指していた短剣を抜いて構えた。
こうして借金取り達とルクスの戦いが始まった。